たんぱく質補給商品市場は10年前の3倍に
改めて考えるたんぱく質の重要性と健康長寿との関係

私たちのカラダを作り、動かすために欠かせない栄養素「たんぱく質」。さまざまなメディアでその重要性が語られ、健康食品市場においても、たんぱく質補給商品市場は10年前の約3倍以上になるなど、常に注目を集めています。ただ一方で、ウェルネス総研の消費者調査によると、「たんぱく質は筋肉を作るもの」「スポーツをする人がプロテインで補う栄養素」というイメージが強く、20〜30代に比べると、60〜70代のシニア層の摂取意向・摂取率は低いのが現状です。

たんぱく質は、健康長寿を考える上で、必要不可欠な栄養素であり、特に、高齢者の摂取意向・摂取率をどう上げるかが課題の一つと言われています。
たんぱく質の機能性とともに、より簡単に効果的に摂取するための方法について、「たんぱく質と筋肉」の生理機能に詳しい立命館大学スポーツ健康科学部の藤田聡先生と、「食と栄養」に詳しい栄養士の佐藤秀美先生にお話を伺いました。

筋肉だけではない、たんぱく質の生理機能とその付き合い方

たんぱく質の機能性や、高齢者におけるたんぱく質摂取量の現状と課題、正しい摂取方法などについて、立命館大学スポーツ健康科学部の藤田聡先生にお話を伺いました。

カラダはたんぱく質でできている

5大栄養素の一つであるたんぱく質の働きは大きく2つ。1つ目は「糖質や脂質とともにエネルギーのもとになる」、2つ目は「体をつくるもとになる」。特に、2つ目におけるたんぱく質の重要性は、たんぱく質の働きを理解する上で押さえておくべきポイントです。

「『筋肉をつくる』というイメージが強いたんぱく質ですが、例えば、カルシウムをイメージしがちな骨の構造にも、たんぱく質が欠かせません。肌の柔らかさや弾力性を維持するコラーゲンやエラスチン、精神安定に必要なドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の生成にも、たんぱく質が必要です。『カラダはたんぱく質でできている』と言っても過言ではないほど、さまざまな機能や組織の多くにたんぱく質が利用されています」。

食事などから体内に取り入れられたたんぱく質は、消化器官でペプチド、アミノ酸に分解され小腸の粘膜に吸収されます。そして、必要とする組織に必要な量だけ取り込まれて新しいたんぱく質を作るのに利用される。この分解と合成を繰り返すことで、さまざまな体の組織が機能しているのです。

免疫細胞を作るのもたんぱく質

近年、注目されているキーワード「免疫細胞」を作る時にも、たんぱく質が重要な働きをしていることが明らかになっていることが紹介されました。たんぱく質が不足していると、ワクチンを打ってもうまく抗原を作ることができず、インフルエンザなどの疾患にかかりやすくなることが示唆されています。免疫力を上げるという観点からも、たんぱく質の摂取は重要だと考えられています。

サルコペニア、フレイル、生活習慣病の予防にもたんぱく質が欠かせない

そして、現在、その予防法や対策が早急に求められている「サルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)」や「フレイル(加齢による心身の衰え)」、「ロコモ(運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態)」においても、たんぱく質が重要な役割を担っているのだとか。

「1日1万歩を歩いている方でもやはり加齢に伴い筋肉量は低下します。また、筋肉の細胞の中に脂肪が入ってくることで、インスリンの抵抗性が上昇し、糖尿病のリスクを高めます。さらに、加齢による筋肉量の低下、筋肉自体の機能の低下が原因で、転倒などが起きやすくなり、そこからの骨折や寝たきりなる可能性も高くなります。このようなことから、サルコペニアやフレイルの予防にたんぱく質が重要な役割を担っていることが分かっていますが、それだけでなく、たんぱく質が不足すると、糖尿病や生活習慣病の発症リスク、死亡リスクも上がってしまうことが明らかになっています」

