04認知症コラム
認知症でご飯を食べないのはどうして?
食事拒否の原因と接し方
2025.07.31

認知症の方がご飯を食べない原因は、食べ物を認識できない、食べ方がわからなくなるなどさまざまです。家族が安心して介護を続けるためには、食事拒否する理由を正しく理解し、適切な対応や対策を知ることが必要です。この記事では、認知症の方が食事拒否する原因、認知症の種類別ケース、対処法を解説します。
認知症でご飯を食べなくなる6つの原因
認知症の方が食事拒否する原因はさまざまです。本人や周囲が気づきにくい理由もあるため、それぞれの背景を理解することが大切です。

食べ物を認識できない
認知症の進行により、目の前の食べ物を食べ物として認識できない「失認」が起こることがあります。例えば、茶碗に入ったご飯が何なのかわからず、手を伸ばさない、あるいは口に入れることを拒否するといったケースです。
さらに、食べ物を危険なものと誤認してしまい、恐怖や警戒心から食事を極端に避けてしまうことも珍しくありません。こうした状態では、本人の意思とは無関係に食べる行為そのものに不安を覚えてしまいます。
食べ方がわからない
認知症が進行すると、今まで当たり前にできていたスプーンや箸の使い方、口に運ぶ動作など、食事の手順を忘れてしまうことがあります。これは「行為の記憶」が薄れることによるものです。食事中に固まってしまったり、食器に触れるだけで手が止まってしまったりする状況が生じます。
本人はどうすればよいかわからず、混乱や不安を感じながら食事に向き合うことになります。そのため、自然と食事量が減ってしまい、結果的に食事拒否につながることも少なくありません。
気分が落ち込んでいる
認知症にともなう行動・心理症状(BPSD)により、不安や抑うつ状態になることがあります。これも、食欲不振を引き起こす原因の一つです。自分で食事ができないという自尊心の低下や、周囲からの目線を気にすることも、食事拒否につながります。
また、妄想や誤認によって「毒を盛られるかもしれない」といった強い恐怖を抱き、食事を拒絶してしまう場合もあります。
嚥下機能や口腔内にトラブルがある
加齢に伴う嚥下機能の低下により、食べ物をうまく飲み込めずにむせやすくなります。そのため、誤嚥をしてしまうのではないかという恐怖から、食事拒否につながる場合があります。また、歯周病や虫歯、入れ歯の違和感といった口腔内トラブルから食欲が低下してしまうケースも多いです。
口の中に痛みや違和感があると、食事自体が苦痛になるため、自然と食事量が減少しやすいでしょう。
薬の影響や体の変化によって食欲がない
認知症治療や精神症状緩和のための向精神薬の副作用で、食欲が低下する場合もあります。薬の影響で眠気や口の渇きが強くなり、食事意欲が減退することは珍しくありません。
また、日常の活動量が減少することで消費エネルギーが少なくなり、空腹を感じにくくなることもあります。体調の変化や薬の副作用が重なると、本人の意思とは関係なく自然と食事量が減ってしまう場合が多いです。
食事環境や提供方法に問題がある
騒がしい環境や照明の明るさなど、落ち着いて食事ができない状況が食欲低下につながることもあります。また、本人の好みに合わない食事内容や味付けも、食事拒否の原因の一つです。細かく刻みすぎた食事や見た目が悪い盛りつけは、食事への意欲を奪いやすい傾向があります。
こうした食事環境や提供方法の工夫不足が、認知症の方の食事拒否を引き起こす場合も多いです。
認知症の種類別食事を食べなくなるケース
認知症の種類によって、食事を食べなくなる理由や現れ方は異なります。適切に対応するためにも、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症においては、脳全体の萎縮による認知機能の低下が食事拒否のおもな原因です。食べ物を認識できなくなる「失認」や、箸やスプーンの使い方がわからなくなる「失行」が現れ、食事の手順や意味を忘れてしまうことも珍しくありません。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、手の震えや筋肉の硬直などのパーキンソン症状が特徴的です。このため、食器やスプーンをしっかりと掴めず、食事が困難になるケースが多く見られます。また、「幻視」の症状も特徴で、料理の中に異物が見えると感じてしまい、食事を拒否することも少なくありません。
