【この人に聞く】時代が求める天然ケルセチン配糖体の普及目指す:アルプス薬品工業株式会社 取締役(品質保証・研究開発担当)岡田 武司 氏

天然植物エキスの有用成分を医薬・食品分野に供給するアルプス薬品工業は、あらたにエンジュ由来の天然ケルセチン配糖体「ユビオケルセチン」を開発し、高い水への溶解性と吸収性を利点として市場展開に乗り出した。さらに同品を関与成分に“抗メタボ”と”気分の改善”をヘルスクレームとする同社初の機能性表示食品2件が先ごろ届出受理された(届出番号H93、H94)。創業からこだわってきた、より天然に近い構造のケルセチンの認知を拡げ、これからの時代に求められる素材として市場開拓を目指す考えだ。同社取締役(品質保証・研究開発担当)の岡田武司氏に話を伺った。

創業以来の “ありのままの自然素材” へのこだわり

今回、当社が開発した天然ケルセチン配糖体「ユビオケルセチン」を関与成分とする機能性表示食品を届出した理由は大きく2つあります。1つは植物に存在する天然のケルセチンに関して、国内で機能性表示食品での届出受理の実績がまだ存在しないこと。そしてもう1つは本製品が既存のケルセチンと同等の生理機能を有した、より自然に近いケルセチンであることを多くの方に知って頂きたいという当社の思いからです。

まず、植物中のケルセチンは、いくつかの異なる糖が付いた混合物で存在し、その混合物中で最も多いのがルチンとイソケルセチンです。しかし、混合物では製造に手間がかかり、またコスト高になります。素材としてのケルセチンを最初に開発した米国では、抽出の際に酸処理加工で糖を全て切断する製法を確立し、それがケルセチンとして世界に広がっていきました。しかし、製造が容易になった代わりに本来のケルセチンが有する高い水溶性と高い体内吸収性が失われたことで、体感効果を得るには大量のケルセチンを摂取しなければならなくなりました。その解決策として昭和時代に当時最新の酵素転移技術によって、天然ケルセチン配糖体に複数のグルコースをつけて水に溶けるようした酵素処理ケルセチン・酵素処理ルチンが登場しました。

令和の現在であれば、天然に存在するケルセチンをもっと科学して水に溶け、そして体内吸収性を良くしていくというアプローチを多くの食品技術者が考えるのではないでしょうか? 当社は70年前に日本で初めて天然にあるケルセチン配糖体を研究開発し製造販売を手がけてきました。国内のみならず世界でも数少ない会社だと思います。その根底にある理念は『自然の恵み自然のチカラを人のチカラにする』というもので、創業から一貫してありのままの自然素材を消費者に提供するビジネスにこだわってきました。そして当社は原料植物の抽出~製造に直接携わり、現在では原料栽培も始めています。植物に深く関わってきた企業として、より天然に近いケルセチンであるルチンにこだわった事業を展開していきました。

ケルセチン本来の水溶性・高吸収性を“令和の技術” で再現

時代が流れ、平成後期の2001年にSDGs、持続可能な世界の構築が国連サミットで採択され、現在では全世界の多くの企業が最優先目標に掲げています。人間と自然の関わり方について、完全にパラダイムシフトが起きた訳です。当社のような自然素材をビジネスとする製造業にとってSDGsに関連した責任ある努力目標は、循環型社会形成に貢献する、ということです。このように自然との共生が叫ばれてきた昨今、当社は機が熟した今こそ天然ケルセチンを徹底的に科学し、水溶解性と高吸収性という本来の物性を人工的な加工技術に頼らずに再現しなければならないと考え、2016年に開発プロジェクトを立ち上げました。その後、プロジェクト開始から4年をかけ、やっと天然ケルセチン本来の物性を人工的加工技術なしに、食品成分だけの独自の製剤技術で回復させ、その基本技術の特許化に至り、天然ケルセチン配糖体「ユビオケルセチン」として製品化しました。

“抗メタボ” “気分の改善” でヘルスクレームに対応

しかしながら日米の関係者に発表した際の反応は「これはケルセチンではないでしょう。ルチンじゃないか。ルチンとケルセチンは違うでしょう」というものでした。多くの方は植物中のケルセチンがケルセチン配糖体として存在していることをご存じありません。そして既存のケルセチンは製造時に酸で糖を切り、天然ケルセチン配糖体は腸の消化作用で糖を切る。どの段階で糖を切るかというだけで、血中に入るケルセチン活性成分は同じであることは既に多くの論文で証明されています。にも関わらず、消費者のみならず多くのサプリメント販売の方々すら認識していない訳です。そこで当社は機能性表示食品としての消費者庁への届出を通じて、両者が同等であることを広く知って頂きたいと考えました。

今回の届出に際して提出した論文のいくつかは、国内外における既存のケルセチンによる文献が含まれています。つまり、既存のケルセチンでの臨床実験からケルセチン配糖体の機能を外挿した訳です。当初、機能性表示食品の届出をサポートする複数の会社からは、このストーリーでは無理だと断られました。そこで当社は外部機関に頼らず、社内に機能性表示グル-プを組織して対応することにしました。担当スタッフらによるしっかりとした理論的な研究レビューの構築によって、ケルセチンアグリコンとして150mg/日の摂取で “食事で摂取した脂肪分の吸収をゆるやかにして、食後の血中中性脂肪の上昇をゆるやかにする” という抗メタボに関するヘルスクレーム。そして同じく50mg/日の摂取で “積極的な気分、生き生きとした気分、やる気を維持” というメンタルケアに関するヘルスクレームという2つの届出が受理されました。

これは既存のケルセチンと天然ケルセチン配糖体が少なくとも2つの身体的不調の改善に関してその機能が同等である、という私たちの届出を、消費者庁に受理していただいたということです。この意味は大きく、本件の受理について連絡を頂いた複数の販売会社の方は、みな一様に驚かれていました。そして今後、天然ケルセチン配糖体での実績から既存のケルセチンでも機能性表示をとることも可能だとケルセチン市場の広がりに期待を示していました。

「自然のチカラを人のチカラへ」理念にさらなる研究開発目指す

当社の天然ケルセチン配糖体は既存のケルセチンに比べ、天然構造を維持し、はるかに高い水への溶解性を有しています。より少ない摂取量で高い生理活性が期待できることなどを鑑みると、今回の2つの機能性表示は、ビジネスとしては必ずしもベストではないかもしれません。しかし、当社ではどのような機能であっても、天然ケルセチン配糖体に関する機能性表示が受理されたことは確実に一歩前進したことだと考えています。今後、自然食品素材にSDGsの方向がさらに深く企業や消費者に浸透していけば、やがて令和の時代が求める自然そのままの天然ケルセチン配糖体こそが本当のケルセチンであり、これを消費者に届けたい、という当社の悲願を理解して頂ける世の中になると思います。機能性表示食品への対応を入り口として、今後自社素材を用いたエビデンスの確保なども含め、より広く利用を広げていきたいと考えています。

技術優先で開発された過去の多くのサプリメント素材に対しては、まだまだ改善の余地があります。人間の自然素材の使い方、向き合い方に対しては、「自然のチカラを人のチカラへ」の理念を旗印にしてこれからも努力を続けていきたいと思います。

岡田 武司 氏 プロフィール

アルプス薬品工業株式会社 取締役(品質保証・研究開発担当)
1969年 岐阜県生まれ、1994年 新潟大学大学院農芸化学科卒業、同年アルプス薬品入社
趣味:読書


関連記事一覧