04認知症コラム
認知症の異食はなぜ起こる?
危険物・予防策・対処法まで解説
2026.03.30
認知症の方が、食べ物以外のものを食べてしまう行為を「異食」といいます。異食するものによっては命に関わる重大な事故につながりかねないため、正しい原因の把握と対策が必要です。本記事では、認知症における異食の原因、異食すると危険なもの、具体的な予防策・対処法を解説します。
異食は認知症の症状?
異食は認知症の周辺症状(BPSD)に伴って
起こることがある
異食とは、食べ物ではないものを食べてしまう行為を指します。認知症の進行にともなって見られることが多く、危険なものを誤って口にするケースも少なくありません。
異食は認知機能の低下が原因のため、本人が自覚して注意することは困難です。認知症の症状の一つとして捉え、介護する側が環境整備や見守りを徹底する必要があります。
参考:厚生労働省
「介護保険施設等における事故予防及び
事故発生時の対応に関するガイドライン」
認知症の方が異食をする原因
異食は、単なる癖や性格の問題ではなく、認知症に起因するいくつかの要因が複雑に関係して起こります。ここでは、認知症の方が異食をしてしまうおもな原因について解説します。
中核症状(失認・見当識障害)による物の誤認
認知症の中核症状である失認や見当識障害が進行すると、視力自体に問題がなくても、目に入った物を正しく認識できなくなります。その結果、それが食べ物かどうかの判断がつかず、ティッシュや消しゴムなどを食べ物と誤認して口に入れてしまうことがあります。
さらに判断力の低下が重なると、「とりあえず口に入れて確かめる」という行動に結びつき、異食をしやすくなります。
空腹感や満腹中枢の障害
認知症では、脳の機能低下により満腹感の認識が正常に働かず、十分に食事をとったあとでも空腹を感じたり、食事をした事実自体を忘れてしまったりすることがあります。
これらは異食の直接的な原因ではありませんが、食べ物を探す行動を誘発し、結果として手近にある物を食べ物と誤認して口に入れてしまう異食につながりやすくなります。
ストレスや不安の代償行動
認知症の方は、不安やストレス、体調不良といった心理的負担をうまく言葉で表現することが困難です。そのため、安心感や気持ちの落ち着きを得る手段として、異食という行動にはしることがあります。
とくに、ほかにすることがなく、注意が食べ物や身近なものに向きやすい状況で異食をする場合が多いです。
味覚や嗅覚の変化による感覚の誤認
認知症の影響で味覚や嗅覚が低下すると、口に入れた物が食べ物かどうかを感覚的に判断しにくくなります。そのため、食べ物以外の物でも違和感を覚えにくく、誤って飲み込んでしまうことがあります。
さらに、感覚の変化によって食べ物の好みや食べ方が変わり、これまで口にしなかった物にも関心を示すようになり、異食行動につながるケースも多いです。
異食してしまうと危険なもの
認知症による異食では、危険なものを口にしてしまうことで思わぬ事故につながる可能性もあります。どのような物が注意すべき対象となるのかを把握しておきましょう。
窒息リスクの高いもの
気道をふさぎやすい形状・硬さのものは、誤って飲み込むと喉に詰まりやすく、窒息のリスクが高まります。認知症の方は、口に入れたあとに危険だと判断して吐き出すことが難しく、気道閉塞につながる恐れがあるため、十分に注意が必要です。
- 具体例
-
- ビニール袋・ラップ類(空気を遮断しやすい)
- ティッシュ・紙類(丸まりやすく気道に詰まりやすい)
- 小型の固形物(ボタン・硬貨・消しゴムなど)
中毒リスクのあるもの
洗剤や薬品などの化学物質は、少量でも口腔や消化管の粘膜を傷つけ、中毒症状を引き起こす危険があります。有害物質を飲み込んだ場合は、嘔吐や意識障害、呼吸障害などをともない医療機関での緊急対応が必要になることがあるため、注意が必要です。
- 具体例
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- 洗剤・漂白剤・柔軟剤などの家庭用化学製品
- タバコ(ニコチン中毒の危険)
- 電池(化学物質漏れによる重篤な中毒の危険)
消化管を傷つける恐れのあるもの
