老化のコントロールを目指す「ジェロサイエンス」とは
高齢社会となったいま、加齢に伴う疾患や障害の負担を軽減するための技術や製品が求められています。そこで注目されているのが新しい研究領域「ジェロサイエンス」です。今回はジェロサイエンスとは何か、どのような研究が行われているのかを解説します。
老化をコントロールして疾患を予防するジェロサイエンス
ジェロサイエンスとは、ヒトの老化やそれに伴って起こる疾患を、老化をコントロールすることで予防しようとする新しい研究領域です。老化に関する研究には、老化のメカニズムや防止法を分子生物学や実験病理学を用いて解明する基礎老化学や、高齢者の疾患や障害の治療・予防法を研究する老年医学などがあります。
しかしこれまで、基礎老化学と老年医学は連携することなく、別々に研究が行われていました。そこで基礎老化学の研究結果を老年医学に役立てようとする考えが2010年ごろから提唱され、ジェロサイエンスが誕生しました。
日本でもジェロサイエンス研究が本格的に始動
日本でもジェロサイエンスの研究が本格的に始まりました。2021年には国立長寿医療研究センターにジェロサイエンス研究センターが設立され、高齢者に多い疾患について、細胞や分子レベルでのメカニズムを理解して予防・診断・治療法を開発することを目指しています。
具体的には骨粗しょう症や骨疾患の骨代謝機構に関する研究、細胞老化による炎症が組織機能や病態に及ぼす影響に関する研究、老化による免疫機能低下に関する研究などを行っており、産官学連携による研究成果の実用化や国内外に向けた情報発信に取り組んでいます。
エピジェネティクスや腸内細菌叢に注目
いまジェロサイエンスでは、エピジェネティクスや腸内細菌叢に着目した研究が進められています。エピジェネティクスに関する研究では、加齢によるDNAメチル化が老化の指標になることに注目し、ゼブラフィッシュを用いてDNAメチル化が加齢に関与する領域を明らかにするとともに、メチル化酵素の働きを人為的に操作することで老化を制御することを目指す研究も行われています。将来的にこの知見をヒトに応用することができれば、健康長寿に大きく貢献できると期待されています。
また腸内細菌叢についてはマウスによる研究で、加齢による免疫機能低下に腸内細菌叢の加齢に伴う変化が関与している可能性が指摘され、特定の乳酸菌を長期的に投与したマウスの腸管では腸内細菌叢の改善だけでなく、加齢によるさまざまな変化を改善・抑制することが確認されました。今後、人体によい働きをする細菌を直接摂取するプロバイオティクスや腸内細菌のエサとなる食物繊維などを積極的に食事に取り入れるプレバイオティクスの新たな効果として、加齢に伴う免疫機能の低下の予防が提唱できるようになるかもしれません。