たんぱく質の必要性とその摂り方の秘訣
~毎日を元気に生きるために~

昨今、たんぱく質(プロテイン)の重要性について広く知られるようになり、たんぱく質補給商品の市場規模は10年前と比べて約3倍の1888億円まで成長。その7割をたんぱく質を効率良く補給できるプロテインパウダーなどが占めています。こうした商品のユーザーへの調査によると、たんぱく質補給の目的は「筋肉増強」という人が最多で54%にも上る一方、「栄養補給」のために摂る人は9%、「健康維持」のために摂る人は4%と、決して多くありません。たんぱく質はアスリートや運動愛好者が摂るものであり、一般の人、とくにシニアが積極的に摂るべき栄養という認識は、いまだ定着していないのです。

たんぱく質を一般の人の生活や健康維持のためにどう役立てていけばよいのでしょうか。そして、たんぱく質を手軽かつ効率よく摂るためにはどうすればよいでしょうか。栄養を通じて心身の健康づくりに取り組むひめのともみクリニック院長の姫野友美先生に聞きました。

たんぱく質の役割(1)体をつくる

異化=同化のバランスを保つ

私たちの体は、常に「異化」と「同化」をくり返して作り替えられています。異化とは体が壊されること、同化とは体を作ることです。異化と同化のバランスがとれていれば健康は維持されますが、異化が同化を上回ると体が修復されず、病気や老化の原因になってしまいます。異化と同化のバランスを保つために必要なのが栄養素、その一つがたんぱく質です。

私たちの体は60%が水分、20%がたんぱく質でできています。このたんぱく質には大きく分けて、2つの役割があります。1つは「体をつくる」こと、もう1つは「体で働く」ことです。まず、「体をつくる」というたんぱく質の役割についてお話しします。

脳の40%はたんぱく質

たんぱく質といえば筋肉というイメージですが、ほかにも脳、血液、血管、内臓、皮膚など体のすべてがたんぱく質で作られています。例えば、脳は40%がたんぱく質で構成されています。骨を建物に例えると、鉄筋にあたる部分がたんぱく質の一種であるコラーゲンで、その周りのコンクリートがカルシウムや鉄、亜鉛。たんぱく質が不足すると脳の働きが低下しますし、骨はもろくなり、骨折のリスクが高まります。

たんぱく質の役割(2)体で働く

たんぱく質が薬を届ける

たんぱく質は酵素、ペプチド、ホルモン、免疫細胞、神経伝達物質等の主成分として、代謝や免疫といった機能を助けるなど、体内でさまざまな役割を果たしています。例えば、薬を服用したとき、薬の成分は標的細胞にダイレクトに届くのではなく、たんぱく質に結びついて運ばれます。薬だけでなく、細胞に栄養や酸素などを届ける役割をもつものを「輸送たんぱく質」といいます。輸送たんぱく質にはアルブミン、ヘモグロビン、ミオグロビン、リポたんぱくなどがあります。

たんぱく質で脳の働きを整える

食事からたんぱく質を摂ると体内でさまざまな種類のアミノ酸に分解され、アミノ酸はさまざまな物質に再合成されます。ここから、私たちの精神状態に関連する「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」などの神経伝達物質とたんぱく質の関係を見てみましょう。

アミノ酸の一種「フェニルアラニン」はナイアシンやビタミンB6、葉酸、鉄、亜鉛と結びついてドーパミンになります。ドーパミンは食欲や性欲に関与する物質で、ドキドキワクワクしたときに放出される物質です。ドーパミンにビタミンCが結びつくとノルアドレナリンとなり、注意力や判断力、気力などが発揮されます。「トリプトファン」というアミノ酸はセロトニンの材料です。セロトニンは安心や落ち着きに関わる物質で、さらにマグネシウムと結びつくと「メラトニン」に変わります。メラトニンは睡眠に関わるホルモンです。メラトニンが十分に分泌されると質の良い睡眠がとれて、目覚めがよくなります。このように、たんぱく質は脳の状態を整えて毎日を気分よく過ごすためにも欠かせないのです。

