【マーケティングレポート②後編】「次世代たんぱく質」のビジネスにおけるメリット&デメリット
「たんぱく市場」ではサステナビリティとウェルネルの観点から、プラントベースと呼ばれる植物性たんぱく質などが登場し、世界的に注目を集めています。こうした“次世代たんぱく質”における動向や消費者のニーズは、日本と海外では異なる傾向があることをご存じですか?今、トレンドとなっている“スナッキング”におけるたんぱく質の位置づけや、新しい課題ともいえる「プラントベース・パラドックス」、わが国で求められている次世代たんぱく質の期待や展望について、前編に続いて、グローバルニュートリショングループ代表の武田猛氏にうかがいました。
ビジネスにおける、動物性たんぱく質のメリットやデメリットはどのようなものでしょうか?
メリットは、味がよいのと加工に適しているということ。対してデメリットは、地球に優しくないという実態と、ネガティブな情報が出やすいということでしょう。
動物性たんぱく質は、肉と乳製品、それから卵の大きく3つに分かれます。なかでも肉は、動物愛護や不飽和脂肪酸に関する悪の印象から、いわゆる“食肉離れ”を起こした時期もありました。植物由来の代替肉が登場したのも、これらのネガティブイメージが理由のひとつです。
一方で乳製品は、加工度が低くナチュラルでヘルシーだとして、海外でも支持されています。また、卵はその栄養の高さや利便性が見直され、スナッキングフードとしても多く見かけるようになってきました。
では、植物性たんぱく質のメリットやデメリットについては、いかがでしょうか?
何といっても、植物性はヘルシーだというポジティブな印象を与えることが大きなメリットです。環境に対して懸念がない訳ではありませんが、動物性にみられるような悪の印象は少ないでしょう。そして、よく知る身近な食材で高プロテインを摂ることのできるのはメリットのひとつです。
一方でデメリットは、植物にはアレルギー物質が多く存在するということと、加工するのが大変だということ。さらに、前編でお話ししたDIAASにおける評価で見たときに動物性たんぱく質と差があることは課題であり、デメリットともいえるでしょう。
植物性たんぱく質は加工するのが大変ということですが、これについて詳しく教えていただけますか?
植物性たんぱく質を加工するためには、多くの添加物が必要です。動物性たんぱく質は熱を加えればすぐ固まりますが、植物性たんぱく質はデンプンなどの炭水化物や添加物をいれないと固まりません。完成したら、たんぱく質よりも添加物の方が多くなってしまったということもあり得ます。つまり、一見、ヘルシーなのに実はあまりヘルシーじゃないというジレンマが生じてしまうのです。
添加物そのものは決して悪いものではありませんが、世間一般に見ればマイナスのイメージを持つ人もいるでしょう。
これを業界では「プラントベース・パラドックス」と呼んでいます。これから、多くの代替たんぱく質が世の中に出ていくなかで、避けられない課題のひとつです。
開発や市場拡大にむけて注目すべき点
市場拡大においてネックとなるのは、どのようなことでしょうか?
これは日本も外国でも、同じことが言えます。動物性や植物性という区分はともかく、ふだん食べているたんぱく質を他の食材に代えてみようという意識やモチベーションがネックとなるのです。
ある調査では、若者は「環境にやさしい食事は重要な優先事項」と回答しているにもかかわらず、年配者よりも多く動物由来の食品を買っていることが分かりました。とくに牛肉の購入量では、65歳以上の高齢者は減少しているのに対し、18~24歳では35%も増加したといいます(英国における2017~2020年の月間総売上高)。また、世代を分けずにおこなった意識調査では、代替たんぱく質を食べたいと思わない理由の第1位が、「わざわざ食べる必要がないから」というもので3割を超えたそうです。こういった、意識と行動のなかにギャップがあるのを把握していくことも必要でしょう。
トレンドになっている、代替たんぱく質の販売方法はありますか?
たんぱく質にかぎった販売方法ではないのですが、ストーリーで売るのが今、海外でトレンドになっています。たとえば、牛乳でいうと、「Aという村の山奥でBという酪農家さんが手塩にかけて育てたCというウシから、今日の朝いちばんで採れたミルク。」というようなストーリーです。日本では、こういったストーリーを掲げて売るよりも、価格競争や商品棚を増やすことで消費者へアピールする手法が多いように思います。
また、生産プロセスに関するストーリーのほかに、消費者目線に立った摂り方を提案するのもよいでしょう。例えば近年、時間栄養学の観点からたんぱく質を朝摂ることのメリットが明らかになってきましたが、そうしたサイエンスの視点からも「朝たんぱく」がよいとされている、といった提案です。
そして近年、増えてきたトレンドで外せないのは、間食で栄養を補うというポジティブなおやつである「スナッキング」。ナッツやドライフルーツと並んでプロテインは、ヘルシーなスナックの主役になりえるといえるでしょう。
日本でたんぱく質をスナックに生かしていく方法にはどのようなものがあるでしょうか?
