2024最新「NNB10キートレンド」でトレンド間の関連をつかむ!【前編】

メガトレンド①「ウェイトウェルネス&メタボリックヘルス」、メガトレンド②「健康に関する信念の細分化」

メガトレンド①「ウェイトウェルネス&メタボリックヘルス」では最近、話題になっている肥満症治療剤との関連はありますか?

まず、Walmart社(米国)のCEOはWall Street Journal誌で、新世代の糖尿病治療薬や肥満症治療剤の需要増加によって、「食品の需要がわずかに減退している」とコメントを述べました。ただし、このコメントは憶測を示したに過ぎず、菓子や清涼飲料水など一部のカテゴリーの売り上げでは減少する可能性があるものの、まだはっきりとしたことは分かっていません。

注目すべきは、このコメントとほぼ同時期に世界最大の再保険会社であるSwiss Re社が、「多くの研究者や食品業界にありがちな先入観に左右されることなくケトダイエットや低炭水化物食に焦点を当てる」と打ち出し、会議で議論されたということ。
食生活の改善は結果的に保険会社や決済者の利益となるため、保険会社のメタボリックヘルスに関する投資は今、非常に注目を集めています。

株式会社グローバルニュートリショングループ主催
「NNB 10キートレンド 2024 理解度アップセミナー」(2024年1月25日開催)講演資料より

メタボリックヘルスに関し、注目すべき新しい商品について教えてください。

メタボリックヘルス(代謝の健康)とは、身体がエネルギーをどれだけうまく作り出し、効率よく処理していけるかということです。実にアメリカ人の88%がメタボリックシンドロームとも言われ、ブレインヘルスなどにも影響を与えていると考えられています。
メタボリックヘルスは、血糖値の急上昇を引き起こさない食品を選ぶような習慣で容易に改善が可能です。また、血糖の測定にはCGM(持続血糖モニター)を使用し、プログラムやデバイスを連動させてパーソナライズされた低炭水化物食のプログラムを得ることもできます。

メタボリックヘルスを訴求した食品やアプリケーションは続々と登場しており、今後もっと増えるでしょう。現に、“メタボリックウェルネス”という言葉はソーシャルメディアによって拡散中です。CGMを通して食材や食事の代謝がダイレクトに身体へ及ぼす影響を分析し、さらには保険会社も提携するようなプログラムは、日本でもこれから間違いなく普及していくと考えられます。

「ウェイトウェルネス&メタボリックヘルス」の戦略で、押さえておくべきことを教えてください。

ウェイトウェルネスは特定の商品やサービスに依存するのではなく、消費者が自ら情報を集めて良いと思ったものを選び、ライフスタイルのなかで創造するもの。つまり、このトレンドの背景には特定の商品やプログラムに頼る人が減少しているということを意識し、戦略を練ることが重要です。

押さえておくべきことは、体重を気にする消費者が大多数であるという事実と、ウェイトウェルネスは特殊な食事ではなく日常の一部であるということです。

一方の、メタボリックウェルネスに対する消費者の認識はこれから徐々に高まり、血糖値の影響にも多くの人が注意を払うような時代になるでしょう。消費者がおこなうアプローチには、カロリー摂取量や脂肪あるいは野菜の摂取量の調整、断食やファスティングをするなど様々な考え方があります。

これらのアプローチはますます細かくなることが予測され、1つのベネフィットしか持たないようなブランドは、複数のベネフィットを備えるブランドに比べて販売力は弱まっていくでしょう。

この傾向は、より洗練された乳製品やナッツ、果物などリアルフードやホールフードを扱う企業にとっては長期的なチャンスです。また、バーや朝食用シリアルなど調理済みの食品開発企業においては原料を厳選した商品、かつ、美味しさの追求といった視点は避けて通れません。ただ、この変化はゆっくりと進化するため、見切り発車せずにじっくりと取り組んでください。

続いて、メガトレンド②「健康に関する信念の細分化」には、どのような背景がありますか?

「健康に関する信念の細分化」は強力かつ広範囲に及ぶメガトレンドで、すべての企業においてこの変化に適応する必要があります。例えば、グルテンフリーのように「○○フリー」といった特定の食事スタイルが大衆化すると決め込んだ戦略はもはや通用しません。
その主な要因は2つあります。1つはインターネットで、人々は自ら調べて信頼できると思う情報源を見つけて判断し、食生活をパーソナライズできる時代になったということ。
もう1つは、ソーシャルメディアがほとんどの消費者にとって、重要な情報源となっていることです。

これはつまり、いわゆるインフルエンサーマーケティングが最も強力な手段と言い換えることもできるでしょう。さらに、インターネット上の有名人が専門職としての肩書を持ち、医療系の情報発信にも長けている場合、大きな影響力を発揮することになります。

株式会社グローバルニュートリショングループ主催
「NNB 10キートレンド 2024 理解度アップセミナー」(2024年1月25日開催)講演資料より

ソーシャルメディアやインフルエンサーが、市場に与える影響について教えてください。

例えば、米国市場でここ数年あまり伸びていなかったカッテージチーズの売り上げが4.7%も増加したのは、カッテージチーズのスナック化に加えてこれを支持する層が出現したから。その層の背景にあるのがソーシャルメディアです。
最もフォロワーの多いインフルエンサーの中には生化学や栄養科学、医学に関する専門知識を持ち合わせている人も多く、彼らからの情報発信は消費者に信憑性を与えます。加えて、アドバイスの根拠として、信頼できる科学を用いて解説しているのも特徴です。

また、欧米では科学の分かるインフルエンサー(サイエンスライターと呼ぶ)も多く、英語で書かれた最新の論文を解読し、一般消費者向けに情報発信をおこなっています。これに対し、1961年の飽和脂肪酸の事例(下図参照)などにより、行政など公共団体から発信される情報の信用性は低下しつつある傾向です。

株式会社グローバルニュートリショングループ主催
「NNB 10キートレンド 2024 理解度アップセミナー」(2024年1月25日開催)講演資料より

「健康に関する信念の細分化」の分野で成功するには、どのような視点が必要でしょうか?