最近のコホート研究によると、太ももの太さが全身の筋肉量と関係しており、太ももが細い人ほど全身の筋肉量が少ないことが分かったそうです。そこから、糖尿病の発症リスクを調べたところ、太ももが細い人の方が、発症リスクが高いということがわかりました。

また、除脂肪体重(体重において、体脂肪以外の筋肉や骨、内臓などの総重量)と総死亡リスクの関係を調査したところ(平均年齢60歳の男性800人を対象に20年以上追跡調査)筋肉量の少ない人ほど総死亡率が高まるということも明らかになってきています。

このようなことからも、特に高齢者の方においては、筋肉量を守るということは、健康維持、機能的
な維持、死亡リスクの低下にとても重要であると考えられます。

2020年から、1日の目標摂取量がUP。約7割の人が不足

日本人の「食事摂取基準2015年度版」によると、体重に対して13〜20%のたんぱく質摂取が推奨されていましたが、2020年に、50〜54歳以上においては14〜20%、65歳以上においては15〜20%と引き上げられました。数値の改訂理由は、フレイルやサルコペニアなど、虚弱な高齢者の予防に、たんぱく質の摂取が重要という研究データが報告されたことが大きいと藤田先生は言います。

「性別や活動量によって幅はありますが、この目標摂取量は、実際に摂ろうとすると結構な量です。これらの量がきちんと摂れているかを調べたところ約7割の人が目標量を達成できていない、つまりたんぱく質不足ということが分かりました」

不均等なたんぱく質摂取は逆効果。毎食での摂取が重要

1日の総摂取量だけではなく、同時に、意識すべきポイントは「一食一食のたんぱく質摂取の重要性」です。その理由は、不均等なたんぱく質の摂取が、筋肉量低下リスクにつながるからです。

藤田先生の調査研究によると、十分な量の筋肉を作るためには、1回の食事で、体重に対して0.4g摂取すべきということが分かっています。例えば体重が50kgの方の場合は20g、70kgの方は30g。この量を朝、昼、晩でしっかり摂ることによって、「筋肉を作ろう」という刺激が一日3回、体に入ることになります。

ところが、例えば夕食だけしっかりたんぱく質を摂取するというような不均等な摂取の仕方をしてしまうと、一日のトータル量が足りていても、高齢者においてはフレイルになるということが報告されています。また、大学生を対象に行った調査でも、1食でもたんぱく質が足りていない学生と、毎食足りている学生を比べると、摂取量の合計は同じでも、摂取量に偏りがあると、全身の筋肉量が少ないということが分かっています。

たんぱく質の「質」を決めるのはロイシン

たんぱく質を摂取するときに意識すべきもう一つのポイントは、たんぱく質の「質」です。たんぱく質の合成には、「mTOR(エムトール)」というたんぱく質が活性化されることが重要で、その活性化の鍵を握るのが必須アミノ酸の「ロイシン」。たんぱく質を摂取した後、体内のロイシンの濃度が高ければ高いほど、筋肉の合成量も多くなることがわかっています。

「たんぱく質が含まれた食品を多く摂りたいと思っても、特に高齢期は食事があまりたくさん摂れません。この観点から、どんなたんぱく質を摂るといいかというところに着目したとき、『ロイシン』が多く含まれているたんぱく質を選んでいただくといいと思います」

ロイシンは、大豆たんぱくにも含まれていますが、特に、牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳たんぱくに多く含まれています。たんぱく質を摂るときは、「ロイシン」を意識した食品選びも重要です。

いつもの食事を高たんぱくに!―日常生活のひと工夫―

たんぱく質を日常生活の中に、より簡単かつ効果的に取り入れるための方法について、食物学を専門とし、さまざまなメディアで栄養サポートのための調理法やレシピ紹介なども行っている栄養士の佐藤秀美先生にお話を伺いました。

