
レモンの価値を科学で掘り起こす。ポッカサッポロが実践する「機能性マーケティング」の舞台裏

写真右:ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 新市場創造部 マネージャー 吉川和彦さん 写真左: ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 新市場創造部 部長 林誠治さん(部署名や役職は、2026年3月上旬取材当時のものとなります)
ポッカコーポレーションとサッポロ飲料が2013年に経営統合して誕生した、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社(以下、ポッカサッポロ)。1957年に「ポッカレモン」を発売以来、レモン事業を中核として成長し、「ポッカレモン100」や「キレートレモン」など、ユニークかつ暮らしにお馴染みの商品を展開しています。ここでは、どのようにレモンの健康価値を商品に反映し、市場に訴求してきたかについて、事業を牽引してきたマーケティング本部 新市場創造部 マネージャーの吉川和彦さんと、部長の林誠治さんに伺いました。
「キレートレモン」「ポッカレモン100」が売れ続ける理由
ポッカサッポロフード&ビバレッジのレモン事業が好調です。2025年度のレモン飲料・レモン食品の売上は前年比106%で過去最高を更新しました。好調を牽引したのは飲料の「キレートレモン」と食品の「ポッカレモン100」で、ともに大きく売上を伸ばしています。
「レモン1個分の果汁がつまった『キレートレモン』は2026年3月に発売25周年を迎えた商品です。飲料市場において20年以上続くブランドは珍しく、市場で定着していることと好調な売上は無関係ではありません」(吉川さん)

従来の小瓶から缶、ペットボトル、パウチ容器まで幅広いラインナップの「キレートレモン」シリーズ
現在はオリジナルに加え、クエン酸が2700㎎入った「キレートレモン クエン酸2700」や、レモン由来モノグルコシルヘスペリジンの働きで一時的に自覚する顔のむくみ感を軽減する「キレートレモン MUKUMI」といった、機能性表示食品もラインナップに加わっています。
「『健康によい』『美容によい』といったレモンが持つ従来の機能・イメージに加え、2015年から始まった機能性表示食品のルールのなかで具体的な機能を表現したことが、お客様に受入れられていると思います」(吉川さん)
ちなみに「キレートレモン」の「キレート」とは、レモン果汁に含まれるクエン酸がカルシウムを溶けやすくさせ、身体に吸収しやすくする作用のこと。「キレート」という響きがレモン自体の持つイメージと見事にマッチし、市場で受け入れられました。
一方、1957年に誕生した「ポッカレモン100」(当時はまだ果汁100%ではなく「瓶入りの合成レモン」でした)は、90年代以降も順調に売上を伸ばしてきました。直近の販売好調の要因には、2024年9月に「ポッカレモン100」瓶3品(120ml、300ml、450ml)を臨床試験研究結果に基づき「高めの血圧(収縮期血圧)を下げる」機能性表示食品としてリニューアル発売したところ、血圧を気にされる方や高血圧予備軍の方をはじめ多くのお客様に「機能的価値」が広まり、売り上げ増に転じました」(吉川さん)

1日30mlのレモン果汁を12週間継続摂取する臨床試験を実施し、高めの血圧(収縮期血圧)を下げる有意な効果を確認
「何も対策を講じなければ、類似商品が流通するなかで他商品との差別化が薄れ、数ある”レモン商品”の一つに埋もれていたかもしれません。ところが、健康機能を明確に打ち出すことで、指名買いしていただけるお客様も増えたことが、好調な要因でしょう」(吉川さん)
機能性表示食品になってからは、80代の男性からお客様相談室に「初めて買ったのだけれど、どう使えばよい?」といった質問が寄せられることもあったと言います。もともと40代以上は高血圧に悩む人が多く親和性が高かったのですが、機能的訴求によって、さらに幅広い層へリーチするようになりました。
広島県と2013年にパートナーシップ協定を結ぶ
これらのレモン商品が支持されるのは、美味しいことに加えて、「健康にもよい」というイメージを多くの消費者が抱いているからです。私たちはメディアなどの情報を通じて「何となく」理解したような気持ちになっていますが、吉川さんや林さんをはじめとするポッカサッポロのメンバーや社内外の研究者による、レモンに含まれる成分と効能に関する地道な研究と情報発信が成果として表れています。
「健康ブームの高まりを受け、2000年代に入るとポリフェノールやリコピンなど食品・植物由来の成分が注目され始め、各メーカーは自社製品と絡めたPRをするようになりました。我々もレモンそのものの価値を高め、伝える必要があると考え、さまざまな実験・研究を重ねてきました。昔からスポーツのハーフタイムでレモンを食べる習慣があるなど、クエン酸が持つ疲労回復への効果は経験的にわかっており、これを科学的に証明したのです。血圧についても、広島県大崎上島町における長期介入研究結果や、当社名古屋工場がある北名古屋市との実証結果からも確認されています」(吉川さん)

