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04認知症コラム

【弁護士監修】認知症でも不動産売買はできる?起こりうるトラブルも紹介

2025.10.31

【弁護士監修】認知症でも不動産売買はできる?起こりうるトラブルも紹介

認知症でも不動産売買は可能です。委任状や司法書士のサポート、法定成年後見制度、家族信託などを活用することでトラブルを避けつつ、安全に売却や購入を行えます。ただし、本人の意思能力や名義、契約内容の理解度が重要です。この記事では、認知症の方が不動産売買する方法や確認事項について解説します。

認知症でも不動産売買はできる?

不動産売買ができるか
→契約締結時に意思能力があるかどうか

「認知症だと不動産売買はできない」と思っている方もいるかもしれませんが、一概にできないとはいえません。不動産売買は法律行為にあたり、契約を理解し自ら判断できる意思能力があると法律的に判断されれば、本人が契約を結ぶことも可能です。意思能力の有無について、実務上は本人を診察した医師の意見が重要となります。

ただし、契約開始時に意思能力があっても、締結時に意思能力が失われている場合は契約が成立しない可能性もあります。そのため、認知症の方の不動産売買では、契約のタイミングや医師の診断、代理人や法定後見制度の活用などを慎重に検討することが大切です。

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認知症でも不動産売買はできる? イメージ

代理をする場合は委任状が必要

認知症の方でも意思能力があると判断されれば、代理人が委任状を受け取って代わりに不動産売買を行うことが可能です。しかし、意思能力がないと判断された場合は、委任状を取得しても本人の意思で作成されたとは認められず、無効になる可能性があります。

そのため、代理で不動産売買を行う際は、本人の意思能力の確認や医師の診断、場合によっては司法書士など専門家のサポートを受けることが重要です。

認知症の方が不動産売買をするための
2つの確認事項

認知症の方が不動産売買を行う際には、契約が有効かどうかを左右する重要な確認事項があります。まずは、不動産の名義と本人の意思能力の2点をチェックしましょう。

不動産の名義(売却時)

不動産を売却する際は、まず所有名義が誰になっているかを確認することが重要です。
名義が認知症の方本人以外であれば、売却手続きを進めるうえで基本的に問題はありません。

しかし、名義が本人である場合は、本人に無断で売却はできないため注意が必要です。
所有名義は登記事項証明書で確認できるため、手続きの前に正確に把握しておく必要があります。

名義が認知症の方本人以外であれば問題はない

認知症の進行具合

売買契約を行う本人に認知症の疑いがある場合、司法書士や契約担当者が質問を通じて意思能力を確認します。疑いが強い場合には、医師の診断書が求められることもあります。
確認事項の例は以下右記のとおりです。

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確認事項の例
  • 契約の目的や内容を理解しているか
  • 売買によって得られる利益や損失を認識できているか
  • 契約を結ぶことの意思が本人にあるか
  • 契約を拒否したり取りやめたりする判断ができるか
  • 契約の手続きや書類の内容を簡単に説明できるか

認知症でも不動産売買を行う方法
-法定成年後見制度の利用

認知症の方が不動産売買を行う場合、本人だけで契約することが難しいケースがあります。そのようなときに活用できるのが、法定成年後見制度です。

法定成年後見制度とは 法定成年後見制度を利用する際の注意点 法定成年後見制度を利用した不動産売買の流れ

認知症でも不動産売買を行う方法-法定成年後見制度の利用 イメージ

法定成年後見制度とは

判断能力を欠いている人に代わって契約の締結や
解除、財産の管理を行い、保護・支援する制度

法定成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害など判断能力が不十分な人を法律的に支援する制度です。親族らが家庭裁判所に申し立てて、医師の意見書などをもとに、家庭裁判所が成年後見人を選任します。

成年後見人は、認知症の方本人に代わって不動産の売買など重要な財産行為を行うことが可能です。これにより、本人の権利や財産を守りつつ、安全に契約手続きを進められます。

法定成年後見制度を利用する際の注意点

法定成年後見制度における後見人は、必ずしも親族から選任されるとは限りません。また、後見人の申立てに手間と時間がかかるため、法定後見が開始されるまでには概ね4カ月程度かかります。

