04認知症コラム
脳疲労とは?なかなか回復しない原因や
改善方法も解説
2025.05.30

脳疲労とは、脳が過度に使用され、正常に機能しなくなる状態を指します。現代人は脳疲労を感じやすく、マルチタスクやスマホの影響、睡眠不足など、その原因はさまざまです。この記事では、脳疲労の原因、脳疲労によって発症する可能性がある疾病について解説。さらに、脳疲労の回復方法や予防法についても詳しく紹介します。
脳疲労とは?
脳疲労とは、過剰な情報処理や持続的なストレスにより脳の機能が低下した状態を指す造語です。医学的に明確な定義はありませんが、現代社会特有の健康問題として懸念されています。
疲労の状態に陥ると脳が正常に機能しなくなり、集中力の低下や仕事のミスの増加、感情のコントロールが難しくなるなどの問題が生じます。

現代人は脳疲労を感じやすい
情報技術の発展により、現代社会の人々は膨大な量の情報に日々さらされています。現代人が1日に触れる情報量は、江戸時代の1年分、さらには平安時代の一生分に相当するともいわれているほどです。
しかし、高度な情報化が進む一方で、人間の脳が処理できる情報量は変わりません。結果として、多くの人々が情報過多やデジタルデバイスの過度な使用により、脳疲労を感じやすい状況に置かれています。
脳疲労が起こるメカニズム
脳疲労が起こる原因は、大脳新皮質と大脳辺縁系、脳幹の関係にあります。
大脳新皮質は人間で最も発達した脳の部分で、理性的な思考を司ります。一方、大脳辺縁系は本能的な機能を担う古い脳です。
脳幹は、意識・呼吸・循環を調整し、生命維持に大きな役割を果たす器官です。
- 大脳新皮質…思考や言語などの高次機能を担う
- 大脳辺縁系…本能や情動を司る
- 脳幹…感覚情報の中継、自律神経やホルモンの調整を担う
私たちは、大脳新皮質と大脳辺縁系のバランスを取りながら暮らしていますが、多量の情報が脳に流入すると大脳新皮質が許容量を超えてしまい、処理能力が低下します。すると大脳新皮質と大脳辺縁系のバランスが乱れ、脳幹が影響を受けます。その結果、集中力低下、感情コントロールの困難、睡眠障害などさまざまな症状が現れるのです。
【セルフチェック】脳疲労のサイン
「脳が疲れているかも」と思ったら、下記のセルフチェックを行ってみましょう。普段の状態と比較し、ここ一週間の状況について回答してみてください。
質問 | 全く 当てはまらない |
やや 当てはまる |
当てはまる | 非常によく 当てはまる |
---|---|---|---|---|
01.複数の作業を並行して行うことが難しくなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
02.作業効率が悪くなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
03.仕事や家事に集中しにくくなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
04.業務内容や仕事量に変化がないにも関わらず、仕事が残るようになった | 0 | 1 | 2 | 3 |
05.会話が頭に入らなくなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
06.物音や目の前の物に気づくのが遅れることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
07.休日はぐったりしていることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
08.帰宅するとぐったりするようになった | 0 | 1 | 2 | 3 |
09.朝起きた時に疲労がとれなくなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
10.人と会うのが億劫になった | 0 | 1 | 2 | 3 |
11.身だしなみを整えるのが面倒になった | 0 | 1 | 2 | 3 |
12.食事を楽しめなくなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
13.夜中に目が覚めることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
14.朝早く目が覚めることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