NNBの5か国調査(アメリカ、イギリス、オーストラリア、スペイン、ブラジル)によると、世代や性別で分けることは不可能で、個人の価値観や行動様式は異なり、平均的な消費者はいないと言われています。これに対し、我々が発刊している「ウェルネストレンド白書」では、価値観や行動様式で健康セグメントを定義、分類が可能です。
この「健康に関する信念の細分化」はすべての分野における課題でもあり、同時にチャンスでもあります。20年前のように初年度で何億円といった大規模な売上げは期待できないものの、ベネフィットを上手く組み合わせてできるブランドは複数のターゲットへのアピールが可能です。

したがって、経営陣は平均売上について過去よりも低下していることを念頭に置きながら、成功の基準を改めて考え直すということが必要でしょう。長期的な成功を収めるには、細分化した消費者の信念が存在する市場を見極め、適応していくことが不可欠です。

メガトレンド③「天然の機能性」、メガトレンド④「スナック化は戦略の基軸」、メガトレンド⑤サステナビリティ

メガトレンド③「天然の機能性」について、機能性表示なども含め、国内外における違いを中心に教えてください。

いま、人々が最も求めているのは自然で本質的なものとそのベネフィットです。そして機能性表示(ヘルスクレーム)に対しては、日本と海外で大きな温度差があります。その背景として、欧米や米国ではメディアが率先して消費者に対し素材の良さを伝え、それを見た消費者が自ら選ぶという流れがスタンダードです。とくに欧米では、「ヘルスに依存すると成功しない」とまで言われています。
そうした国ではデーツやチアシードなど、あらゆる食品を、“天然のベネフィットの担い手”と認識し愛用しているのです。つまり、日本と違って海外では、天然の機能性食品は科学的に証明されたベネフィットを必要としていません。

メガトレンド④「スナック化は戦略の基軸」について教えてください。

スナック化のトレンドは引き続き、あらゆるカテゴリーで原動力になります。例えば、プロテイン需要が増加した要因の1つは、おいしいスナックの形で提供されたからです。プロテインシェイクだけでは、これ程までにマーケットは成長しませんでした。消費者にとっておいしくて、かつ目新しいと感じるようなスナックを開発することが成功の鍵です。

目新しいものでは、高プロテインかつ低糖質に加えて罪悪感なく食べられるプリンや、チーズとナッツにドライフルーツを1つのパックとして持ち運び可能にした商品など。また、血糖値の急上昇を避けるというベネフィットを備えたクッキーやビスケットは、10年に及ぶ息の長い商品です。

スナック化では、どのようなことに注意して展開すれば成功に近づけますか?

2024年版では、スナック化における戦略を成功させるためのチェックリストについても記されています。そのリストのなかで先頭にくるのが「味と喜び」で、これは健康よりも重要な立ち位置です。

つまり、日本ではヘルスベネフィットに関心の高い層が一定数以上いるものの、スナック化において栄養については購入の主な理由ではなく二次的なもので、喜びや楽しみを許容するような提供方法が求められます。

一方、日本が得意とするサラダチキンやバーなど、既存の伝統的な食品を食べやすく便利なものに作り変えるという点では、消費者の想像を超えるような提案が必要です。
これらを主要な10キートレンドと結びつけ、適切な棚への陳列やサンプリングから小売りに転じるなど、段階的な展開をするようなマーケティングも有効でしょう。

スナック化を成功させるための8つの要素はこちら

メガトレンド⑤「サステナビリティ」でも、国内外で何か違いがあるのでしょうか?

「サステナビリティ」もすべてのトレンドで影響を与える存在ではあるものの、これが購買において最も強い原動力となるのはごく一部の層です。消費者が意識しているのは最初に味や価格、続いて健康に良くて便利、そして最後にサステナビリティを重視するといった順番。つまり、「サステナビリティ」は意思決定における1つの要素に過ぎず、その優先順位は決して高くありません。

株式会社グローバルニュートリショングループ主催
「NNB 10キートレンド 2024 理解度アップセミナー」(2024年1月25日開催)講演資料より

これを国内外で比較した場合、海外における消費者では、「企業がサステナビリティに取り組むのは当たり前、だからといって選ぶわけではない」というようなイメージです。対する日本の消費者では、サステナビリティやSDGsというキーワードそのものがまだ目新しく、一時は期待が高まっていました。ただし、欧米の事例を見れば過度に期待はしない方がよいでしょう。

このサステナビリティによる認証は、いわば保険です。消費者が商品を選ぶ1つの助けにはなるものの、ニッチな消費者以外における販売増加や価格の向上は難しいでしょう。一方で、動物性プロテインを好む層に対しては、サステナビリティに取り組むことで罪悪感なく食べられるようなアプローチとなるため有効といえるでしょう。

武田猛氏 プロフィール

株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役。
18年間の実務経験と20年間のコンサルタント経験を積み、38年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外750以上のプロジェクトを実施。「世界全体の中で日本を位置付け、自らのビジネスを正確に位置付ける」という「グローバルセンス」に基づき、先行する欧米トレンドを取り入れたコンセプトメイキングに定評があり、数々のヒット商品の開発に関わる。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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