04認知症コラム
認知症の方が寝てばかりだとどうなる?
傾眠の原因や対処法も解説
2025.10.08

認知症の家族が寝てばかりで、不安を覚える方も多いのではないでしょうか。認知症の方は寝てばかりになることも珍しくありません。その原因は、傾眠と呼ばれる意識障害や薬の影響などさまざまです。この記事では、寝てばかりになる主な理由や起こり得るリスクについて解説します。対処法についても詳しく紹介するので、不安な方は実践してみましょう。
認知症の方が寝てばかりになる主な原因
認知症の方が寝てばかりになる原因は、抑うつや不安などによる睡眠障害、意欲の低下など多岐にわたります。
認知症の方は睡眠時間が増える傾向にあり、いつ見ても寝てばかりいると家族も不安に思うでしょう。しかし、睡眠時間の増加は認知症に限った話ではありません。高齢者は加齢によって睡眠障害が起こる傾向にあります。加齢以外にも、薬の副作用や内科的疾患により睡眠時間が長引くことも少なくありません。
寝てばかりになる原因が認知症であるとは限らたないため、不安な場合は専門家に相談して原因を特定し、対処しましょう。
- 傾眠
- 睡眠障害(昼夜逆転、抑うつ、不安)
- 意欲の低下
- 加齢による睡眠障害(認知症に限らず)
- 薬の副作用や内科的疾患(認知症に限らず)

傾眠傾向にある可能性が高い
認知症により、不眠や過眠といった睡眠障害が起こることは珍しくありません。睡眠持続時間が短縮され、4時間以上の昼寝をするケースも見られます。
とくに見られるのが、「傾眠(けいみん)」と呼ばれる意識障害です。傾眠は放置しておくと寝入ってしまいますが、声がけや部屋の明るさの変化などの少しの刺激で覚醒できる状態を指します。
傾眠は意識障害の一つ
傾眠は意識障害のうち、もっとも軽度のレベルです。症状が進むと昏迷(こんめい)や昏睡(こんすい)といった、さらに重篤な意識障害に陥ることもあります。
意識障害の4つのレベル
意識障害のレベルは、軽いものから順に、傾眠・昏迷・半昏睡・昏睡の5つに分けられます。それぞれの違いについてみていきましょう。
意識障害のレベル | 状態 |
---|---|
傾眠 | うとうとと眠りそうな状況が続いている |
昏迷 | 外部からの刺激に対して反応できなくなる |
半昏睡 | 痛みを伴うなどの強い外的刺激に対しても反応が鈍い |
昏睡 | 完全に意識を失い、外部からの強い刺激に対しても、全く反応が見られない |
傾眠
傾眠はうとうとと眠りそうな状態が続くことです。放置すると寝入ってしまいますが、声をかけたり、身体を軽くゆすったりといった外部からのわずかな刺激ですぐに覚醒します。意識障害に分類されますが、もっとも軽い状態といえるでしょう。
昏迷
昏迷は意識が混濁し、外部からの刺激に対して反応できなくなる状態です。ただし、痛みを伴うなどの強い外的刺激に対しては、顔をしかめたり手で払いのけたりできることがあります。
半昏睡
昏迷よりも重度の意識障害が半昏睡です。痛みを伴うなどの強い外的刺激に対しても反応が鈍くなり、わずかに顔をしかめたり少し手足を動かしたりといった微かな変化しか見られなくなります。
昏睡
昏睡は、意識障害の中でも最も重症度が高い状態です。完全に意識を失い、外部からの強い刺激に対しても、全く反応が見られなくなります。
傾眠傾向になる主な7つの原因
傾眠は認知症に特有の意識障害ではありません。ここでは、傾眠の主な原因を紹介するので、日常生活での観察や対応の参考にしてください。
認知症
認知症の症状の一つに無気力状態があります。脳が興奮しにくくなると体内時計の機能が低下し、昼夜逆転が起こることも少なくありません。昼寝を取ると夜間の寝つきが悪くなり、また、睡眠持続時間が短くなることで疲れが取れず、日中に脳が覚醒しない状態が続きやすくなります。
加齢
加齢により体力が低下すると、日中の活動量が減少し、眠気を誘発することがあります。また、身体が十分に疲れていないため睡眠が浅くなり、起床時に爽快感がなく、一日ぼんやりとした不調を抱えるケースもあるでしょう。
なお、体力の低下は、生活の質を低下させて意欲の減退を招く一因です。活動意欲が減少し、日中も横になった状態で過ごすことが増え、夜になっても眠気が起こらなくなる、と悪循環が生じることもあります。
内科的疾患