15.睡眠時間が短くなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
16.寝つきが悪くなった | 0 | 1 | 2 | 3 |
17. ちょっとしたことで口調がきつくなるようになった | 0 | 1 | 2 | 3 |
18.イライラすることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
19.周囲の人に嫌われているのではないかと考えることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
20.自分が悪いのではないかと考えることが増えた | 0 | 1 | 2 | 3 |
- 0~14点: 正常値
- 15~17点: 軽度脳疲労状態
- 18~20点: 中等度脳疲労状態
- 21~25点: 高度脳疲労状態
- 26点以上: 極度脳疲労状態
チェックを終えたら得点を合計してみましょう。
中等度脳疲労状態に該当した場合、意識せずストレス状態に置かれている可能性があります。ただし、自覚症状があれば受診の検討が必要です。高度脳疲労状態・極度脳疲労状態と判定された場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
出典:大阪大学 平井啓 研究室「脳の疲労について」
脳疲労を引き起こす4つの原因
脳疲労は日常生活のさまざまな要因によって引き起こされます。ここでは、4つの主な原因をみていきましょう。
マルチタスクや複雑な作業による脳への負担
マルチタスクは、脳疲労の大きな原因の一つです。人間の脳には処理資源と呼ばれる注意や集中力の源があり、複数のタスクを同時に行うとこの資源が急速に消費されます。実際に、マルチタスクは生産性を40%低下させ、ミスを50%増加させるという研究結果も報告されています。
人が同時にこなせるタスクには限界があり、脳の健康を維持するには、一つずつ順番に作業を進めることが重要です。
デジタルデバイスの過度な使用
デジタルデバイスの過剰使用も、脳疲労の主要な原因の一つです。スマートフォンなどのデバイスを長時間使用すると、脳は絶え間ない情報処理を強いられ、前頭前野の機能が低下します。
近年では、SNSや動画配信サービスの普及で、脳が処理すべき情報量は増える一方です。頻繁に届くアプリの通知は集中を阻害し、脳の処理能力を低下させます。とくに寝る前のデジタル機器の使用は、睡眠の質も低下させるため注意が必要です。
慢性的な睡眠不足
睡眠不足も脳疲労につながる主要因です。十分な睡眠を確保できないと、脳の休息と回復が不十分となり、前日の疲労が翌日に持ち越される状態が続きます。さらに、レム睡眠中に行われる不要な情報の整理が不完全になり、脳内の情報処理効率が低下します。
これらの影響が蓄積されると、脳の疲労回復機能が低下し、慢性的な脳疲労状態に陥りやすくなるのです。結果として、認知機能の低下や集中力の欠如など、日常生活に支障をきたす症状が現れる可能性が高まります。
精神的ストレスの蓄積
精神的ストレスは、脳疲労の重要な要因の一つです。過度なストレスにさらされると、前頭前野の機能が低下し、脳内の神経同士の結びつきが弱まります。また、扁桃体が過活動となり、前頭葉がそれを抑制しようとしてエネルギーを消費します。この過程で、感情のコントロールが困難になり、判断力や記憶力が低下してしまうのです。
長期的なストレスは、大脳新皮質、大脳辺縁系、間脳のバランスを乱し、脳の機能全体に悪影響を及ぼすため要注意です。
脳疲労が原因となりうる疾病
「脳疲労は単なる疲れ」と侮ってはいけません。脳疲労の状態が続いているにもかかわらずそのままにしていると、深刻な病気につながり得ることもよく理解しておく必要があります。

認知症
継続的な脳疲労が原因となって起こりうる病気の一つが認知症です。
脳に継続的なストレスがかかると、ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されます。これによって、アルツハイマー型認知症の原因の一つとされているアミロイドβなど、異常タンパク質の蓄積につながりかねません。さらに脳疲労により睡眠不足となると、脳内からアミロイドβを排出できないうえに、さらにストレスが増えるという悪循環に陥ります。
このように、脳疲労は認知症のリスクを高める重要な要因となる可能性があるのです。そのまま放置せず、日常生活の改善が求められます。
うつ病
