細胞から全身を元気にするという新発想「細胞再活性化」のスイッチとは
年齢とともに老いゆく身体。老いは自然現象で、根本的に止めることはできません。
しかし、そんな常識を覆す研究が行われています。
「細胞再活性化」というアプローチは、老化したパーツごとに行われてきたアンチエイジングと異なり、”全身の細胞そのものに働きかける“新しい発想。その鍵を握るのが「オートファジー」や「サーチュイン遺伝子」の存在です。細胞の老化にブレーキをかけるこれらの日常的な活性には、なにが必要なのでしょうか?
ここでは、「オートファジー」や「サーチュイン遺伝子」活性のスイッチを入れる方法として、食事や運動、食品素材について解説していきます。
人はなぜ老いるのか?老化と細胞の関係
人体の最小単位といえる「細胞」。37兆個あまりの細胞で構成される人体の健康には、1つ1つの細胞の質が重要であることがわかってきました。普段、細胞は新陳代謝や修復を繰り返しながら私たちの身体を健全に保っていますが、細胞の回復力が下がると徐々に細胞内の組織が損傷し、細胞そのものの機能が低下していきます。
この細胞の機能低下こそ、「老い」の正体です。
それでは具体的に、どのような状態を細胞の機能低下と呼ぶのでしょうか?
これらを説明するためには、人体に備わる2つの働きを説明する必要があります。
1つめは「オートファジー」。オートファジーは、劣化や損傷のある細胞内組織を回収し、分解やリサイクルを行う機能で、細胞内の有害物の除去も引き受けます。細胞内の新陳代謝ともいえますが、肌のターンオーバーに代表される“細胞そのものが生まれ変わる”作用とは異なり、ちょうど車の部品交換のような、細胞内の劣化組織に限定した新陳代謝であると考えるとよいでしょう。オートファジーのおかげで、神経や心筋細胞のようにほとんど新陳代謝が行われない部位も健全に保つことができます。
2つめは、「サーチュイン遺伝子によるDNA損傷の修復機能」。DNA損傷の多くは、紫外線やストレス、生活習慣の乱れによる活性酸素によって引き起こされます。また、細胞内でエネルギー産生を行なっているミトコンドリアに不具合が生じると、大量の活性酸素が生じて組織に甚大な被害をおよぼすことも。そこで登場するのがサーチュイン遺伝子です。
サーチュイン遺伝子が発動すると、必要に応じて酵素を産生し、DNAについた傷の修復に努めます。
細胞に影響を及ぼすこの2つの機能は、一見、無敵の修復策であるように見えますが、もちろん万能ではありません。
オートファジーとサーチュイン遺伝子による劣化細胞の改善機能は、加齢とともに弱まる傾向があり、放っておくと細胞全体の機能低下を招きます。細胞の機能低下が続くと、見た目の老化が促進され、疲労からの回復にも時間がかかる上に、肥満や骨粗しょう症、ひいては生活習慣病などの原因にもなりかねません。 別の言い方をすれば、細胞機能の低下を防ぐためには、オートファジーとサーチュイン遺伝子を活性化させていくことが必要なのです。
「オートファジー」「サーチュイン遺伝子」を活性化する生活習慣
先に述べたように、細胞の機能低下の原因は、加齢などによる「オートファジー」や「サーチュイン遺伝子」の機能不全といえます。そこで、近年は、オートファジーとサーチュイン遺伝子を活性させて細胞機能を取り戻す「細胞再活性化」に注目が集まっています。
細胞再活性化に効果があるのは以下の生活習慣です。
- プチ断食とカロリー制限
- 高脂肪食除去
- 適度な運動
- 寒さ刺激 など
1は、一時的に細胞を飢餓状態にさらすことでオートファジーを活性化することができます。またカロリー制限によってサーチィン遺伝子の活性に関わるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という補酵素が増えやすくなります。2は、高脂肪の食事を避けることで、「ルビコン」というオートファジーを抑制するタンパク質の増殖を減らすことができます。3は、カロリー制限と同様、軽度の運動によってサーチュイン遺伝子を活性させるNADが増えます。4は、 寒さによる刺激でサーチュイン遺伝子のスイッチを入れることができます。
大切なのは、1〜4の方法によって、身体に適度なストレスをかけるということ。ですが、自己流の運動や食事制限は、ケガや栄養失調、フレイルと呼ばれる身体および認知機能の低下を招く可能性があるので、十分な注意が必要です。
「オートファジー」「サーチュイン遺伝子」を活性化する食品素材
前述の細胞再活性化を目的とした生活習慣は、自己判断によるリスクや長期間の継続が課題となります。
対して、普段から口にできる食品であれば、習慣化のハードルは比較的低いのではないでしょうか。