「葉っぱにもレモンの香りがするんですよ」という吉川さん。「ポッカサッポロフード&ビバレッジ」東京本社が所在する恵比寿ガーデンプレイス内にある「レモンの木」に触れて
「血圧の実験ではクエン酸が機能性関与成分だったので、プラセボ(偽薬)を作り比較検証を行い、レモン由来のクエン酸に血圧を下げる効果があることを突き止めました」(林さん)
多くの方々に協力してもらいながらデータを蓄積し、研究・実験をするのには理由があります。それは、お客様にレモンの機能性がうまく伝わっていないという危機感があったから。ある家庭では、使い切れない「ポッカレモン100」が見つかったこともあり、お客様の「使う習慣」が育っていないと痛感したそうです。
「一度買っていただいても、商品の価値が理解されなければリピーターにはつながらず、毎日使っていただくこともできません。同じような家庭を増やさないためにも、見つかった機能は機能性表示食品などの制度を活用して、伝えていく必要があると考えました」(吉川さん)
国産レモンの一大生産地である広島県と2013年にパートナーシップ協定を結び、県の総合研究所や県立大学と共同で研究を開始。
「2018年に開始した本研究においては自治体、大学、企業の連携により、広島県大崎上島町の住民を対象としてレモンを5年間に亘り、日常的に食生活に取り入れることによる生活習慣病関連指標等に及ぼす影響を確認しています」(吉川さん)
『キレートレモン MUKUMI』は”推し活ドリンク”?
もともとこの「キレートレモン」は「レモンの価値を体感できる」といったコンセプトのもと販売を始めたもの。
「オリジナルの初期のパッケージは、一般的なレモンジュースとの差別化を図るため、あえて無機質なデザインを採用しました。その後、商品が認知されるに従い、レモンのイラストに水滴を加えるなど、リニューアルを重ねていきました」(吉川さん)
一般的なエナジードリンクは若者向け、疲労回復飲料は男性向けのイメージが強いのに対して、「キレートレモン」シリーズは、レモンが持つ「身体や美容によい」という情緒的な価値と、「疲労回復」などの機能的価値の両方を打ち出しています。
「『キレートレモン クエン酸2700』は、30代以上の女性比率が高いのが特徴です。また『キレートレモン MUKUMI』は写真映えを気にするためなのか、卒業式や成人式(二十歳の集い)の時期や、コンサート会場やテーマパーク近隣のコンビニエンスストアでも売れ行きが好調だと聞いています。言うなれば”推し活ドリンク”としても利用されているようです」(林さん)
パッケージもレモンと炭酸から想起されるリフレッシュ感や爽やかさが表現されており、他商品と一線を画しています。ここに機能性表示食品を加えることで、他社商品との差別化はもちろん、ブランド内でのすみわけもうまくできています。

「発売25周年を迎えても、リニューアルをして新しい商品を出し続けています」と林さん
製品を小瓶(一部商品はペットボトル)にしたのは、1999年に医薬部外品がコンビニエンスストアやスーパーなど、一般小売店での販売が可能になった規制緩和と関係しています。
「栄養ドリンクは小瓶が多く、他の飲料とは違う専用の棚で売られています。『キレートレモン』も同じ棚で販売したかったため、健康を意識した見た目や、健康効果が期待できると感じられるサイズ感にしました」(吉川さん)
日本にレモンが入ってきて、まだ150年
「キレートレモン」ブランドや「ポッカレモン100」によって、レモン市場において確固たる地位を確立したポッカサッポロ。2026年3月には新ブランド「ポッカレモン食彩」を立ち上げ、ドレッシング市場へも参入しました。
「現在の商品は、すぐに飲める飲料タイプと、調味料として使う対応に大別されており、いずれも果汁やポリフェノールの機能を打ち出したものです。しかし、レモンにはまだ解明されていない機能的価値があるはずです。それを明らかにし、新たな商品を市場に投入していきたいと考えています」(吉川さん)

「ポッカサッポロフード&ビバレッジ」東京本社が所在する恵比寿ガーデンプレイス内にある「レモンの木」説明
「日本にレモンが入ってきて、まだ150年です。対して欧州には1000年近いレモンの歴史があり、葉っぱや花を使うなど、日本ではまだ知られていないレモンの活用法がたくさんあります。そういった歴史や文化を調査し、健康への効果を科学的に確かめたうえで、新しい形にしていきたい思いがあります」(林さん)
少し先のことになりますが、2057年にはポッカサッポロのレモン事業は100周年を迎えます。その歴史を途絶えさせないためには、日本におけるレモンの食文化をさらに発展させ、いかにして新しい価値を見つけ、発信し続けられるかがカギとなります。同社の挑戦が、私たちの健康的な未来を形づくっていくのかもしれません。
取材・文/大正谷成晴 撮影/関大介