健康寿命の延伸には、たんぱく質が必要

「日常生活に制限のない(寝たきりや、介護サービスの利用をしていない)期間を指す「健康寿命」は、現在、男性は72.7歳、女性は75.4歳と言われています。男性では8.9年、女性では12.3年もの期間は、寝たきりや介護サービスの利用をしていることになり、健康寿命を、いかに延ばすかということが大きな課題になっています。このとき、欠かせない栄養素を一つ選ぶとするならば、「たんぱく質」だと思います。私たちの体の組織は、日々、刻々と生まれ変わっており、組織のたんぱく質の半分が生まれ変わる時間は、骨では一年半、肝臓や腸、膵臓、腎臓では約10日間です。たんぱく質は健康なからだを作り、健康寿命を伸ばすためには欠かすことができない栄養素です。」

フレイル予防には、やはりたんぱく質摂取が重要

高齢者のたんぱく質不足が問題となっていますが、令和元年国民健康・栄養調査によれば、高齢者の多くは若い世代よりも全般に栄養素摂取量が多いことが報告されています。戦後、「主食+一汁一菜」の食事に加え、肉、果物、牛乳などの乳製品も多くとるようになり、このような食事を続けてきた高齢者は、栄養を摂る方法を知っているからだと考えられます。
ただし、65歳以上の高齢者のフレイルの予防の観点から考えると、やはりたんぱく質の摂取量は不足傾向だと言います。

フレイル予防の観点から、高齢者が1日に摂ることが推奨されているたんぱく質の最低量は体重1kgあたり1.0g、十分な量は体重1kgあたり1.2gと言われています。令和元年国民健康・栄養調査をみると、摂取量(中央値)は男女ともに「最低量」を上回っていますが、「十分な量」という観点からは、80歳以上の女性を除き下回っています。平均摂取量に達していない人では、「最低量」という点からでさえ男性では8.4〜18.2g、女性では4.0g〜11.0gほどのたんぱく質が不足しています。

「女性のたんぱく質不足量が男性よりも少ないので、女性はたんぱく質を多く摂れていると思われるかもしれません。けれども、女性は体重が少ない分、目標とすべき摂取量が少ないので、女性の方がたんぱく質の不足量が少なくなっています。」

いつもの食事に「まぜる」「かける」“ちょい足し補給”で、たんぱく質をプラス

高齢者の場合、たんぱく質をもっと摂りたくても、食事の量を大幅に増やすことには限界があると
佐藤先生は言います。

「食が細くなっていたり、すでに《主食+一汁一菜》の食生活を送っている人が多いため、新たに1品増やすことは難しいと思います」

そこで、佐藤先生が考案したのが、ゼラチンや鰹節、胡麻、粉チーズなどを、いつもの食事に、「まぜる」「かける」だけでたんぱく質を補給する方法です。鰹節や海苔、麩などは、袋の中に入った状態で、両手でこすり合わせるようにすると粉状になり、まぜたり、かけやすくなります。

この「まぜる」「かける」方法を取り入れたレシピを5品紹介いただきました。

【海苔とチーズ入り卵焼き】
「いつもの卵焼きに粉チーズや砕いた麩、焼き海苔を混ぜるだけ。麩を入れるとふんわりするだけでなく、乾燥している麩が卵の水分を吸うので卵がまとまり、焼きやすくなります。特有の風味がある粉チーズですが、この卵焼きではチーズ風味をあまり感じず、入っていることに気づかないくらいです」

【肉じゃが】
「普段通りに肉じゃがを作る際に、粉ゼラチンを入れて煮るだけです。ゼラチンには特有の風味がないので、いつもの味を邪魔することなく、とても使いやすいと思います」

【和風冷しゃぶだれ】
「冷しゃぶやサラダのたれに鰹節粉を足します。うま味成分もアップして、減塩にもつながります」

【簡単白和え】
「白和えもおすすめです。すりごまと鰹節粉が水分を吸うので、豆腐の水切りをする必要がなく、ボールに豆腐と調味料を入れて混ぜるだけで和え衣が完成。きなこを入れると味わいが濃厚になります。私も大好きなレシピです」

