“目的” は “手段” を正当化する?

先月に引き続き、機能性表示食品の景品表示法に基づく措置命令に端を発する消費者庁による “科学的根拠への疑義” の話題である。当節どこで話を聞いてもこの話題になり、そして健食業界の誰もが「この先どうしていいのかわからない」と不安を口にする。前代未聞の状況だ。

あらためて時系列をまとめると、①6月30日に消費者庁がさくらフォレストに対する景品表示法に基づく措置命令を発し、同社が販売する機能性表示食品2商品を景品表示法に違反する行為(優良誤認)とし、違反となる表示の取りやめと消費者への周知、再発防止などを命じた。同日中にさくらフォレストは2品を届出撤回し、「厳粛に表示方法の見直しを図り、管理体制の一層の強化に努める」旨を表明。

続いて②7月3日には、2品の機能性関与成分であるDHA・EPA、モノグルコシルヘスペリジン、オリーブ由来ヒドロキシチロソールの3成分いずれかを配合し、同じ科学的根拠を用いた88件の商品について、各届出事業者に科学的根拠の合理性を確認し、2週間以内に回答するよう事務連絡を発出。また健康食品産業協議会、日本健康・栄養食品協会など関係5団体に対し、すべての機能性表示食品について、すでに届出・公表されている科学的根拠の再検証を随時行うよう文書で要請した。

③7月25日にはかねて同庁で検討が進められてきた届出ガイドラインの一部改正案が公表され、2週間のパブリックコメントを開始。公表された改正案の概要では、その第一項に「システマティックレビューの「PRISMA声明(2020年 )」への準拠」が打ち出され、「届出内容の責任の所在の明確化」、その他の技術的事項として「参照するガイドライン等の変更」、「研究計画の事前登録」が挙げられている。

そして④7月27日には先の88件の商品を届出した事業者からの回答結果を公表。あわせて撤回を申し出ていない73件は “消費者の商品選択に資する” として同庁ウェブサイトに商品・企業名・連絡先などを公表。業界に激震が走った。随時更新するというこのリストは、その後8月17日の更新では80件が撤回もしくは撤回申出し、8月22日の更新では85件が撤回もしくは撤回申出し「科学的根拠があると主張」するのは2社3商品を残すのみとなった。

一連の行政側の対応は、現状の「PRISMA声明2009」準拠のため世界的にみると立ち遅れているという、わが国の研究レビューを2020年版準拠へと促し質的向上を目指す方向性が見て取れる。8月中にほとんどの事業者が撤回に転じたのもこのような“意図” を汲んだとみられる。改正ガイドラインに基づき再届け出を目指す企業も少なくない。実際、事後チェック指針が示された段階でこんにちの事態を想定し対応を進めてきた事業者もあると聞く。より信頼性のあるエビデンス、責任の明確化は確かに消費者の利益に資するし業界のさらなる発展も見込めるだろう。

本欄の筆者としては、上記の事情を踏まえそれでもなお、これだけ多くの企業を行政が公表することに強い違和感を持つ。他の行政分野であれば悪質な違反や不法行為、それをなお改めない事業者に対する制裁の一環ではないのか。いくら「商品の安全性に問題があるものではない」と但し書きがついていても、消費者にどう映るか。

消費者リテラシーの難しさを一番よく理解し、日々苦労を重ねているのが消費者庁ではないのか。すでに事業に影響が出ている企業があってもおかしくない。それは “正しい目的の為の必要な犠牲” なのか?前述の残った2社はいずれも受託メーカー。ユーザーである販売事業者を慮る姿勢が見て取れる。

※編者注:9月末現在、「科学的根拠があると主張」は1事業者2商品。同事業者も撤回の意向を表明しており、実質的に販売・流通する商品については、終売次第の撤回となる見通しだ。

「FOOD STYLE 21」2023年9月号 F’s eyeより

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