免疫とたんぱく質

免疫のバリアはたんぱく質からできている

コロナ禍で免疫に注目が集まっていますが、多くの研究から、免疫を働かせるために摂るべき栄養の第1はたんぱく質ということがわかってきました。たんぱく質をしっかり摂っている人は新型コロナウイルスに感染しにくく、感染しても重症化しにくいといわれます。なぜなら、免疫の“3つのバリア”はいずれもたんぱく質でできているからです。

免疫の3つのバリア。その第1は、皮膚や粘膜、粘液による「物理的なバリア」です。第2は「自然免疫」。好中球やマクロファージがウイルスなどの異物を発見すると食べたり壊したりして、異物を体内から排除します。第3が「獲得免疫」。免疫グロブリンなどの抗体、リンパ球が一度出会ったことのある敵(ウイルスなど)を攻撃し、感染を防ぎます。皮膚や粘膜、粘液、白血球(好中球、リンパ球、マクロファージなど)、免疫グロブリン……これらはすべて、たんぱく質からできています。たんぱく質が足りないと、細菌やウイルスなどの敵から体を守ることができません。

ストレスを感じたらたんぱく質を補給

ここで、第1のバリアである粘膜の仕組みをもう少しくわしく見ていきます。粘膜は粘液層に覆われていて、そこにIgA(免疫グロブリンの一種)という抗体が多量に含まれています。IgAは体内で2番目に多い抗体で、さまざまな抗原に反応することが特徴です。IgAは主に腸管でグルタミンというアミノ酸とビタミンAから合成され、全身の粘膜に分泌されて体を防御します。ところが、ストレスが加わるとIgAの分泌が減ります。下のグラフは、怒りを感じたときに唾液中のIgA分泌量が低下したことを示しています。つまり、ストレスは免疫力を低下させてしまうのです。

IgAの材料であるグルタミンは、リンパ球の増殖や活動亢進などにも関わり、免疫に大きな影響力をもっています。しかし、ストレスが加わると体内のグルタミン濃度が低下し、結果として免疫力が低下してしまいます。ストレスを感じたときはたんぱく質を摂ってグルタミンを補給し、免疫力を低下させないようにしましょう。

シニア世代とたんぱく質

シニア世代にたんぱく質が必要な2つの理由

たんぱく質というと筋肉やスポーツというイメージがあるせいか、シニア世代はたんぱく質についてあまり関心がなく、積極的に摂りたいと思う人も少ないようです。しかし、シニア世代はむしろ、若い世代よりも多くのたんぱく質を意識的に摂るべきです。主な理由は2つあります。

まず、前述したようにたんぱく質は脳の主要な構成成分であること。認知機能を維持するためにも脳にはたんぱく質が必要ですし、たんぱく質はメラトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の材料でもありますから、気分を安定させるのに役立ちます。さらにたんぱく質は神経栄養因子にもなります。この物質は、脳の神経細胞の発生や成長、維持、再生を促します。神経栄養因子が増えるとストレスに強くなり、うつになりにくいというデータもあります。

2つ目の理由は、高齢になると筋肉が作られにくくなることです。若者の場合、1回の食事で体重1kgに対して0.24gのたんぱく質を摂ると一定の速度で筋肉が合成されます。一方、シニアが若者と同じ速度で筋肉を合成しようと思うと、1回の食事で体重1kgあたり0.4gのたんぱく質が必要です。つまり、体重50kgの人の場合、若者なら1食で12gのたんぱく質をとればよいところ、シニアは20gのたんぱく質を摂らなければなりません。

たんぱく質の効率の良い摂り方

シニアになると、食が細くなりますし、調理が面倒になりがちです。単に「たんぱく質をたくさん摂りましょう」といっても、なかなか難しいのが現実です。では、1食でたんぱく質20gを確保するにはどうすればよいでしょうか? 3つのポイントを紹介します。