さらに、専門家が選任された場合は、被後見人の財産から報酬を支払う必要があります。
また、不動産売買だけのために後見人をつけたり、売買契約が完了したことを理由に後見人を外したりはできません。いったん後見人が選任されれば、後見人がその後のすべての財産管理を行うことになります。

こういった手続きや費用面の詳細を事前に把握しておくことが大切です。

  • 必ずしも親族が後見人になれるとは限らない
  • 後見人の申立てに手間と時間がかかる
  • 後見人には報酬を支払う必要がある
  • 不動産売買だけのために後見人制度を利用できるわけではない

法定成年後見制度を利用した不動産売買の流れ

  • STEP1
    家庭裁判所への申立て
    • 認知症の方の配偶者や子ども、その他の親族が行うことが一般的
    • 家族や親族が協力して情報を整理し、必要な書類を準備する
    • 必要な書類は裁判所ごとで異なるため申請先の裁判所に確認
  • STEP2
    成年後見人の選任
    • 家庭裁判所が適任者を慎重に選ぶため面談や調査を行う
    • 家族や親族の中から選ばれることが一般的
    • 専門的な知識が必要な場合は弁護士や司法書士が選ばれることも
  • STEP3
    不動産売買の手続き実施
    • 後見人が認知症の方に代わって不動産の売買契約を締結し必要な書類を整える
    • 売買契約書や登記簿謄本などの重要な書類を適切に管理する
    • 後見人が専門家でない場合は弁護士や不動産業者の協力を得ることが勧められる

法定成年後見制度を利用した不動産売買では、まず、家庭裁判所への申立てで必要書類を整え、家族や親族が協力して情報を整理します。次に、家庭裁判所が面談や調査を経て成年後見人を選任します。親族が選ばれることが多いですが、財産が多額で複雑であったりするなど専門知識が必要な場合は弁護士や司法書士が後見人になることも多いです。

最後に後見人が認知症の方に代わって売買契約を締結し、契約書や登記簿謄本などの重要書類を適切に管理します。専門家の協力を得るとより安全に手続きを進められます。

不動産売買のために必要な書類の例
  • 売買契約書
  • 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 成年後見登記事項証明書
  • 本人の戸籍謄本・住民票
  • 家庭裁判所の許可書 など

認知症と不動産売買に関して起こりうるトラブルは?

認知症の方が関わる不動産売買では、本人の意思能力の有無や手続きの不備によってトラブルが起こる可能性もあります。そのため、事前に注意点をよく把握しておくことが大切です。

費用が必要になり本人名義の不動産を勝手に売却する 本人に意思能力がないのに本人の財産で不動産を購入する 本人が契約内容を理解できず不利益を被る

費用が必要になり本人名義の不動産を勝手に売却する

認知症の方本人に意思能力がない場合、本人のためであっても勝手に不動産を売却すると契約は無効になる可能性があります。親の利益を考えて子供が代わりに売却することも原則できません。

ただし、意思能力がある時点で委任状を受けた代理人が手続きを行った場合は、有効となる可能性があります。売却の際には、本人の意思能力の有無や委任状の有効性を慎重に確認し、必要に応じて専門家のサポートを受けながら進めることが重要です。

本人に意思能力がないのに本人の財産で不動産を購入する

そもそも、意思能力がない認知症の方の法律行為は原則無効となります。そのため、本人の財産を無断で使って不動産を購入することは認められません。たとえ本人のために購入する場合でも、勝手に財産を使用することは基本的に許されず、その後についた後見人から、あるいは本人が亡くなった後に相続人から訴訟を起こされる可能性もあります。

安全に取引を行うには、後見制度の利用や委任状の確認など、専門家のサポートを得ることが重要です。

本人が契約内容を理解できず不利益を被る

なかには認知症の方の理解力の低下を悪用し、不正な契約を結ばせる悪質な業者も存在します。そうしたことを避けるためには、契約書の内容を詳細に確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが重要です。また、契約の際には家族や信頼できる第三者が同席することも推奨されます。

こうしたトラブルのリスクを回避するためには、認知症になる前の意思能力を保持しているうちに事前の備えを行っておくことが重要です。備えについては次の章で詳しく説明します。