鋭利なものや硬質の異物を口にしてしまうと、食道や胃腸の粘膜を傷つける恐れがあります。こうしたものは体外へ排出されにくく、腸内にとどまることで腸閉塞や消化管穿孔など重篤な合併症につながるリスクもあるため、非常に危険です。
- 具体例
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- ガラス片・陶器片(鋭利で穿孔リスクが高い)
- 金属片・針金・クリップなどの硬い異物
- プラスチック片・固いおもちゃの破片
認知症の方の異食への対策方法
認知症による異食を完全に防ぐことは難しいですが、日常の工夫によってリスクを減らすことは可能です。ここでは、その異食への対策のポイントを押さえましょう。
環境を整備する
認知症では、視覚情報に強く引きずられて行動が決まる「視覚依存」の傾向が強まり、視界に入ったものに対して判断を挟まず、反射的に口に運んでしまうことがあります。そのため、食べ物以外のものはできるだけ目につかないような環境をつくることが大切です。
非食物を完全に排除することが難しい場合は、食べても安全な代替物を用意しておくと、相対的に食べ物以外のものに手を伸ばすリスクが低くなります。
- 具体的な方法
-
- 洗剤・電池・薬などとくに中毒リスクのあるものは
鍵付き収納に移す - ティッシュ・紙類・スポンジは別の棚にまとめて保管する
- ガム・飴・安全なおやつを手元に置く
- 洗剤・電池・薬などとくに中毒リスクのあるものは
食事の回数とタイミングを見直す
認知症では満腹中枢の働きが低下することで、食後でも空腹感が続きやすくなります。そのため、間隔が長く空いてしまったり食事の時間が不規則になったりすると異食行動につながりがちです。
食べたこと自体を忘れてしまう記憶の保持困難もあるため、食事の回数や時間を一定にする、間食をはさんで空腹時間を短くするなどして、食べ物を探す行動を抑えましょう。
- 具体的な方法
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- 1日3食+間食2〜3回に分ける
- 食事間隔を短くする
- 水分補給をこまめに行う
生活リズムを整える
日中の活動量が少ないと刺激も少なくなるため、手持ち無沙汰な状態になってしまい異食行動につながることもあります。また、睡眠リズムが乱れると混乱や不安が強まり、異食を誘発してしまうケースも多いです。
散歩や軽い体操など適度な活動を生活に取り入れるなどして、食べ物以外に注意が向くようにすると異食の頻度を下げられるでしょう。
- 具体的な方法
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- 毎日決まった時間に散歩をする
- 午前中に軽い家事やレクリエーションをする
- 昼寝は短時間に調整する
ストレスや不安を除去する
不安や孤独、退屈といった感情は自己刺激行動を引き起こしやすく、異食の大きな要因になります。そのため、ストレスや不安につながる要素を除去し、安心して過ごせる環境を整えることが重要です。
また、痛みや便秘などの身体的不調が異食の原因になっている場合もあるため、日常的な体調確認とケアを行うことが異食予防につながります。
- 具体的な方法
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- 声かけや会話の時間を増やす
- 好きな音楽や趣味活動を取り入れる
- 便秘や痛みなどの不調を早めにケアする
専門家や医師に相談する
異食の背景には、栄養不足や脳機能の変化、服用中の薬の副作用など、医療的な要因が関係している場合があります。
そうしたケースでは、医師やケアマネジャーなどの専門家と連携することで、環境調整やケア方法の見直しを体系的に進めることが可能です。緊急時の対応とは別に、日常的なケア方針を整えるための継続的な相談が重要になります。
- 具体的な方法
-
- ケアマネジャーに生活環境の相談をする
- 医師に栄養状態や薬の影響を確認する
- 介護の専門家に日中活動の工夫を相談する
認知症の方が異食をしてしまったときの対処法
認知症の方が異食をしてしまった場合、慌てて対応するとかえって危険を高めることがあります。まずは落ち着いて状況を見極め、適切に対処することが大切です。