血管性認知症
血管性認知症は、脳血管障害による麻痺や視力低下が現れることがあり、これらの症状によって自力で食事ができなくなるケースが多いです。また、思考力や問題解決能力の低下も食事への興味や意欲を失わせる要因となります。特定部位の機能障害が食事拒否を引き起こしやすいのも特徴です。
認知症の方が食事を拒否したときの正しい考え方
認知症の方が食事を拒否する場合、必ず何らかの理由や背景があります。長期的な改善のためには、まずは拒否の様子やタイミング、本人の体調や気分をよく観察し、原因を探る姿勢を持つことが重要です。
一度の食事を抜いたとしても、すぐに大きな健康問題が生じることはありません。本人の意思やペースを尊重しつつ、焦らずに落ち着いて対応しましょう。

認知症の食事拒否に対してやってはいけない対応
認知症の方に対して強い口調で叱ったり、否定したりすることは、かえって拒否を強めてしまうため厳禁です。また、無理に食べさせようと口に押し込むような強引な介助は、本人に恐怖心やストレスを与え、さらなる拒否や誤嚥のリスクを高めます。
また、栄養失調を招く恐れがあるため、「食べないならいい」と放置しまいようにしましょう。さらに、食事を促すための時間を十分に確保せず、すぐに片付けてしまうことも避けなければなりません。本人の食事機会を奪い、食欲回復の妨げとなる場合があります。
認知症の方がご飯を食べないときの5つの対処法
認知症の方の食事拒否は、本人や家族にとって大きな悩みの一つです。原因に合わせた適切な対処法を知ることで、安心して食事を楽しめる環境を整えましょう。

体調と身体機能を整えて食事をしやすくする
本人が快適に食事に向き合えるように、日頃から体調の変化や口腔内の状態、食事姿勢のケアを心がけることが大切です。適切な準備やケアを行うことで、「食べられない」「食べたくない」といった状態を予防し、食事への意欲を引き出すことができます。とくに、誤嚥予防や痛み・違和感のない口腔環境づくりを心がけましょう。
- 具体的な対応
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- 食事前に排泄をすませ、落ち着いた状態に整える
- 定期的に歯科を受診して、口腔トラブルを早期発見する
- 背もたれがあり足のつく安定した椅子に座らせる
- 便秘気味のときは水分補給やマッサージで排便を促す
- 「痛いところはある?」など簡単な言葉で体調を確認する
食べやすい食事を工夫する
飲み込みやすさや見た目のわかりやすさを重視した食事内容にすることが、認知症の方の食欲を引き出すポイントです。本人の好みや食べやすさを考慮しつつ、食材の大きさや硬さ、食器選びも意識し、安全性と「食べたい気持ち」を両立できるよう工夫しましょう。
- 具体的な対応
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- 明るい色(赤や黄色など)の食器を使い、食べ物と認識しやすくする
- 柔らかく煮込む、ムース状にする、とろみをつけるなど嚥下しやすい工夫をする
- 一口サイズに盛り付け、視覚的負担を減らす
- 好物をメニューに取り入れ、関心を引き出す
- 高カロリーおやつで栄養を補う(プリン、ヨーグルトなど)
落ち着いて食事できる環境を整える
認知症の方は環境の変化や刺激に敏感で、集中力が続きにくい傾向があります。静かで落ち着いた環境や、本人が安心できる席を用意することで、食事への集中力を高められます。照明やテーブル周りの配慮も忘れずに行いましょう。
- 具体的な対応
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- テレビやラジオの音を消すか小さくし、周囲の雑音を最小限に抑える
- 適切な明るさの照明で、食材の色や形が認識しやすい環境を整える
- 毎日同じ時間、同じ場所で食事を提供し、習慣化を図る