【かける】だけ
「料理をするのが面倒な時はこれ。ヨーグルトにきな粉をかけたり、お味噌汁に鰹節粉をかけるだけ。普段の食事を変えずに、たんぱく質を補給することができます」

今回ご紹介いただいたレシピなら、普段の食事を大きく変えることなく、誰でも気軽にたんぱく質を補うことができるのではないでしょうか。

最後に、たんぱく質の摂取方法や摂取量、体感できる効果などについて、お二人に補足していただきました。

たんぱく質と一緒に「ビタミンB6」と「糖質」を摂ると効果的

「たんぱく質の代謝には、ビタミンB6が必要になります。ビタミンB6は、バナナやパプリカ、鶏肉などに多く含まれています。また、糖質も必要です。糖質が不足すると、筋肉作りに必要なたんぱく質がエネルギーとして消費されてしまうのです」(佐藤先生)

たんぱく質は3食の食事できちんと摂ることが重要

「過去のデータを解析した結果、摂取するタイミングはあまり影響しないということが分かってきています。1回運動すると、筋肉を作る働きが2日程度続くと言われているので、やはり3食の食事できちんと摂ることが重要です。ちなみに余剰分は、尿として排出されたり、酸化されて消費されます。ただ、たんぱく質を豊富に含む食べ物は、比較的カロリーが高いものが多く、結果的に脂質に変換され、内臓脂肪などになってしまいます。ですから、摂りすぎてもあまりよくないということはあると思います」(藤田先生)

たんぱく質を摂取することで、筋肉以外にもさまざまな体感を得られる

「体感値というのは、エビデンスがなかなかとれないので個人的な実感になりますが、やはり研究過程において、特に女性は、たんぱく質を摂ることで肌や爪が数ヶ月で明らかに状態が良くなったと気付く方が多いです」(藤田先生)

「私も数値でご紹介できるものではないのですが、例えば髪の毛が細くなっている場合、たんぱく質をしっかり摂るようになると、2、3ヶ月〜半年くらいで、髪の毛1本1本が太くなるので地肌が見えなくなってきます。実際に、私の母がそうでした。また、ダイエットでたんぱく質が不足し、二枚爪になっている学生にたんぱく質を摂るようにアドバイスをしたところ、3、4ヶ月で状態が改善し、やはりたんぱく質の摂取は重要と感じることがよくあります」(佐藤先生)

たんぱく質は体の大部分の組織に大きな影響を与えており、健康長寿とも深く関係しています。そして、何より毎食時にしっかり摂ることが重要です。ご紹介いただいた「かける」「まぜる」といった簡単な方法なら、日々の食生活に手軽にとり入れることができ、シニア層を含む幅広い世代がたんぱく質補給をもっと気軽に実践できるのではないでしょうか。

藤田 聡 教授 プロフィール

立命館大学 スポーツ健康科学部 教授 博士(運動生理学)
2002年南カリフォルニア大学大学院博士号修了。2006年テキサス大学医学部内科講師、2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科特任助教を経て、2009年より立命館大学。米国生理学会(APS)や米国栄養学会(ASN)より学会賞を受賞。専門は運動生理学、特に運動や栄養摂取による骨格筋の代謝応答。監修本に『タンパク質まるわかりBOOK』、共著に『体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学』など。

佐藤 秀美 先生 プロフィール

日本獣医生命科学大学 客員教授 学術博士 栄養士
横浜国立大学卒業後、企業で調理機器の研究開発に従事。
その後、お茶の水女子大学大学院修士・博士課程を修了。専門は食物学。複数の大学で非常勤講師を務めるかたわら専門学校を卒業し、栄養士免許を取得。研究者と主婦の目線で料理や栄養を研究。著書多数。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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