以下は最近の研究で細胞再活性化の効果が確認された食品素材です。
《オートファジーあるいはサーチュイン遺伝子の活性に効果的な食品素材》
- NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)
- カテキン
- スペルミジン
- アスタキサンチン
1は、サーチュイン遺伝子を活性化する補酵素・NADを合成するプロセスで出現する化合物。NADの産生能力は、年齢と共に落ちますが、NMNを摂取すると速やかに腸内で吸収され、NADに変換されます。食品では主に枝豆やアボカドに含まれますが、量はごくわずか。2は緑茶に含まれ、オートファジーを活性化します。3は、複数の臓器におけるオートファジーの活性が確認されています。味噌や納豆などの伝統的な日本の発酵食品やキノコなどに豊富で、人体でも合成されますが、こちらも年齢と共に産生量が激減します。4は、鮭やいくら、エビに含まれる赤色の天然色素のこと。オートファジーを活性化する働きがあることがわかっています。
「細胞再活性化」の最新研究は「ダブル」でのアプローチ
また、最新の研究ではオートファジーとサーチュイン遺伝子の両方に働きかける食品素材にも注目が集まっています。
サーチュイン遺伝子はDNA損傷の修復だけでなく、オートファジーの活性も主導しており、細胞内の新陳代謝や有害物の除去を行うオートファジーが実行部隊のように機能して、細胞再活性化を行っています。
つまり、オートファジーとサーチュイン遺伝子相互に働きかけが行える食品素材であれば、より効率的に、全身の細胞にポジティブな影響を与えることができるのです。
《オートファジーとサーチュイン遺伝子の相乗効果が期待できる食品素材》
- レスベラトロール
- ウロリチン
1は、赤ぶどうの種や皮、ピーナッツの薄皮などに含まれ、カロリー制限をしなくてもサーチュイン遺伝子を活性化すると注目された素材で、後にオートファジーに関与する遺伝子も誘発することが確認されました。
「レスベラトロール」は動物実験で寿命を延ばす働きがあることも確認されています。
2は、現在関心が寄せられている食品素材。ザクロやベリー類、ナッツ類に含まれ、世界で初めて損傷ミトコンドリアを除去するマイトファジー(オートファジーの一種)の様子が観察されました。同時にNADも増加させるので、サーチュイン遺伝子のスイッチも入れることができます。
2016年には、国際学術誌「Nature Medicine」に損傷ミトコンドリアの分解や線虫寿命の延命効果、SIRT1の活性によるシワ改善やセラミド合成効果、動物の筋肉機能増強効果が発表され、「ウロリチン」はウェルエイジング界で一躍脚光を浴びる存在となりました。
ウロリチンは、ザクロの主要ポリフェノールであるエラグ酸由来の食品素材であり、元来人は、摂取したエラグ酸から腸内細菌による代謝を経て体内でウロリチンをつくりだしてきましたが、腸内細菌叢は多様性に富み、個人による差が大きいため、腸内でウロリチンを産生できるのは日本人の約半数といわれています。誰もがウロリチンの恩恵を享受できるよう、効率的にウロリチンを生産するための技術開発が進められてきました。その結果、体内でウロリチンを産生する場合と同じく腸内細菌を活用し、世界で初めて工業的なウロリチンの大量生産が実現したのです。
ウェルエイジングの未来・新たな時代の幕開け
ウロリチンの摂取による細胞再活性化が期待できる範囲は、全身におよびます。
たとえば、美容分野では、シワやシミに対する効果が確認されました。3次元皮膚モデルを採用した実験では、ウロリチンの濃度に比例してコラーゲンを分解する酵素の産生が抑えられ、同時に正常なヒト皮膚線維芽細胞ではヒアルロン酸が産生される様子が認められています。さらにメラニン色素や、その合成に関わる酵素自体も抑制されていることがわかりました。
さらに、人の造血細胞を使用した骨粗しょう症予防効果に関する試験では、ウロリチン濃度が高いほど破骨細胞の過剰な働きを抑え、骨密度が上がることが証明されました。育毛と皮下脂肪抑制効果についても、マウスを使った実験で明らかな抗老化現象を認めています。
オートファジー、サーチュイン遺伝子を中心とした細胞再活性化のアプローチは、従来のアンチエイジングの概念を覆すものです。人生100年時代といわれて久しいわが国の現状を踏まえても、若々しく健やかなエイジングは国の未来を左右する希望といえます。
ウロリチンをはじめとした新しい機能性素材の開発は、ポストアンチエイジングの新たな潮流として見逃せません。
細胞そのものに働きかけて回復力を高める。老化に悩むことのない時代の幕開けが、すぐそこまで来ています。