- 大勢での食事が苦手な場合は、少人数または個別の静かな環境で食事を提供する
- 食事に集中できるよう、テーブル上の余計な物を片付ける
安心して食事できるように寄り添う
認知症の方は不安や恐怖を感じやすいため、信頼できる人が寄り添い、安心できる環境をつくることが大切です。また、信頼関係の構築には、尊厳を守る姿勢が欠かせません。決して強制せず、本人の意思やペースを尊重した対応が、長期的な食事状況の改善につながります。
- 具体的な対応
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- 本人のペースを尊重し、ゆっくり食べることを認める
- 介護者も一緒に食事をして、食べる姿を見せることで安心感を与える
- 食事中に穏やかな会話を交わし、リラックスできる雰囲気をつくる
- 食べられたときは肯定的な言葉で称賛し、自信につなげる
- 本人の好みや過去の食習慣を尊重した対応を心がける
自立を支える介助をする
認知症の種類や進行度によって、適切な介助方法は異なります。個別の状況に合わせた介助や見守りを行うことが、本人の自立を促し、食事量の増加につながります。過剰な介助は依存を招くため、適度なサポートと見守りのバランスが大切です。
- 具体的な対応
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- 失行がある場合は、手を添えて食器の持ち方を手ほどきする
- 一口目だけ介助し、その後は自力摂取を見守る姿勢を持つ
- 「温かいお味噌汁ですよ」「おいしいですね」など声かけをしながら食事を促す
- 食事の一連の流れを細かく分解して、一つずつ声かけや介助を行う
- 食事の様子を注意深く観察し、必要なときだけ介入する
認知症の食事拒否について
家族が知っておくべきこと
認知症の食事拒否は本人の体調や精神状態、認知症の進行と深く関わっています。家族が症状や対応策を正しく理解し、今後の見通しや選択肢について考えておくことが大切です。
食事の拒否と寿命の関係
認知症が末期まで進行すると、自然と食事が取れなくなることが多く、寿命が近づいているサインとなる場合があります。
絶食状態が続くことで体力や身体機能が著しく低下し、回復の見込みが少なくなるため、家族は看取りに向けた準備や心構えをしておかなければなりません。
本人や家族の意思を尊重しつつ、事前にどのような最期を迎えたいかについて話し合っておくことが、後悔のない選択につながります。
食べられないときの胃ろう・点滴の効果
胃ろうは、胃に直接チューブを挿入し栄養剤を注入する方法で、口から食べられなくなった場合にも栄養補給が可能です。
ただし、胃ろうの造設には外科手術が必要なため、本人への身体的負担や生活の質への影響を考慮する必要があります。一方、点滴は血管から水分や栄養を補給するため、消化器官へ大きな負担はかかりません。
どちらの方法も延命治療としての効果はありますが、本人の意思や生活の質、家族の考え方を重視した選択が重要です。
食事拒否が続く場合の入院可否
認知症の方が食事拒否で体調が悪化した場合、入院治療を受けることは可能です。ただし、一般の病院では認知症特有の症状や行動への対応が難しい場合もあります。認知症専門医がいる病院や、認知症疾患医療センターなどの専門施設への入院が望ましいでしょう。
入院を検討する際は、認知症の症状や食事状況を医師に詳しく伝え、適切な対応についてよく相談することが重要です。
認知症の食事拒否は、原因・背景に合わせた対応が大切
認知症による食事拒否は、単なるわがままではなく、失認や失行、体調不良、環境の変化などさまざまな理由が絡み合っています。家族や介護者は、本人の状態や食事習慣、好みをよく観察し、無理強いせず寄り添う姿勢が求められます。また、食事環境を整え、食べやすい工夫や安心感を与えることも重要です。
必要に応じて専門家や医療機関と連携し、本人が安心して最期まで過ごせるよう、家族も心構えと選択肢を持っておきましょう。
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