過多な情報摂取や継続的な精神的ストレスによる脳の機能低下が、うつ病につながるケースも考えられます。うつ病はいわば、脳のエネルギーが低下した状態です。脳のエネルギーが枯渇すると、意欲の低下や身体の機能的な不調といった症状が現れ始めます。
うつ病を発症している場合は、単に脳を休めるだけでは十分な回復が見込めません。うつ病は複雑な疾患のため、回復には専門医による適切な治療介入が不可欠となります。
生活習慣病
脳疲労による自律神経の乱れは、さまざまな生活習慣病を誘発する可能性があるため注意が必要です。脳疲労によりコルチゾールの分泌が増加すると、食欲のコントロール機能が低下し肥満や糖尿病のリスクが高まります。
また、睡眠障害による代謝機能の低下も生活習慣病を促進する要因となります。自律神経の乱れは、心臓や血管、胃腸などの臓器機能にも影響を与え、さまざまな健康問題につながる可能性があるでしょう。脳疲労の状態が続く場合は生活習慣の見直しが必要です。
脳疲労を予防する6つの対処法
継続的な脳疲労は日常生活や仕事に支障をきたすだけでなく、深刻な疾病にもつながりかねません。ここでは、脳疲労を予防するための効果的な方法を6つ紹介します。
何も考えない時間を作る
脳を疲れさせないためには、短時間でも脳に休息を与えることが重要です。たとえば、仕事の合間に5分程度で構わないので、意識的に何も考えずぼんやりする時間をつくることをおすすめします。難しい場合は、頭を使わないで済む単純作業に切り替えることでも脳を休められます。
もし余裕があれば、時間を取って瞑想やマインドフルネスで脳に休息を与えましょう。
十分な睡眠時間を確保する
脳の疲労回復には、十分な睡眠時間の確保が欠かせません。個人によって最適な睡眠時間は異なるため、朝にすっきり目覚められる睡眠時間を見極めることが重要です。
また、睡眠の質を高めるためにも、就寝前のデジタル機器の使用は控えましょう。スマートフォンなどの強い光は、睡眠を促進するメラトニンの分泌を抑制してしまいます。加えて、寝室の温度や照明の明度など睡眠環境に気を配ることも重要です。
スマートフォンなどの使用時間を減らす
スマートフォンやパソコンの過度な使用は脳疲労の原因となるため、一度使用時間を見直してみる必要があります。食事や入浴中のスマホ利用を控え、代わりに読書や散歩など、別のリラックス方法を見つけましょう。また、通知をオフにしておくと、不必要な情報をシャットアウトできます。
リラックスできる時間をつくる
脳疲労の軽減には、ストレスを溜めないことが重要です。アロマセラピーを活用したり音楽を聴いたりして、意識的にリラックスする時間を設けましょう。
とくに、ラベンダーなどのアロマの香りにはリラックス効果が期待でき、リフレッシュに最適です。なかでも「青葉アルコール」と呼ばれる成分を含むアロマは、脳機能にアプローチすると考えられています。
マルチタスクをやめる
マルチタスクは脳のエネルギー消費を増大させ、疲労を招きやすいとされています。人間のマルチタスク能力は限られており、2つ以上のタスクを同時に効率よく処理することは困難です。タスクとスケジュールを整理し、優先順位をつけてひとつ一つのタスクに集中することで脳の負担が少なくなり、効率的に作業を進められます。
また、タスク間に小休止をはさむと脳がリフレッシュされ、集中力の維持につながるでしょう。
食事の栄養バランスに気をつける
脳の疲労回復には、バランスの取れた食事でしっかりエネルギー補給をすることが大切です。1日3食の規則正しい食事サイクルは、生活リズムを整え、自律神経の乱れを予防します。
脳のエネルギー源となる糖質だけでなく、エネルギー生成に必要なビタミンB1も意識的に摂取しましょう。とくに、鶏胸肉に含まれるイミダペプチドや、レモンなどの柑橘類に含まれるクエン酸は疲労回復に効果的です。また、オメガ3脂肪酸を含む魚類や、抗酸化物質が豊富な果物や野菜も脳の健康に関わるとされています。
脳疲労の予防と回復は、
日々の生活習慣の改善から
脳疲労は現代社会において深刻な問題ですが、生活習慣を見直すなど適切な対策を講じることで予防と回復が可能です。また、マルチタスクを避け、デジタル機器の使用時間を制限することで、脳に必要な休息を与えられます。
日々の小さな努力の積み重ねで、脳の健康を維持することができ、生活の質も向上させられるでしょう。ぜひ、できることから始めてみてください。
とはいえ、脳疲労から「認知機能が低下するのでは……」と不安に思うこともあるでしょう。認知機能障害の改善における研究は日々進んでいます。最新の研究結果から、改善のヒントを得られるかもしれないので、ぜひチェックしてくださいね。