【セミナーレポート】コーヒー第3の健康成分「トリゴネリン」が白色脂肪細胞をベージュ化して安静時のエネルギー消費を向上!

ミドルシニア世代に向けたアンケート調査では、体重や体型が維持しにくくなった理由として、男女ともに大半の人が「老化」や「運動不足」よりも「基礎代謝の低下」と回答していました。この基礎代謝と密接に関わっているのが脂肪細胞です。2種類ある脂肪細胞のうち、白色脂肪細胞をいかにベージュ化するかという部分が1日の代謝の7割を占める安静時エネルギー消費量を向上するための鍵となります。
2024年11月14日に、「池谷敏郎先生と考える!UCCの最新研究で見出したコーヒーの第3の健康成分『トリゴネリン』の効果とコーヒーの新しい楽しみ方」をテーマに掲げ、カフェインやクロロゲン酸に続くコーヒーの第3の健康成分トリゴネリンが白色脂肪細胞をベージュ化するという研究成果とともに、UCC上島珈琲株式会社がセミナーを開催しました。その中から、池谷医院 院長 池谷敏郎氏の登壇とUCC R&D本部 研究開発部 植田恵美氏、有木真吾氏によるトリゴネリンの研究成果についてレポートします。

<講演1>知っているようで知らない『代謝』の話
池谷 敏郎 氏(池谷医院 院長)

1つ目の講演では池谷敏郎氏(池谷医院 院長)が代謝に関する基礎知識から、代謝に影響を与える脂肪細胞の種類とその機能について解説しました。

臨床で垣間見る、ミドルシニア世代の悩み

はじめに、アニメ漫画「サザエさん」を例に挙げながら、かつての50歳代に比べると現代の50歳代では肉体的にも精神的にも若々しい人が多いと語りました。しかし、日々の外来診療では40歳代から60歳代で多くの患者が、「若い頃はすこし頑張ればすぐに痩せられた」という風な悩みを口にしていると続けます。とくに60歳代の人では男女ともに10年前と比べると、約8割の人で体重を落としたり体力や体型を維持し続けたりすることが難しいといった、ミドルシニア世代の現状について触れました。
ここで、2024年10月にUCC上島珈琲株式会社(以降、UCC)がおこなった調査では、食事や歩き方などの負荷が小さい取り組みによって、体重や体型の改善を目指す人が多いという傾向も。ただ、そうした努力の成果が実った人は、全体の半数にも達していませんでした。

代謝3種類のうち注目すべきは「安静時」

続いて、ミドルシニア世代が体重や体型を維持しにくくなる主な要因は代謝によるものが大きいと話しました。例えば、食べたものの分解と吸収を介して生体活動に必要なエネルギーを変換したり、身体を構成するための材料となったり、脂肪として体内に溜め込んだりする機能も代謝の一部です。代謝には3種類あり、「基礎代謝」と「食事代謝」、そして「身体活動代謝」です。このうち、「基礎代謝」というのは、とくに何もしていない状態で呼吸や血液の循環、消化活動などによりエネルギーが消費されるような代謝を指します。この基礎代謝と食事代謝をあわせた、全体的な代謝の約70%を占める安静時の代謝を高めることが、内臓脂肪の蓄積予防や、体重管理と体型を維持するための鍵になると説明しました。

代謝が減る原因、11~12月はとくに注意が必要

代謝の半分以上を占める基礎代謝は加齢によって緩やかに低下し、とくに筋力の低下が目立つようになる60歳代以降では、その低下が顕著です。低下の原因としては加齢のほか、季節変動による低下もあると話します。基礎代謝量は、熱を産生する必要性のあまりない夏場は低く、反対に寒さが極まる1月か2月には高く推移するのが一般的です。しかし11月から12月にかけては、気温変化に対して基礎代謝量の変化がまだ追い付いていないことに加え、年末は飲食する機会が増えやすいこともあって、この時期に太りやすいと感じている人が多いのではないでしょうか。そのため11月、12月のまだまだ基礎代謝があがってこない段階から少しでも基礎代謝をあげる身体をつくるためにどう過ごすかが重要と語りました。

