04認知症コラム
ストレスで記憶障害が起こる?
考えられる
病気と原因、ストレス解消の方法を解説
2025.05.30

最近、大事な仕事の記憶が抜け落ちたり、作業中に「何をしていたか」忘れてしまったりすることが増えていませんか?それは、ストレスが原因かもしれません。この記事では、ストレスが記憶障害に影響を及ぼすケースや、ストレス軽減のための対処法、ストレスによる記憶障害は何科を受診するのかなどについて解説します。
ストレスによって記憶障害を引き起こす4つの病気
記憶障害とは記憶(過去の経験が後になって意識や行為の中に再生されること)に何らかの障害が生じることを指します。
記憶にはさまざまな種類がありますが、記憶障害ではエピソード記憶(出来事が時間・空間情報と同時に保持・再生されるもの)に障害が生じることを指すことが一般的です。
ここではストレスによって引き起こされる記憶障害の種類を紹介します。

解離性健忘症
解離性健忘症は解離性障害の一種で、大きなストレスや心的外傷によって発症します。この症状では、特定の情報や出来事を思い出せなくなることが特徴です。特定の情報や出来事、自分は誰か、行ったことがある場所といった記憶が抜け落ちることがあります。
これは、脳が強い精神的ショックから自身を守るために記憶を遮断する防御反応の一つと考えられています。
- 解離性健忘症になりやすい人
- 男性よりも女性に多くみられる
- 解離性健忘症になるきっかけ
- 身体的虐待、性的虐待、事故、事前災害、死別など
一過性全健忘
一過性全健忘とは、突然かつ一時的に記憶が失われる障害です。原因は明らかにはなっていませんが、過度の飲酒や特定の薬を服用することがきっかけとなって発症することもあります。
一過性全健忘を発症すると、発作中やそれ以前に起こった出来事が思い出せなかったり、新しい経験を記憶として維持できなかったりします。なお、一過性全健忘は一時的な症状のため、治療の必要はありません。
- 一過性健忘症になりやすい人
- ・50~70歳の人に多くみられる
・男性に発症するケースがわずかに多い
- 一過性健忘症になるきっかけ
- アルコールの過剰摂取、特定の鎮静薬の服用、
精神的・肉体的ストレスなど
抑うつ状態
抑うつ状態とは、気分の低下や倦怠感、睡眠障害などの不調が現れる精神的な障害です。うつ状態の中度から軽度の段階を指し、日常生活に支障をきたす状態を指します。人間関係の悩みや長時間労働などの強いストレスを受け続けることで、誰でも抑うつ状態に陥る可能性があるため注意が必要です。
人間関係の悩みや長期にわたる身体的疲労といった強いストレスにさらされると、抑うつ状態になることがあり、日常生活に支障をきたすこともあります。
- 抑うつ状態になりやすい人
- ・まじめで、何事にも熱心に取り組む
・人からどのようにみられているかが気になる
- 抑うつ状態になるきっかけ
- 長期間のストレス、環境の大きな変化、生理や出産などによるホルモンバランスの乱れ
認知症・若年性認知症
認知症は記憶力や認知機能の低下により日常生活に支障が生じる状態で、過度のストレスにより発症リスクが高まることがわかっています。なお、65歳未満で発症したときは若年性認知症と呼び分けることが一般的です。
2022年の調査によれば、65歳以上の高齢者のうち約12%が認知症と推計されます。認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)と合わせると、約3人に1人が認知機能にかかわる症状があると考えられているのです。
- 認知症・若年性認知症になりやすい人
- ・高齢者(高齢になればなるほどなりやすい)
・外出や運動の機会が少ない
- 認知症・若年性認知症になるきっかけ
- 睡眠不足や過度の飲酒・喫煙が続く、他人とのかかわりが極端に少ない
【要注意】記憶障害の初期症状
10代や20代の若い世代でも、ストレスなどにより記憶障害になる可能性があります。また、過度の飲酒や睡眠不足によっても記憶障害が生じることもあるため、注意が必要です。
精神的・身体的に疲れているときは、直前の出来事を忘れてしまったり、新しいことを記憶できなくなったりすることがあります。記憶障害が一時的なものではないときや、もの忘れが激しいと思われるときは、認知症や若年認知症かもしれません。早めに医師による診療を受けるようにしましょう。