実は、私たち日本人は、もともとスナック化が得意なのです。コンビニエンスストアでは味付きの卵もひとつずつで買うことができますし、納豆もドライにしてスナックとしても楽しんでいます。特に、かにかまスティックは日本ならではの水産加工技術がつまった、高たんぱくの優秀な食品といえるでしょう。
また、わが国では、高齢者のフレイルやロコモティブシンドロームを回避するために、たんぱく質の摂取が推奨されています。しかし、口腔環境や嚥下機能の低下などに問題があると、硬いプロテインバーでは気軽に食べられません。大人用の粉ミルクについて需要があるのも、わが国ならではの文化といえるのではないでしょうか。
「次世代たんぱく質」における展望と期待
海外の市場と比べて、日本の市場はどのように変化していくと予測されますか?
海外で先行していた植物由来の肉代替品は今、頭打ちになっています。投資家が期待したほど、売り上げは伸びていないのが現状です。これには、価格が高いことや前述の「プラントベース・パラドックス」も足かせとなっているのでしょう。
そして日本では、こうした肉代替品のニーズはあまり高くならないかもしれません。なぜなら、日本人は代替品という理由で選ぶより、味や好みで選ぶ傾向が強いからです。さらに、私たちは肉よりも魚のほうが健康によいということを知っています。近年の秋刀魚の価格高騰に対するメディアの反応やクロマグロの完全養殖をみても、水産業にかける期待の強さは明らかです。
そういう視点からすると、日本における次世代たんぱく質の市場は、肉代替品よりも魚代替品においてチャンスがあるかもしれません。消費者にとって共感を得やすいことに加え、世界が納得するような、たんぱく源の提供ができるようになるとよいですね。
日本の強みを活かす製品開発やベンチャーに対し、期待していることを教えてください。
魚の代替品における開発では水産加工業者にかぎらず、多くの企業が参入していくことを期待しています。海で養殖できなくなれば、陸上でおこなうことも考えなければなりません。世界中が注目し研究を重ねる次世代たんぱく質をはじめ、持続可能なフードシステムを構築するためには、環境の整備や多くの技術開発、人材などが必要です。
私たち日本人のライフスタイルにあった、製品の登場と環境の整備が欠かせません。和食の基本でもある、ご飯とみそ汁と小鉢にもうひとつ手軽に付け加えられるようなもの。また、長く好んで摂りつづけることのできる、親しみやすいスナックが登場することも楽しみにしています。
さいごに、最先端のIT技術を活用して食のもつ可能性を広げていくフードテックについて、どのようにお考えでしょうか?
「フードテック」というと、その目的や考え方、進め方について深く考え込む人もいるかもしれません。もっと簡単に捉えてみれば、世界中の皆がバランスよく食べ続けることのできる未来を迎えるために、技術開発を進めて環境を整えていくということ。
きっと肉も魚も野菜も、多種多様な食品に囲まれて健康を維持していくほうが、心も豊かに過ごすことができるはずです。これには、先進国と発展途上国、社会的な立場などによって分け隔てることなく、全世界で取り組むことが必要だと思っています。
そして、限りある資源を食い尽くさないために、リアルフードと次世代たんぱく質などの代替品を両立させながら、1人ひとりが地球保全について意識することが大切ではないでしょうか。
DIAASをつかうと、植物性と動物性ではどのような評価になるのでしょうか?
DIAASで見ると評価が高いのは、大豆などの植物性たんぱく質よりも乳製品や卵など動物性たんぱく質です。とくに、ミルクプロテインは高評価ですね。もし、プラントベースを代替品として摂る場合、コストのほかに品質や機能面についても考えていく必要があります。
そしてリアルフードには、たんぱく質のほかにビタミンやミネラル、酵素や微量元素などさまざまな栄養素が含まれていることも忘れてはいけません。必要なアミノ酸を効率よく摂取するための知識を身につけ、食を楽しみながら継続することが大切ではないでしょうか。
まとめ
すべての人にとって不可欠なたんぱく質は、その重要性が注目されるとともに枯渇するという局面を前に、これまでにない進化を遂げているように見えます。目先の新しさに踊らされず、多様な選択肢の中から自分に必要なものをしっかり選んでいくことが、ますます重要になっていくことでしょう。
武田猛氏 プロフィール
株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役。
18年間の実務経験と17年間のコンサルタント経験を積み、35年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外650以上のプロジェクトを実施。「世界全体の中で日本を位置付け、自らのビジネスを正確に位置付ける」という「グローバルセンス」に基づき、先行する欧米トレンドを取り入れたコンセプトメイキングに定評があり、数々のヒット商品の開発に関わる。