風邪やインフルエンザなどの感染症や内科的疾患により、消耗した体力を回復するために睡眠時間が増えることもあります。とくに慢性疾患は体力の消耗が激しく、疲労感を増大させ、睡眠時間が増えやすくなるでしょう。
傾眠が増えてきたときは、一度内科的疾患を疑うことも大切です。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの重大疾患が潜んでいることも少なくありません。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは、脳と硬膜の間に血液が溜まり、血腫が生じる病気です。治療せずに放置すると脳に圧力がかかり、意識レベルの低下や眠気が引き起こされることがあります。
また、慢性硬膜下血腫により、意欲の低下や性格の変化といった認知症のような症状が見られることも少なくありません。本来は頭部外傷により起こる病気ですが、知らない間にぶつけている可能性もあるため、気になる症状が見られるときは早期の検査と治療が必要です。
薬の副作用
薬の副作用として、傾眠などの意識障害が見られることもあります。とくに高齢者は複数の薬を服薬する方も多く、副作用として眠気や意識障害が生じることも珍しくありません。
鎮静作用のある薬を服用している場合は、日中の活動に支障が生じる程度の過度の眠気を誘発することがあります。
脱水症状
体内の水分バランスが崩れると、脱水症状に陥ることがあります。脱水は、倦怠感や疲労感、眠気といった症状を引き起こすこともあるため注意が必要です。
高齢者は喉の渇きを感じにくく、水分摂取量が減り、脱水症状に陥りやすい傾向にあります。また、心不全や高血圧の治療薬や便秘改善のための薬を服用している場合、体外に水分が排出されやすくなるため、より脱水症状に陥るリスクが高まるでしょう。
食後の低血圧
食後に急激な血圧低下が見られることを食後低血圧といいます。高齢者の3人に1人に見られ、とくに高血圧や糖尿病の方に起こりやすい症状です。
低血圧状態になると強い眠気が生じるだけでなく、めまいやふらつきが生じ、転倒リスクが高まります。食後はすぐに動かない、低炭水化物の食事を頻繁に摂るなどの方法で症状の軽減を図れることもありますが、不安なときは医師に相談してみましょう。
認知症の方が寝てばかりだとどうなる?
認知症の方はさまざまな理由で睡眠時間が長引く傾向にあります。寝てばかりいることで起こり得るリスクについてみていきましょう。
誤嚥のリスクが高まる
誤嚥とは、飲食物が誤って気管に入ることです。横になった状態で食事をしたり、咀嚼中に眠ってしまったりすると、誤嚥のリスクが高まります。とくに高齢者は嚥下機能が低下するため注意が必要です。誤嚥が頻繁に起こると肺炎を引き起こすことがあります。
なお、高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎が原因です。70歳以上の肺炎の70%、90歳以上の肺炎の95%ともいわれているため注意しましょう。
転倒や転落のリスクが高まる
寝てばかりいると筋力低下を招き、立ち上がるときや歩行時にバランスを崩しやすく、転倒・転落のリスクが高まります。とくに夜間にトイレに行くときなどは足下が見えづらく、注意が必要です。
転倒・転落により骨折し、そのまま要支援・要介護状態になることもあります。厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によれば、要支援・要介護になった主な原因の第3位は「骨折・転倒」です。自立した生活のためにも、筋力低下を防ぐ必要があります。
参考:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
食欲低下につながる恐れがある
寝てばかりいると活動量が低下し、食欲や食事量の減少が見られることもあります。必要な栄養素やエネルギーを十分に摂取できず、体力や免疫力の低下を招く恐れもあるでしょう。
体力が衰えるとさらに活動量が減り、悪循環が生じます。しっかりと食事を摂取するためにも、意識的に動くことが必要です。
認知症の方が寝てばかりのときの5つの対処法
認知症や加齢により寝てばかりの状態になりやすいとはいえ、そのまま放置しておくのは危険です。健康で自立した生活を維持するためにも、周囲が実施すべき事柄を紹介します。

積極的に話しかける