認知症になる前に!
不動産売買を行うための備え3選

認知症を発症する人の割合は年々増加しています。そこで、将来に備えて不動産売買をスムーズに行うための準備を、今のうちに確認しておくことが大切です。

任意後見制度 家族信託 生前贈与

認知症を発症する割合や予防のポイントについて詳しくはこちら

認知症になる前に!不動産売買を行うための備え3選 イメージ

任意後見制度

任意後見制度とは、後見人を誰に依頼するか、どのような内容を任せるかを事前に自分自身で決めておくことができる制度です。不動産売買についても、あらかじめ希望や条件を決めておけば、将来意思能力が低下した場合でもスムーズに手続きを進められます。

利用する際は、将来後見人となる人との後見契約を結ぶことになり、その契約書は公証人役場で公正証書として作成してもらう必要があります。制度の内容や条件を専門家に確認しながら準備しておくと安心です。

意思能力を有しなくなる場合に備えて後見人やお願いすることを決めておく制度

家族信託

家族信託を利用して事前に不動産の管理を家族に託しておけば、認知症の方本人が所有する不動産も、その家族の判断で売却することが可能です。また、金銭管理も任されていれば、本人のために不動産を購入することもできます。

ただし、どの不動産や資産を誰に託すのか、管理や処分の権限をどうするかを具体的に定めておかないと、後々トラブルになる可能性があります。そのため、専門家に相談しながら早めに検討しておくことが重要です。

あらかじめ不動産や金銭などの財産の管理や処分の権限を信頼できる家族に託す制度

生前贈与

生前贈与によって不動産を譲渡すれば、譲受人によって自由に売却することが可能です。金銭を譲与すれば、その資金で不動産を購入することもできます。将来の相続のことを考えると、生前贈与は有効な手段となります。

ただし、贈与税の控除枠内で贈与を行わないと課税されるため、贈与額やタイミングを事前に確認し、専門家に相談しながら進めることが重要です。

不動産や金銭などを事前に譲り渡し、譲受人に所有権を移すこと

認知と不動産売買に関するよくある質問

認知症の方に関わる不動産売買では、手続きや契約の有効性について疑問が生じやすいものです。ここでは、よくある質問とその回答を紹介します。

認知症の方が不動産売買をしたら無効になりますか? 認知症の親の家を勝手に売却できますか? 家族信託は認知症発症後でも契約可能ですか?

Q認知症の方が不動産売買をしたら無効になりますか?

認知症の方でも、契約時に意思能力があれば不動産売買は有効です。しかし、意思能力がない場合や契約内容を理解できない場合は無効となる可能性があります。安全に進めるには、医師の診断や成年後見人制度、委任状の活用などを専門家のサポートを受けながら検討することが必要です。

Q認知症の親の家を勝手に売却できますか?

認知症の親の家を本人の意思や手続きを無視して勝手に売却することはできません。意思能力がない場合、売却は無効となる可能性が高く、その後に選任された後見人や、相続人から訴訟を起こされるリスクもあります。成年後見人制度や家族信託などの仕組みを活用し、安全に手続きを進めることが重要です。

Q家族信託は認知症発症後でも契約可能ですか?

家族信託であらかじめ信託者を設定していれば、認知症で本人の判断能力が低下していても不動産の管理・売買を代わりに行うことが可能です。しかし、信託契約自体は本人に十分な意思能力がある段階で締結しておく必要があります。安全に進めるためには、早めに専門家と相談し、信託内容や手続きを確認しておくことが重要です。

認知症の方の不動産売買は事前の備えや制度活用が重要

認知症の方が関わる不動産売買では、意思能力の確認や代理人の活用、成年後見制度や家族信託などの制度が安全な取引の鍵となります。事前に準備を整え、契約や売買の手続きを専門家と確認しながら進めれば、トラブルを避けつつ、本人や家族の利益を守ることが可能です。

認知症やアルツハイマー病に関わる不動産売買の備えと同様に、認知機能の維持・改善も早めの対策が重要です。最新研究では、40Hz周期の音や光の刺激が軽度から中等度のアルツハイマー患者の認知機能低下を抑制することが確認されています。ぜひ、詳しい研究結果や臨床試験の情報をチェックして、日常生活や将来への備えに役立ててください。

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