食とウェルネスに関する顧客の変化がダイレクトに「ウェルネストレンド白書Vol.3」注目データ

一般社団法人ウェルネス総合研究所は、20代~70代、約4800名の生活者の健康・ウェルネスに関する意識と行動分析に基づき、今後予測されるヘルス・トレンドシナリオを洞察した調査レポート『ウェルネストレンド白書 Vol.3』を2023年10月2日に刊行しました。本調査の設計、調査、分析を行ったウェルネス総合研究所の主席アナリストである青木健氏と白井俊行氏に、今回の調査結果の注目ポイントについてうかがいました。

注目ポイント1:見た目の意識は健康意識・健康行動と相関

今回の白書での新たな気づきについて教えてください。

まず、「見た目(POA:ペース・オブ・エイジング)の向上」に関する生活者の意識です。今回の調査では、具体的にどの年代、どんな人が「実年齢よりも若く見えること」を意識しているかを調べました。その結果、年齢を問わず、健康意識が高く健康的な行動をする人ほど見た目を重視する傾向がみられました。「健康無関心層」の結果はある程度予想通りでしたが、「健康ストイック層」よりも「健康コンシャス層」の方が見た目に対する意識が高いことは意外でした。この要因のひとつに、「健康コンシャス層」に占める女性比率が高いことがあるでしょう。年代別では、「見た目を気にしている」割合は20代女性の82%が一番高く、年齢が上がるにつれてどんどん下がっています。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

「見た目の向上」は、アンチエイジングとは異なる考え方なのでしょうか?

「老化抑制」や「アンチエイジング」と聞くと、年代がある程度上の人が取り組むことだと思われがちです。また、若年層からすると、アンチエイジングは「老いに抗う」というイメージがどうしてもあるため、自分にはまだ必要なく関係ないことだと思うでしょう。しかし、最近ではアンチエイジングが「QOL改善」として捉えられる傾向があります。昔とはイメージも考え方も変わってきたと言えるかもしれません。

一方、POAのポイントは「見た目の向上」だけに焦点が置かれていることです。今回の調査で、見た目を気にしている年代は20代が一番多く、50代を超えるとあまり気にしなくなることがわかりました。POAというのは、つまり老化のペースです。年齢を問わず早いうちから対策しておけば効果が得られるため、考え方として非常にわかりやすい点も魅力です。「いつかやろう」ではなく、「むしろ今だ!」と思わせるような点で、POAの活用は新たな商品開発の可能性として十分にあると考えています。

注目ポイント2:食に対する興味と健康意識のつながり

そのほかに、今回注目されたポイントはどこですか?

食事マネジメントです。健康セグメント別の比較でみるとPOAと同様に、「健康ストイック層」「健康コンシャス層」「コツコツ健康層」といった健康意識、行動力が高い人ほど食事の機会を大事にしているという相関関係がみえました。健康セグメント別の比較では、「健康ストイック層」、「健康コンシャス層」、「コツコツ健康層」で、食事マネジメントや食事に対しての意識がある程度高いという結果が得られました。

また、これらの層では、栄養バランスだけではなく「おいしく食べることを重視している」や「誰かと一緒に食べたらおいしいと思う」といった食事を楽しみたいという意識が他のセグメントよりも高く、食に対する興味が健康意識と紐づいていることが考えられます。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

食事に対する意識は年齢により変化しますか?

年齢別にみると、男女ともに「おいしく食べることを重視している」、「楽しく食事することを重視している」といった要素が50代にかけて低下し、その後上昇に転ずるという面白い傾向がみられました。20代の頃に重視していた要素が年を重ねるごとに軽視されていくのですが、50歳を過ぎたあたりからその要素が重要だと再認識されていく傾向は非常に興味深い点です。特に男性の場合、「誰かと食べたいと思う」という設問では、50代を過ぎて特に急激な上昇がみられます。孤食はうつ病のリスクを高めます。「健康的な食品」の提供も大切ですが、「健康的な食事」の機会の提供に着目する方がより健康的な生活ができると考えています。つまり「食品」ではなく「食事」に重点を置くことです。

「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」は、特定保健用食品や機能性表示食品の前提条件です。しかし、食事への関心が低い人、いつも一人でご飯をかきこむように食べている人に対しては少々高すぎるハードルかもしれません。そのため、まずは食事そのものへの関心を上げていき、結果として健康意識につなげていければと思っています。そして、その先に健康関連商品があるといいというアプローチです。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

注目ポイント3:健康情報は食後のテレビで情報入手

商品購入場所については興味深いデータが得られましたか?