危険物の場合は緊急対応をする
洗剤などの化学物質や鋭利な異物を口にした場合、粘膜損傷や中毒、消化管穿孔といった重篤な症状を引き起こす恐れがあります。誤飲直後は目立った症状が出ないこともありますが、重症化を防ぐためには早期対応が必要です。
無理に吐かせたり強く叩いたりすると状態を悪化させる可能性があるため、速やかに医療機関や専門窓口へ相談しましょう。
- 具体的な方法
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- 洗剤・薬品・電池などを飲んだ疑いがある場合は、
すぐ医療機関へ連絡する - 鋭利な物を飲んだ場合は、無理に吐かせず
救急受診する - 飲み込んだ物が不明でも、異物誤飲として医師に相談する
- 洗剤・薬品・電池などを飲んだ疑いがある場合は、
怒らずやさしく誘導する
異食を目にすると驚いてしまいがちですが、強い口調で叱ったり責めたりすることは禁物です。不安や混乱が増し、かえって異食行動を悪化させることがあります。落ち着いてやさしく声かけし、安心感を与えることを心がけましょう。
本人の尊厳を尊重した対応を意識すれば、次に異食が起きた際に行動がエスカレートしづらくなります。
- 具体的な方法
-
- 「これは食べ物じゃないから、こっちに置こうね」と
穏やかに声をかける - 手を引っ張らず、視線やジェスチャーでゆっくり誘導する
- 拒否があっても時間を置いて再度やさしく促す
- 「これは食べ物じゃないから、こっちに置こうね」と
体調変化を見逃さず観察する
異物を誤飲した場合、時間が経ってから症状が現れることもあり、重症化を防ぐためにはできるだけ早く変化に気づくことが重要です。認知症の方は体調不良を言葉で伝えることが難しいため、表情や態度、呼吸の変化など本人の様子を周囲が注意深く観察する必要があります。
軽い症状に見えても、消化管損傷や中毒、窒息の初期サインの可能性もあるため、異変があればすぐに対応しましょう。
- 具体的な方法
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- 咳・嘔吐・よだれ・呼吸の変化を確認する
- 腹痛・ぐったりする・顔色の変化をチェックする
- 異変があれば、飲み込んだ物が不明でも医療機関に相談する
認知症による異食に関するよくある質問
認知症による異食については、原因や対応方法だけでなく、将来的な影響や治療の可否など多くの疑問、不安があるかもしれません。ここでは、認知症の異食に関するよくある質問とその回答をまとめました。
認知症による異食は寿命と関係がありますか? 認知症による異食を改善する治療薬はありますか? 便を食べるのは認知症による異食の一種ですか?
Q認知症による異食は寿命と関係がありますか?
認知症による異食そのものが、直接寿命を短くするという明確な医学的根拠はありません。一方で、窒息や中毒、消化管損傷など重篤な事故を引き起こす可能性など、急性的な生命のリスクを理解しておく必要があります。
Q認知症による異食を改善する治療薬はありますか?
現時点では、認知症の異食を直接改善する治療薬は確立されていません。異食は行動症状の一種として扱われることが多く、薬物療法よりも環境調整や行動療法が中心となります。一般的な抗認知症薬は、認知機能の進行を遅らせる目的で使われるもので、異食そのものを治す薬ではありません。
Q便を食べるのは認知症による異食の一種ですか?
食べ物以外を口に入れてしまうという点では、異食と捉えられます。ただし、食べ物と誤認しているケースばかりではなく、便秘や残便感、おむつ内の不快感など身体的不快感への対処行動がうまくいかないことが原因になっている場合もあります。
認知症の異食は予防と
冷静な対応が重要
認知症の方にみられる異食は、おもに脳機能の低下や、不安・ストレスなどの精神的な問題が背景にあります。本人が自覚できないため、周囲がよく様子を観察し、予防線をはることが欠かせません。万が一異食をした場合でも、慌てず適切に対処することが重症化を防ぐ鍵となります。必要に応じて専門家や医療機関と連携し、本人の安全な生活を支えましょう。
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