代謝の個体差は脂肪細胞の働きにあり

代謝が変動する要因に触れた上で、その個体差を左右する脂肪細胞の働きについて解説しました。大きく分けて2種類ある、脂肪細胞のひとつはエネルギーの貯蓄を目的として、皮下や内臓の周りに溜まり込む白色脂肪細胞。もうひとつは、脂肪を燃焼してエネルギーを生み出す褐色脂肪細胞です。
個体差のポイントとなるのはこれら脂肪細胞の働き方で、褐色脂肪細胞を多くもつ人ほどエネルギーを消費しやすく、太りにくい体質と言えます。ただ、この褐色脂肪細胞は出生後をピークに年齢とともに減少し、40歳代では大分減って、60歳代ではほぼゼロになると言われていると説明しました。

通称“やせ細胞”、ベージュ脂肪細胞とは

しかし、褐色脂肪細胞が減少してしまっても、代謝を上げるために脂肪細胞を変化させる方法があると語ります。それが、通称“やせ細胞”と呼ばれるベージュ脂肪細胞です。これは、運動習慣や一部の食品(オメガ3脂肪酸など)をとることによって白色脂肪細胞がベージュ化した細胞です。もとは脂肪を溜め込む白色脂肪細胞にも関わらず、あたかも褐色脂肪細胞のように脂肪を燃焼し、代謝を高めるように働きます。

脂肪細胞のベージュ化を促す方法

つまり、このベージュ化を促すことが、燃えやすい身体を維持することにつながると説明しました。これには運動することが効果的で、もちろん生活習慣も関わってきます。さらに、前述のような安静時のエネルギー消費の代謝に占める割合も考えると、自律神経の働きを正常に保つことも欠かせません。
そこで、自身の心がけている生活習慣について具体的な例を挙げながら説明しました。例えば、毎朝決まった時間に起きて日光を浴びることで体内時計をリセットし、各臓器を正常に機能させて身体のリズムを整え、代謝を高めるように配慮するなど。また、自律神経の働きを高めて基礎代謝を上げるには、仕事での適度な緊張とリラックスの時間に対し、メリハリをつけるのも良い方法と話します。
また、緊張を解くひとつの方法として、軽い昼寝のほか、コーヒーの摂取を例に挙げました。さいごにコーヒーの摂取は近年、安静時のエネルギー消費を高めるという報告がなされ、昼食のご飯を半分にして努力している自分にとっては大変うれしい研究成果だと締めくくりました。

<講演2>コーヒーの第3の健康成分「トリゴネリン」の研究成果
植田 恵美氏/有木 真吾氏(UCC R&D本部 研究開発部)

2つ目の講演では植田 恵美氏と有木 真吾氏(UCC R&D本部 研究開発部)が、コーヒー由来トリゴネリンの機能や、安静時のエネルギー消費を向上する働きについて研究成果とともに解説しました。

コーヒー研究者の間でも謎の多い成分「トリゴネリン」

まず、トリゴネリンとは何かを解説します。一般にはあまり知られていない成分ではあるものの植物界に広く存在し、トリゴネリン量を調べた研究によると、植物のなかでも特にコーヒー豆に多く含まれているため、研究者にとっては既知の成分でした。しかし、カフェインやクロロゲン酸に比べると、ほとんど研究されてこなかったのが現状です。

ただ、少ないながらも行われていた研究で、脂肪細胞への脂肪の蓄積を抑える作用や白色脂肪細胞をベージュ化するという内容の報告があったことから、UCCはその機能性に着目し開発研究に乗り出したと話します。白色脂肪細胞のベージュ化は、脂肪代謝の分野で注目されているトピックスです。
UCCはトリゴネリンをコーヒーの “第3の健康成分”と位置づけて企業パーパス『より良い世界のためにコーヒーの力を解き放つ』に則り、これまで細胞レベルでしか報告されていなかった機能性を追求し、コーヒーの新たな価値探求に向けて研究を進めていると語りました。