睡眠時間が増えてきた認知症の方には、積極的なコミュニケーションを心がけましょう。会話を通じて脳を刺激し、意識の活性化を図れます。また、日常的な会話や簡単な質問を繰り返すことで、認知症の方の興味や意欲を引き出せることもあるでしょう。
こまめに水分補給を促す
高齢者は喉の渇きを感じにくい傾向にあります。脱水症状に陥ると眠気が生じることもあるため、こまめに水分補給を促しましょう。水分をしっかりと補給すると、体調が整いやすくなるだけでなく、意識を清明な状態に保ちやすくなります。
また、スープやゼリーなども活用しましょう。水分だけでなく同時に栄養も補給できます。
散歩などの活動量を増やす
夜間に質のよい睡眠を取るためにも、日中の活動量を増やしましょう。運動は筋力低下を防ぐだけでなく、気分転換にもなります。
たとえば、散歩なら無理なく続けられるかもしれません。認知症の方の体力や興味に合わせた活動を選ぶようにしましょう。
日中に短時間の昼寝をさせる
昼寝は短時間であれば、リフレッシュ効果を期待できます。午前中に短時間の昼寝を取り、午後はアクティブに過ごすようにしてみてはいかがでしょうか。
ただし、昼寝の時間が長すぎると、夜間の睡眠に悪影響を及ぼすため注意が必要です。できれば30分程度に留めるようにしましょう
医師に相談する
傾眠状態が続くときは、医師に相談してみましょう。傾眠なのか単に居眠りが増えているのか判断してもらうことで、適切な対応を取れるようになります。
薬の副作用や内科的疾患が原因で寝てばかりの状態が続くときは、専門的な診断が必要です。薬や食事の見直し、運動習慣をつけるなど、医師に相談したうえで無理のない治療計画を立てましょう。
認知症の進行を遅らせるための習慣
睡眠時間が長くなると睡眠の質が低下し、認知機能も低下する恐れがあります。認知症の発症・進行を遅らせるためにも、寝てばかりの状態を放置するのではなく、生活の見直しや専門的な治療などが必要です。
普段の生活から認知症を予防するためにも、上記の習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。詳しくは次の記事をご覧ください。
- 有酸素運動を取り入れる
- 規則正しい生活を心がける
- 認知機能向上のためのトレーニングを行う
- 聴力の低下に注意する
認知症の方が寝てばかりであることに
関するよくある質問
認知症の方が寝てばかりいるときに、周囲の人々が感じがちなよくある疑問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてください。
Q認知症の方が寝てばかりなのは末期症状の現れですか?
認知症の人が寝てばかりなのは、必ずしも末期症状を意味するわけではありません。しかし、認知症の進行に伴い活動量が減少している可能性もあるため、日中は適度な運動を心がけるようにしましょう。また、内科的疾患や薬の副作用などの原因も考えられます。
Q認知症の方に寝てばかりの傾向が現われ出したらまずどうすればよいですか?
寝てばかりの傾向が見られるようになったときは、日中の活動量を増やすことも検討してみましょう。コミュニケーションを積極的に取り、楽しみや意欲を感じてもらえるように配慮したり、散歩などの軽い運動をする習慣をつけて、夜間に質の高い睡眠を取れるようにしたりするのも一つの方法です。
Q寝てばかりであることと認知症の進行具合には関係がありますか?
寝てばかりいることで睡眠の質が低下し、アルツハイマー型認知症の原因の一つとされるアミロイドβが脳内に蓄積しやすくなることがあります。認知機能の低下を招き、認知症の発症・進行につながることもあるため、睡眠習慣を見直すことが必要です。
気になる症状は早めに医師に相談しよう
「寝てばかりいることが増えた」「夜間の寝つきが悪くなった」「起床時に爽快感がない」などの状態が見られるときは、もしかしたら認知症や内科的疾患などが潜んでいるのかもしれません。医師に相談し、適切な治療計画を立てるようにしましょう。
夜間に質の高い睡眠を取るためにも、適度な運動や栄養バランスの取れた食事、周囲の人々とのコミュニケーションなどが必要です。生活習慣を見直してみるのも大切なことといえるでしょう。
認知症についての情報を取得することも生活の見直しに役立ちます。認知症関連の研究にも注目し、最新の情報を入手するようにしてください。