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腸は「体内の庭」。その食は腸内の微生物の庭園を耕すことにつながっているか

先進国においてはほとんどの感染症が克服され、もはや感染症は恐れるに足らずと考えられ始めていた矢先に起きた新型コロナウイルスの世界的流行は、おごる人間に対して微小なウイルスの力を改めて見せつけました。そもそも人間の目に見えているのは世界の半分であり、もう半分の見えない世界の主役=微生物なしでは私たちの健康も生活も1日として成り立たないことを深く認識させてくれるのが『土と内臓 微生物がつくる世界』(デイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー著 片岡夏実訳/築地書館)です。

この本を著したのは、地質学者である夫・デイビッド、生物学者・環境プランナーである妻・アンの夫妻。二人は微生物の専門家ではありません。しかしながら、自宅の庭の「死んだ」土地が有機物の大量投入によりみるみる肥沃な土地に生まれ変わり、植物のみならず動物までも育むゆりかごになっていった経験と、その後アンにがんが見つかり、健康や食生活と向き合うことになった経験をきっかけに、微生物に多大な関心を持ちます。そして、微生物の観点から見れば根と大腸は同じ働きであること、つまり腸は体内の庭であり、食生活を変えて腸内の微生物の庭園を耕せば健康が改善されることが、医学、薬学、栄養学、農学などの知見と実践を通して説得力をもって語られています。

肥沃な土壌と健康な内臓に共通しているのは多様な微生物

本書の前半ではまず、夫のデイビッドの語り口で土壌と微生物の関係がひもとかれます。庭付きの家の土壌が植物に適さないことがわかった時、アンが木材チップや落ち葉、コーヒーかすや堆肥といった有機物を庭に与え続けたところ、岩だらけの硬い土が濃いチョコレート色に変化していき、5年間で沃野に変わりました。その際、有機物を土の上に山盛りにしてもいつの間にか消えてしまったといいます。有機物はなぜ、どこへ消えたのか。このことへの疑問が、二人が微生物に注目するきっかけになりました。有機物は消えたのではなく、さまざまな生物によって小さく分解され、最後は微生物と菌によって代謝されることで、栄養豊富な土壌をつくりだしていたのです。

並行してデイビッドは、土壌と植物の健康に関する研究や発見の歴史を解説していきます。土壌の有機物が直接植物に吸収されないとわかった後、植物の生長に欠かせない5つの要素が特定され、化学肥料が近代農業の基礎になったこと。一方、化学肥料を使い続けた土地は収穫量が減り、植物の病気が増えることに気づき、微生物の培養こそ農業の基本と示した研究者のこと。そして最新の土壌科学では、土壌微生物と植物の間には、植物とハチなどの花粉を媒介する昆虫との関係と同じぐらい複雑で緊密な協力関係があることが明らかになってきたと紹介します。

後半は、子宮頸がんと診断されたアンの動揺から始まります。手術は無事に成功、術後に食生活とがんの関係に興味を持ったアンは、がん自然療法医のハイジと出会い、健康を促進して免疫系を維持し、がん予防に役立つ食事の見直しを始めます。免疫について手がかりを求めるうちに、マイクロバイオーム(ヒトの体に共生する微生物)研究に興味を持ち、体内の自然に目を向けることになります。

そして「食べたものがマイクロバイオームの餌になる」ことが、食事が健康を大きく左右する理由であると気付き、食生活を変えて「腸内の微生物ガーデニングを意識」することで二人の健康が大きく改善。さらに、消化管の細胞が腸内微生物と相互作用し、植物の根細胞が土壌微生物と取引をするという生命活動とプロセスが似ていることに注目し、「根と大腸は同じはたらき」であるという結論に至るのです。

個人的な体験を発端に未知の分野の科学を学び、理論を実践で、実践を理論で裏付けながら健康への深い洞察に至る二人の思考プロセスは、ヘルスリテラシーのあり方の一つのお手本ともいえるもの。人間は自然の一部であり、その自然の半分は目に見えないのだと理解することは、自然に対する謙虚な態度を取り戻し、健康や幸福に対する考え方を変えることでしょう。

【書籍情報】
『土と内臓 微生物がつくる世界』(デイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー著 片岡夏実訳/築地書館)


ウェルネス総研レポートonline編集部

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