今回、生活者が商品を実際にどこで購入するかを聞いています。この情報は、前回までの白書でもニーズのあったものです。全体としては、どの健康セグメントでもスーパーやドラッグストアといった小売店や電子商取引(EC)が多い傾向にあります。気になった商品が地元のすぐ手が届く距離にあることは、いい意味で環境が整っているということです。健康セグメント別にみると、「トレーニング大好き層」で面白い動きがみられます。このセグメントでは、テレビショッピング、新聞雑誌広告、折り込みちらし、メーカーのSNSといったほかのセグメントでは低かった購入チャネルが高い比率を示しました。「トレーニング大好き層」は情報のキャッチ力やアンテナの感度がもともと高いだけでなく、いいと思ったらすぐ買って試してみる行動力があることが理由だと思います。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

健康に関する情報摂取場所とタイミングについてはいかがですか?

テレビ番組、テレビCMが重要な情報源として未だに一番割合が高いという結果が出ました。これは、全てのセグメントに共通しています。情報の信頼性の面でもトップです。健康関連の情報入手のタイミングでは、「夕食後、就寝前まで」が圧倒的に多くみられました。時間にするとだいたい18~19時から21~22時の間、いわゆるテレビのゴールデンタイムやプライムタイムとほぼ同じ時間帯ですね。テレビの視聴率とおおむね相関するような形でしょうか。次いで朝食後、昼食後に情報を摂取する割合が多くみられました。全体的に、食事中や食事前よりも食後や食後の休憩時間に情報を入手することが多いようです。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

ヘルスベネフィットに依存しすぎないマーケティングのための3つの視点

機能性食品を取り巻く状況に変化はみられますか?

サプリメントを含む機能性表示食品の売上は、2021年の4938億円から2022年の6242億円へと約26%伸びています。一方、実際の累積届け出数ベースと売上ベースで見ると、昔ほどは売れなくなってきています。その理由としては、個別機能へのオーバーコミットメントや「これをひとつだけ摂れば十分です」という簡便性や利便性への期待が過度に高まっているのかもしれません。同時に、良くも悪くも結果にコミットしすぎると継続されづらく、その中で競争が激化している印象です。これは必ずしも悪いことではありません。特定効果へのコミットメントや個別機能へのアプローチは大切で、健康効果を期待させることも間違いではないからです。ただ、それで差別化できるかというと別問題で、ヘルスクレームに依存しすぎると失敗する例が多いことも事実です。とはいっても、現実的にはベネフィットを示さないと消費者は買ってくれない、競争市場で勝てないというジレンマも無視できない点だと思います。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

競争が激化する市場で勝つためには、何が必要でしょうか?

マーケティング的な視点も踏まえた戦略の打ち出し方、ヘルスベネフィットに依存しすぎないやり方が必要です。つまり、視点を変えてみることです。新たなアプローチとして、「健康行動の選択肢を広げるような提案」、「体・心への作用機序に基づくアプローチ」、「体にいいことをしているというイメージ」といったことが挙げられます。

具体的にはどのようなことに心がければよいのでしょうか。

ウェルネストレンド白書Vol.3 発刊記念セミナー講演資料より

まず、「健康行動の選択肢を広げる」とは、ある健康的な目的意識における制約が緩和されるということです。例えば、「もう少し痩せたい」という意識をもった人は、「糖質を多く含む食品を食べてはいけない」といった情報に接することで、食事の選択肢が狭まります。そのような中で、「糖質の吸収を抑える」という提供価値があれば、自分に課していた食事に対する制約が緩和され、食事を楽しめる余裕が生まれます。このように「痩せるためにこの商品を摂りましょう」といった特定効果に期待させる伝え方ではなく、「食事を楽しむための提案」として商品が存在している方が、継続的に利用されやすいと考えられます。

二つ目の「体・心へのアプローチ」は、その商品が体のどこに、どのように働くのかという新しい視点を与えることです。体質を整えてくれる、体全体に効いてくれるといった内容を丁寧に伝えることで、何か体にいいことをしているという期待から選ばれやすくなる可能性があります。

三つ目の「体にいいことをしているというイメージ」は、素材の持っているストーリーを伝えることにより信頼を得ることです。これにより、「体全体にいいことをしている」という意識が生まれます。ヘルスクレームなしでも、素材が持っている特性をわかりやすく伝えることによって、国民全体のリテラシーや健康対策の知識が高まります。例えば「コラーゲン」と書かれているだけで、どんな働きをしているかが思い浮かぶようにすることです。結果的に、個別機能にコミットしなくても「これは体によさそうだ」と思って買ってもらえるようになります。

こういった三つの視点を持ち、生活者に正しい知識を提供しながら商品を販売していくマーケティング戦略が勝利への鍵になるでしょう。先ほど申し上げた食事を楽しむという点からは一見遠いようにみえるかもしれませんが、最近注目されている「ウェルビーイング」や「ウェルネス」といったベネフィットと関連付けて考えていくと、コミュニケーションの取り方ももう少し変わってくると思います。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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