- こんな症状に注意
-
- 若いのに、記憶が抜け落ちるときがある
- 多忙なときに、記憶が途切れることがある
- 疲れがピークに達すると、記憶が曖昧になる

ストレス・加齢・認知症による
もの忘れの違い
過度なストレスによってもの忘れが生じるのは、脳の中の記憶をつかさどる「海馬」の細胞生成が阻害され、新しい記憶を保持しにくくなるからと考えられています。また、ストレスにより、もの忘れ以外にも記憶力の低下や抑うつ気分がみられることも少なくありません。
一方、加齢によるもの忘れは、脳の萎縮が進み、認知機能が低下することによって起こります。通常は日常生活に支障をきたすことはないため、特別な治療は必要ありません。
認知症は、加齢よりも顕著な脳の萎縮によって引き起こされます。出来事自体を忘れるだけでなく、進行すると日常生活に支障が生じるため、早期発見・早期治療が大切です。
もの忘れの原因を自己判断することは容易ではありません。もの忘れが気になったときは、医療機関を受診しましょう。
項目 | ストレス | 加齢 | 認知症 |
---|---|---|---|
原因 | ストレスによる脳の機能低下 | 脳の老化による機能低下 | 脳の病気による機能低下 |
症状 | 一時的な記憶力や集中力の低下 重要なことを忘れることは少ない |
部分的な記憶の欠落 体験の一部を忘れることがあるが、 体験自体は覚えている |
全体的な記憶の欠落 体験自体を忘れてしまう |
自覚 | あり | あり | なし |
周囲への 影響 |
日常生活に支障をきたすことは少ない | 日常生活に支障をきたすことは少ない | 日常生活に支障をきたすことがある |
具体例 | 「あれ、鍵どこに置いたっけ?」と 思い出すのに時間がかかる |
食事に行ったことは覚えているが、 何を食べたか思い出せない |
食事をしたこと自体を忘れてしまう |
記憶障害につながるストレスの原因
ストレスが常に記憶障害を引き起こすわけではありませんが、原因となりえるストレスについて知っておくことは大切です。記憶障害につながる可能性のあるストレスを紹介します。
脳疲労
ストレスを過度に受けていると脳が疲労した状態になり、認知機能が低下することがあります。また、ストレスによって生じたミスやトラブルも、「自分の能力不足が原因だ」と思い込み、さらにストレスが強まるといった悪循環が生まれることも少なくありません。
ストレスを感じる度合いは個人差があるため、他人にとってはささいなことでも脳を疲労させ、認知機能の低下を招くことがあります。ストレスを感じたときは適時解消することが大切です。
睡眠不足による疲労の蓄積
睡眠は、疲労やストレスから回復するために重要な役割を果たします。しかし、睡眠不足が続くと、ストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌が増加し、ストレス耐性が低下してしまうでしょう。
睡眠時間だけでなく、「睡眠の質」も同じくらい重要です。日中に強い眠気や注意力の低下を感じる場合は、睡眠の質が悪化している可能性があります。
スマホやパソコンの使いすぎ
スマホやパソコンの使いすぎは脳に負担をかけ、ストレスの原因になります。さらに、長時間の使用は「認知機能の低下」や「脳過労」を引き起こし、脳の働きに悪影響を与える可能性があると指摘されています。
とくに注意したいのが就寝前のスマホやパソコンの使用です。画面から発せられる光により脳が興奮状態になり、睡眠の質が低下する恐れがあります。

栄養不足
栄養不足は脳の働きに悪影響を及ぼし、ストレスの増加につながります。脳に十分な栄養が供給されないと、神経伝達物質がうまく作られず、自律神経が乱れやすくなるためです。さらに、ストレスを感じることで自律神経が乱れ、それがさらなるストレスを生むという悪循環に陥る可能性もあるでしょう。
とくに下記右記の神経伝達物質は、心の状態と関係が深いことで知られています。
- 心に関わる神経伝達物質
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- ノルアドレナリン:緊張・不安・積極性
- ドーパミン:喜び・快楽・意欲
- セロトニン:ドーパミンとノルアドレナリンのバランス調整
生活習慣を見直して