1)良質なたんぱく質を選ぶ

まず、良質なたんぱく質を選ぶことです。良質なたんぱく質とは、「プロテインスコア」の高いたんぱく質のことです。たんぱく質はさまざまなアミノ酸から構成されていますが、アミノ酸の中でもイソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、ヒスチジン、含硫アミノ酸、スレオニン、バリン、トリプトファンの9種類を必須アミノ酸といいます。プロテインスコアが高いとは、この9種類がバランスよく含まれているということです。プロテインスコアは概して、植物性食品よりも動物性食品(肉や魚、卵、乳製品)のほうが高くなっています。また、市販のプロテイン食品はプロテインスコアが高くなるように調整されています。こうした食品や動物性食品を積極的に摂ると、たんぱく質を効率よく摂取できます。

2)動物性と植物性は2:1

私は1食の中で、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を2:1のバランスで摂ることを推奨しています。動物性たんぱく質のうち、肉と魚の割合は1:1です。動物性たんぱく質については、全たんぱく質に占める割合が50%未満だと平均寿命が短く、70%以上だと動脈硬化のリスクが高くなるという報告があります。日本人の平均は50〜60%ですから、あと少し、動物性たんぱく質を意識して摂るとよいでしょう。

1日に摂りたいたんぱく質を、食品としてあげてみました。次のような食品を3回の食事と間食に振り分けて、1日のうちに摂ることを心がけましょう。

3)たんぱく質を摂るなら朝がベスト

ある調査によると、男女ともに全世代で、朝食でのたんぱく質摂取量が1日3食のなかで最も少ないことがわかりました。しかし、筋肉をつくるには、朝のたんぱく質摂取が最も重要です。2つの試験データをもとに解説します。

まず、1日3食のうち、朝食・昼食・夕食のどれか1食だけ十分なたんぱく質(体重1kgあたりたんぱく質0.4g)を摂れている人について、筋肉量・握力・骨格筋指数(SMI/四肢の筋肉量の合計を身長(m)の2乗で割った値)・歩行速度を比較しました。その結果、朝にたんぱく質を十分摂っている人が筋肉量・握力・骨格筋指数が有意に高いことがわかりました。つまり、たんぱく質摂取量を増やすなら、朝がベストタイミングなのです。

これは、筋肉の合成には体内時計(筋体内時計)が関わっているからだと考えられています。活動期の始まりである朝にたんぱく質を補給し、昼から夜には活動によって筋肉が壊れる。夕方には運動をして筋肉を刺激する。夜間には、筋肉が分解されたアミノ酸を再利用して(オートファジーの作用)新たな筋肉を作る。これが、筋肉を効率よく合成するために最適な体内時計のリズムです。

毎朝の食事にプロテインパウダーをプラス

別の試験で、朝のたんぱく質摂取量が少ない高齢女性に10gの乳由来プロテインパウダーを3カ月間、朝食または夕食で摂ってもらいました。その結果、やはり朝摂った人たちのほうが四肢筋肉量や四肢骨格筋量指数(ASMI)が有意に増加しました。

たんぱく質は摂取が難しい栄養素ですが、プロテインパウダーを加えることで朝食でも手軽にたんぱく質摂取量を増やすことができます。例えば私は朝食に、豆乳ヨーグルトにプロテインパウダーを15g加えたものを摂っています。これで10gのたんぱく質を補給することができます。調理することが難しい高齢者でも活用できるので、積極的に取り入れてみると良いでしょう。

(姫野先生の実際の朝食例)

姫野友美先生 プロフィール

ひめのともみクリニック院長/心療内科医
東京医科歯科大学医学部卒業。九州大学医学部付属病院心療内科などを経て、2005年ひめのともみクリニック開設、2006~2021年日本薬科大学漢方薬学科教授在任。ストレスによる病気・症候群やオーソモレキュラー栄養医学に基づいた「栄養療法」などに関するコメンテーターとして各種メディアにて活躍中。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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