“整えたい”時代の求める「CBD」とは?
近年、大麻に含まれるカンナビノイド「CBD」の生体内作用が紐解かれ、医薬品としての開発が進むとともに海外の健康産業では“グリーンラッシュ”と呼ばれるブームを起こしています。今回は、大麻が古代から治療に用いられてきた理由と時代が求めるニーズ、国内外の動向について解説していきます。
「CBD(カンナビジオール)」とその安全性
カンナビジオール(Cannabidiol、以降CBD)は、植物の大麻(学名:Cannabis sativa)に含まれる約140種類ものカンナビノイド※1という生理活性物質の一つ。陶酔や多幸感など精神作用があり法規制の対象となるTHC(テトラヒドロカンナビノール)と並び、カンナビノイドの中で主要な成分です。ただし、CBDにはTHCのような精神作用や中毒性はなく、心拍数や血圧、体温といった生理的にも悪影響を及ぼさないことが2011年までの研究で分かっています。※2
このCBDの作用は、様々なストレス適応能力を調節する神経ネットワークに働きかけ、心身の恒常性を維持するものです。
恒常性を維持するCBDの“エンドカンナビノイドシステム”
CBDが1940年に大麻の抽出物から始めて単離されて半世紀後の1990年、カンナビノイド受容体のCB1とCB2が見つかったことで研究は急展開を見せました。このうちCB1は主に中枢神経系において神経伝達を調整します。一方のCB2は末梢神経組織でリンパ球やマクロファージに発現し、免疫機能や炎症反応の調整に関わっています。
さらに、神経伝達物質の放出を調節し複雑な神経ネットワークをコントロールする内因性カンナビノイドシステム(endocannabinoid system、以降ECS)の機能が発見され、CBDがこれを間接的に活性化することが分かりました。この機能により私たちの身体は恒常性を保ち、痛みや気分、摂食の調節ならびに運動コントロールなどを無意識に行うことが出来ています。また、ECSは炎症の抑制や神経保護作用へ関与することから、古来よりアダプトゲンハーブとして用いられてきた大麻は、2000年以降、CBDがもつ多くの医療的効果が研究され注目を集めているのです。
海外で話題の大麻草関連ビジネス“グリーンラッシュ”と、CBDの取り入れ方
海外では近年、このCBDが持つストレスや不安の緩和、睡眠の質向上、抗炎症作用などを期待した製品の人気が高まっています。これにより急成長している大麻草関連ビジネスが、“グリーンラッシュ”と呼ばれているものです。そしてこのビジネスは最近の日本においても、輸入健康食品や化粧品に加えてカフェやエステサロンで取り扱うなど徐々に広がりを見せています。
こうしたCBDの取り入れ方には経口的や経皮的、あるいは経鼻的といった幾つかの形態があり、食用オイルやサプリメントのほか、コーヒーや菓子、オイルやクリーム、スプレー、そしてリキッドの電子タバコやアロマオイルというふうに様々です。
国によって異なるCBDの法規制と現状
CBDの取り扱いには、各国で法を遵守した注意が必要です。2020年のWHO勧告による麻薬単一条約においてCBDの医療上での有用性が承認されたことを受け、諸外国では難治性のがんや一部のてんかん等に対し医薬品として治療に使われ始めています。一方の日本ではG7諸国の中で唯一、大麻由来の医薬品が承認されていません。これは我が国で大麻取締法や麻薬及び向精神薬取締法があるためで、医療用医薬品のほか健康食品も規制の対象となります。
実際に、厚生労働省は2020年2月、3つのCBD製品から微量のTHCが検出されたとして商品リストを挙げた注意喚起をおこなう事例もありました。東京都消費生活総合センターは、精製※3が不十分だとTHCが含まれる可能性もあり健康被害が発生するおそれがあるとも指摘しています。
我が国におけるCBD市場の期待と展望
今、日本では「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の中でCBDを含めた大麻の取扱いについて議論の最中です※4。
大麻取締法は1948年の当時THCに見られるような有害作用がよく判っていない中で制定されたため、規制外のわずかな部位でしか抽出や輸入をおこなうことが出来ません。これが今、規制対象は部位ではなく有害な精神作用を示す成分(THC)に着目して見直すべきだと議論されています。
現在、CBDは穂(花)や葉に多く含まれるものの規制があって微量しか含まれない茎や種子から抽出するほかなく、証明書の提示も課せられることに加えて価格も高価です。
近い未来、この改正法案が施行されればCBD製品への参入におけるハードルが下がり、新たな市場が作られていくかもしれません。
※1 カンナビノイド:アサ(学名cannabis sativa)の未熟な果穂を含む枝先および葉に含まれる炭素数21の化合物群を指し、多くの生理活性物質を含む。
※2 参考文献:保健医療学雑誌 9 (2): 112-126, 2018. カンナビジオールの治療効果とその作用機序
※3 精製:CBDは麻に含まれるcannnabidiolic acid(CBDA)を熱処理することによって二酸化炭素を除いた人工精製産物である。
※4 2021年6月11日 厚生労働省医薬・生活衛生局による資料を参考