ストレスに強くなることが大切
ストレスなく生きていくことは不可能ですが、ストレスへの耐性を高めることは可能です。ストレスに強くなる方法をいくつか紹介します。
【睡眠】最低でも6時間は確保する
適切な睡眠時間は人によっても異なりますが、少なくとも6時間以上は必要とされています。しかし、十分に睡眠時間を確保しても、睡眠の質が低ければ十分とはいえません。良質な睡眠をとるためにも、寝室の環境を整えましょう。
また、夜眠れるようにするために、日中の運動量を増やす、寝る直前のスマホやパソコンは控えるなどの工夫も大切です。
- 寝室の環境を整えるポイント
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- 夜は暗く、朝は光を取り入れるようにする
- 暑すぎず寒すぎない室温にする
- 静かな環境で眠るようにする
- 睡眠の1時間前からスマホやパソコンの使用を控える
【食事】バランスのとれた食生活を心がける
栄養バランスのとれた食事は睡眠の質を高めるだけでなく、ストレス耐性を高める効果も期待できます。とくにストレスに対抗するホルモン生成につながるものを意識して、バランスよく食べるようにしましょう。
また、朝ごはんをしっかりと食べることは、体内時計を整える効果を期待できます。反対に就寝前に食事をすると入眠しにくくなることもあるため、なるべく避けましょう。
- とくに摂りたい栄養素
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タンパク質ストレスに対抗するホルモンや神経伝達物質の材料となる
摂取できる食品の例肉類、魚介類、卵、豆・豆製品、乳製品など
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ビタミンCストレスに対抗するホルモンを生成する
摂取できる食品の例ブロッコリー、ピーマン、イチゴ、キウイフルーツ、柑橘類など
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パントテン酸ストレスに対抗するホルモンの生成を助ける
摂取できる食品の例牛・豚・鶏のレバー、うなぎ、きのこ類、魚介類、納豆など
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カルシウム・マグネシウム神経機能を安定させ、精神を落ち着かせる
摂取できる食品の例カルシウム:小魚、大豆製品、乳製品、野菜など
マグネシウム:大豆製品、ナッツ類、海藻類、種子類(かぼちゃの種、チアシードなど)など
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タンパク質ストレスに対抗するホルモンや神経伝達物質の材料となる
【運動】適度な有酸素運動を行う
適度な有酸素運動は、ストレスの緩和に効果的だといわれています。ウォーキングやジョギングなどの軽い運動を取り入れることで、気分がリフレッシュし、リラックス効果が得られるでしょう。
また、適度な運動は睡眠の質を向上させ、夜に自然と眠くなる助けにもなります。ただし、過度な運動はかえって体に負担をかけ、ストレスを増やす原因になりかねません。自分に合った無理のない範囲で続けることが大切です。
- 運動のポイント
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- 1日20分以を目安に有酸素運動を行う
- 軽く汗ばみ、息が弾む程度の強度で行う
ストレスを感じたらしたい3つの対処法
記憶障害の予防のためにも、ストレスとの付きあい方に注意が必要です。ストレスを感じたときにしたいことをいくつか紹介します。

ストレスの原因を明らかにして解消する
ストレスを感じるときは、まずは何に対するストレスなのか分析してみましょう。原因を突き止めることで具体的な解消策を見つけやすくなるためです。
たとえば、オーバーワークが原因なら有給休暇を取得し、生活リズムの乱れが原因なら規則正しい睡眠や食事を心がけるといった対策が考えられます。
また、必要に応じて医師やカウンセラーに相談するのも一つの方法です。このように、ストレスを軽減するには原因を明確にし、適切な対策を講じることが重要です。
- 例
