メンタルヘルスや睡眠と密接な関係 必須アミノ酸「トリプトファン」

トリプトファンは、たんぱく質を構成する必須アミノ酸の一つで、ホルモンや酵素、抗体や血液なども作り出す重要な成分です。不安やうつ、睡眠障害などとも関係が深く、「コロナうつ」「コロナ不眠」といった言葉が聞かれる昨今、「メンタルヘルス」「睡眠の質」に深く関与するトリプトファンは、個々のウェルビーイングの実現に不可欠な成分として、その重要性が改めて見直されています。

トリプトファンの働き

精神のバランスを保つ働きをもつことから「幸せホルモン」とも呼ばれる「セロトニン」や、セロトニンを変換してつくられる、夜間睡眠を誘うホルモン「メラトニン」の材料となるのがトリプトファンです。
その他に、ナイアシンやさまざまな脱水素酵素の補酵素として機能するNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の材料としても利用され、医薬品としても、抗うつ剤、不眠症薬の主原料として用いられています。

トリプトファンは体内で合成することができない「必須アミノ酸」のため、食事などで摂取する必要があります。

トリプトファンの必要量と含まれる食品

トリプトファンの1日の必要量は、成人で体重1㎏あたり4㎎とされており、体重60㎏の場合240㎎/日と考えられます。トリプトファンが多く含まれている主な食材は、豆腐や納豆、みそなどの大豆製品、チーズや牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、米や小麦などの穀類など。そのほか、肉や卵、ナッツ類などにも含まれています。

トリプトファンが含まれる食品例(100g当たりの含有量)
・きなこ510㎎
・鶏ささみ(ソテー)450㎎
・しろさけ(焼き)330㎎
・生卵180㎎
・そうめん・ひやむぎ(乾燥)110㎎
・ヨーグルト(低脂肪無糖)51㎎
・アボカド34㎎

セロトニンを増やす重要な役割

自律神経や睡眠と覚醒、情緒、女性ホルモンなどのホルモン調節にはセロトニンというホルモンが深く関与しています。セロトニンは、脳内神経伝達物質のひとつで、快感、幸福感、意欲に関わる「ドーパミン」や恐怖、驚きなど精神の興奮に関わる「ノルアドレナリン」のバランスを保ち、精神を安定させる働きがあります。

セロトニンが低下すると、これら2つのコントロールが不安定になりバランスを崩すことで、攻撃性が高まることや、不安やうつなどの精神症状を引き起こすといわれています。
近年、セロトニンの低下の原因に、女性ホルモンの分泌の減少が関係していることが判明し、更年期障害と関わりがあることが知られるようになりました。

トリプトファンはセロトニンの生合成に必要な材料となる成分です。トリプトファンの不足はセロトニンの低下を招き、メンタルの不調などを引き起こす原因になります。大切なのはセロトニンを増やすこと。そのためには積極的なトリプトファンの摂取が不可欠なのです。

腸内細菌との深い関係

トリプトファンとセロトニンにとって重要なのが腸内環境です。セロトニンは90%が腸でつくられており、腸内細菌がその分泌を助けています。また、摂取した大豆製品や乳製品、肉や魚などに含まれるたんぱく質を分解・合成してトリプトファンをつくるのも腸内細菌の役目。腸内細菌のバランスを整えることが、トリプトファンとセロトニンを増やすことにもつながります。

また、脳腸相関と言われるように、腸は脳と互いに影響を及ぼしあうことがわかっています。神経伝達物質のセロトニンの多くが腸で分泌されており、腸内環境が悪化すると、脳に届くはずのセロトニンが不足し、不安やイライラを招くだけでなく、夜間にセロトニンを変換してつくられる睡眠ホルモンのメラトニンの不足にもつながり、不眠や睡眠に質の低下などの原因にもなります。

精神のバランスを保つ働きをもつセロトニンやセロトニンを変換してつくられる、夜間睡眠を誘うホルモンメラトニンの材料となるトリプトファンは、個々のウェルビーイングの実現に向けて注目される「メンタルヘルス」「睡眠の質」に深く関与する重要な成分です。

今後、トリプトファンに注目した商品開発や情報発信が、更に必要とされるものとなるのではないでしょうか。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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