◎値上げが進む健食原料市場◎畜水産由来原料中心に上昇傾向 サプリメントへの価格転嫁はなお困難
加工食品および原料素材、添加物、容器・包装など全面的な値上げが続くなか、健食原料についても価格改定の動きが顕著となってきた。コラーゲンペプチドをはじめとする畜産・水産由来の健食原料では、原料の供給減が著しく、国内外ともに価格上昇が続く。植物・農産物由来原料では品目によるものの、為替・燃油・物流コストによる価格改定も段階的に進んできた。一方、サプリメント市場では一部大手が製品値上げを実施しているが、一般加工食品市場に比べると現時点ではごく限定的だ。そこには販路や市場環境の違いが見て取れる。
動物系原料-乳原料・畜産物の減産で原料逼迫
健食系原料の価格改定は、プロテインの主原料ホエイ(WPC)など先行。世界各地の新興国でタンパク需要は伸び続ける一方、生産は追いついていないという需給構造に加え、物流コストや石油価格上昇が影響し、昨年~今年にかけてスポーツプロテイン製品の主要メーカー各社が数次の値上げや内容量調整を実施。さらに今夏はオセアニアの天候不順による原料乳の減産のほか、欧州の記録的熱波による影響も懸念されており、後半期以降さらなる値上げは避けられそうにない。
また、美容や関節ケア、スポーツなどで利用が広がるコラーゲンペプチドについては、今秋以降10~25%の値上げが進む見通しだ。原料の豚皮・牛皮・淡水魚皮・鱗のいずれも原料の逼迫や生産遅延などが生じており、当面は解消の見込みは薄い(※Food Style21 8月号 関連記事16ページ参照)。さらにコラーゲンペプチドに限らずイミダゾールジペプチドやプラセンタ、コンドロイチン硫酸等の牛・豚・鶏などの畜肉由来の健食原料については、原料乳と同様、世界的な動物性タンパク需要の高まりに供給が追い付かない市場構造のなかでASF・CSFなどの家畜伝染病の発生や、新型コロナの影響による飼育数・と畜頭数の減少、中国などへの生体輸出の増加、原料加工現場の人手不足などで総じて逼迫傾向にあり、さらにロシアのウクライナ侵攻に伴う飼料価格高騰が拍車をかけている状況だ。
欧州・米国・国内いずれも原料価格は上昇傾向にあり、一部の国内メーカーではプラセンタやイミダゾールジペプチド、コンドロイチン硫酸などで今春に価格改定を実施している。今後、畜産物由来品については全体的な価格改定が避けられなくなりそうだ。このほか、国産のキチン・キトサンについては、産地で観光客が減った分、通販で丸ごと販売する割合が増えたことなどを背景にカニ殻原料が減少し、原料確保が困難になるなどの影響も生じている。
植物系原料-ケルセチン原料などで価格高騰
農産物・植物由来原料では、ケルセチンやその配糖体であるルチンの原料となるエンジュの花・蕾がコロナ禍による需給変化で、平年の3~4倍と過去にない高騰をみせている。コロナ禍に伴い米国で免疫賦活機能や老化細胞除去機能で爆発的な人気となり、日本でも“抗メタボ”茶飲料の人気で需要が急伸した、その一方、主産地中国やベトナムなどでの生産量は長らく横ばい。ロックダウンの影響などで収穫を行う労働者の確保が困難となり、さらなる減産に向かいそうだ。
北欧などで夏場に野外採集されるビルベリーについては、今年は季節労働者が確保できる見通しの一方、青果や加工食品向けが主体のウクライナ品がロシアの侵攻で収穫不能になっている。今後、代替先として北欧品への買いの集中や記録的な猛暑による山火事の発生なども懸念されてきた。農産物・植物由来品は畜産に比べると動向はまちまちだが、為替・燃油・物流コストは共通しており、いずれにしても価格維持は困難になりつつある。一部の海外メーカーでは、今春までに主要品目の一律値上げを実施しているが、今後は1ドル130円台の円安を前提とした価格改定が広がってくるとみられる。
原料上昇するも製品価格は‟維持” 通販への影響など懸念
このように原料動向は厳しさを増し、製造コストも上昇が続いている。一般加工食品は今年後半期にかけて二次値上げ、三次値上げに突入する品目は多く、上げ幅も5~15%以上とより上昇してきた。帝国データバンクの調査によると国内の食品値上げは年内で2万品目を超えることが確実と報告している状況だ。
しかしながら本誌が今年7月にかけて複数のサプリメント大手にヒアリングしたところ、すでに価格改定や減量を進めるスポーツプロテインなどを除き、多くが‟当面は自社吸収に努める”と回答。原料、製造コストの上昇は共通の課題として認識しながらも、一般食品と同様のアクションは困難であるようだ。その背景のひとつには近年にかけて、インバウンドと共に販売量を伸ばしてきた、通販・サブスクなど定期購入ユーザーの存在がある。もし値上げを強行したり、サービス内容や製品をネガティブに変更した場合、少なくないキャンセルが生じることは想像に難くない。人が生きていく上で必要不可欠な一般食品と比べた場合、サプリメントは‟いざとなればやめてしまえる”という違いが泣き所になる。さらには販促コストが売上に直結しやすいという、サプリメント市場ならではの特性も多くの企業が“我慢”する選択を取らざるを得ない要因となっているようにもみえる。
世界情勢の行く末も定かでないなか、業界各社は難しい判断を迫られている。
「FOOD STYLE 21」2022年8月号 良食体健トピックスより