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- ストレスの原因が業務量にある場合は、減らしてもらうように相談する
- 周囲の人に相談しアドバイスを求めて解決を図る
ストレスとの向きあい方を変える
ストレスの原因に直接働きかけることが難しい場合は、考え方を変えてみるのも一つの方法です。たとえば、困難な状況を「自分の成長の機会」と捉えるなら、ポジティブに受け取れるかもしれません。
また、周囲の人に悩みを話すことも気分転換になることがあります。
ストレスの原因がわかっても必ずしも解消できるとは限りません。なんとかしようとすると、余計にストレスがかかる場合もあります。ストレスに対する向きあい方を変えて、前向きに対応しましょう。
- 例
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- 「上司が厳しく叱ったのは、期待されている証拠」と考えて前向きになる
- 信頼できる同僚に「今日は大きなミスをしてしまって本当に落ち込んでいる」と話し、共感を得て心を軽くする
気晴らしの方法を探す
ストレスに対処するには、気晴らしの方法を見つけることも大切です。ストレスの原因を完全に解消するのが難しい場合でも、適切な距離を取ることで気持ちが軽くなるでしょう。
たとえば、ストレスの原因となる環境や人間関係から意識的に距離を置くことで、余計な負担を減らせます。また、運動や趣味に打ち込むことでリフレッシュするのも効果的です。ストレスの原因と適切な距離を取りつつ、気晴らしの習慣を持ちましょう。
- 例
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- 外に出てジョギングや散歩をし、自然を楽しみながら気分転換を図る
- 瞑想や深呼吸を行い、心を落ち着かせる
記憶障害かもしれないと思ったら何科を受診する?
記憶障害かもしれないと思ったときは、早めに心療内科や精神科を受診するようにしてください。一時的な記憶障害の可能性もありますが、脳に関する病気や認知症の恐れもあります。
とくに「年齢に比べてもの忘れが激しい」「仕事が忙しくなると記憶が飛ぶ」といった症状がみられるときは、早めに病院を受診しましょう。早期に治療を開始することで、重症化を回避したり、症状の進行を遅らせられたりする可能性が高まります。

ストレスによる記憶障害に関するよくある質問
ストレスと記憶障害に関するよくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてください。
Qストレスによって記憶がなくなることはありますか?
ストレスにより、解離性健忘症や一過性全健忘などの記憶障害になることもあります。一時的に記憶をなくすだけでなく、日常生活に支障が生じることもあるため注意が必要です。
Qストレスで記憶を失う原因は何ですか?
強いストレスにより、脳の中の記憶をつかさどる海馬の細胞生成が阻害され、記憶を失うことがあると考えられています。また、新しい記憶を保持しにくくなることもあるため、学習が難しくなる恐れもあります。
Qストレスで認知症になる可能性はありますか?
認知症は過度のストレスによっても発症リスクが高まるといわれています。ストレスによりストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの分泌が活発になり、海馬の細胞生成を阻害することが原因とされています。
Qストレスは認知症の進行を早めますか?
ストレスによりコルチゾールの分泌が過剰になると、記憶力や認知機能の低下を招きます。すでに認知症を発症している場合なら、進行を早めることにもなりかねません。
記憶障害の予防のためにもストレス解消を心がけよう
ストレスにより記憶力や認知機能の低下を招き、記憶障害を発症することがあります。また、抑うつ状態や認知症のリスクを高める恐れもあるため注意が必要です。ストレスを受けていると感じたときは、まずは原因を突き止めるように努めましょう。ストレスにより記憶障害などの症状を感じているなら、早めに病院を受診することも大切です。
認知症の発症率は高く、誰もがなりえます。ストレスを適度に解消することで予防につなげることも大切ですが、正しい知識を得ることも重要です。ぜひ最新研究にも注目してみてください。