「トリゴネリン」開発研究における課題

その研究における課題は、機能性を担保できるトリゴネリンの量と、コーヒーとして飲んだときのおいしさを最適なバランスで仕上げること。基本的にトリゴネリンは熱に弱いため、豆を焙煎するほどその量は低下すると解説します。また、豆の種類によってもそれは異なり、トリゴネリンの熱による変化量は様々です。
コーヒーは通常、生豆を焙煎することで豆に含まれる成分が化学変化を起こして様々な香りや酸味、苦みといった風味が生まれます。そのため、豆の種類から焙煎の度合いまで、膨大な数の組み合わせのなかで最適解を探すことに尽力したと語りました。

研究成果「トリゴネリン」の機能性をヒトで実証

続いて、今回の研究で明らかになったトリゴネリンの「BMIが高めの方の安静時のエネルギー消費の向上をサポートする働きがある」という機能性について説明します。研究では、基礎代謝のなかでも安静時におけるエネルギー消費量に注目し、呼気を測定することでその効果を調べました。試験概要はプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験にて、試験食品はトリゴネリンを含むコーヒーと含まないコーヒーの2種類です。最終的な解析対象者91人のうち、BMIが23以上の20人でサブグループ解析をおこないます。

その結果、全体としての群間差は見られなかったものの、サブグループ解析では優位な差が見られました。この試験の実施時期が1月末から3月末という、気温が上昇するタイミング、つまり代謝が低下するタイミングだったことを加味しても、安静時のエネルギー消費量はトリゴネリン摂取群でその値が向上していることを差し示す結果です。
一方、褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞の合計密度を表す、褐色脂肪密度の変化量についても有意差が見られました。その測定には、鎖骨の少し上のトータルヘモグロビン量を算出するという血液や組織などのサンプル採取を必要としない方法を用いています。結果は、トリゴネリン摂取群はプラセボ群と比べ、褐色脂肪密度の明らかな増加が見られました。

細胞試験ではベージュ化を可視化

さらに、細胞試験で示された、トリゴネリンによる白色脂肪細胞のベージュ化について紹介しました。白色脂肪細胞の内部に蓄積する脂肪滴(中性脂肪)は、トリゴネリンの添加によって小さくなり、細胞内のミトコンドリアの数の増加も確認できます。また、ベージュ化に関わる遺伝子発現のパターンを示していることから、安静時エネルギー消費量と褐色脂肪密度が増えた理由は、トリゴネリンによる白色脂肪細胞のベージュ化が起こったことによるものと推察を述べました。

<対談>

講演のあとには、登壇者3人による対談とコーヒーの試飲がおこなわれました。

コーヒーと聞くとカフェインのもつ覚醒作用から、夜に飲むと眠れなくなるという印象をもつ人も多いでしょう。今回、UCCが研究開発した機能性表示食品のコーヒー「&Healthy®」はカフェインレスコーヒーということを受け、池谷氏は「時間を気にせずに1日中、飲むだけで内臓脂肪の燃焼に役立つのはありがたい」と語りました。

今回のような、コーヒー由来トリゴネリンの継続的な摂取が脂肪細胞をベージュ化するという発見は、とくに安静時の代謝が鍵となるミドルシニア世代で朗報となったことでしょう。現代では、昭和の時代にタバコとともに嗜まれていたコーヒーのイメージは払拭されつつあるのかもしれません。
さらに今、コーヒーは認知症など様々な疾患に関して研究報告も期待されています。ここに3つ目の健康成分としてトリゴネリンが加わったことで、コーヒーのニーズはより多様化していくのではないでしょうか。


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