04認知症コラム
記憶力低下の原因と対策―うつ病や認知症など高齢者が注意すべき疾患を解説
2025.05.30

「もの忘れが増えた」「大事なことを思い出せないことがある」といった悩みを抱えていませんか?記憶力の低下は、加齢だけでなく、ストレスや生活習慣が大きく関係しています。この記事では、記憶力はなぜ低下するのか、記憶力が低下する原因となる病気について解説します。また、記憶力低下を予防する方法についても紹介するので、ぜひご覧ください。
記憶力の低下とは?
記憶力の低下とは、情報を記憶する能力や過去の出来事を適切なときに思い起こす能力が弱まった状態のことです。日常生活の中では、もの忘れや仕事・学習効率の低下、同じ話を何度もするといった形で現れることがあります。
記憶力の低下は、判断力の低下や性格の変化と同様、認知症の症状の一つでもあります。認知症を早期発見するためにも、記憶力の低下を敏感に察知することが大切です。

もの忘れと認知症の違い
もの忘れと認知症は類似する部分もありますが、実際には異なる現象です。もの忘れとは、日常生活において誰にでも起こり得る一時的な記憶の欠如を指します。たとえば、昨日の朝ごはんのメニューを忘れたり、もの忘れしたことを自覚したりすることは、もの忘れと判断することが一般的です。
一方、認知症は記憶力の低下だけでなく、判断力や理解力、言語能力などの複数の機能低下が持続的にみられる状態を指します。たとえば、朝ごはんを食べたことを忘れたり、もの忘れしたことに気づかなかったりすることは認知症の症状と考えられるでしょう。
もの忘れ | 認知症 |
---|---|
|
|
記憶力低下をもたらす日常的な3つの原因
記憶力の低下は誰にでも起こり得ることです。よくある原因について紹介するので、当てはまっていないか確認してください。
加齢による脳細胞の萎縮
加齢により脳細胞が萎縮すると脳の容量が減少するため、記憶力や判断力といった脳の機能も低下します。加齢による脳の変化は自然なプロセスのため、完全に避けることは難しいでしょう。しかし、適切な生活習慣や脳の活性化につながる活動により、ある程度記憶力・判断力の低下を防ぐことは可能です。
過度なストレスや過労、寝不足
ストレスや過労、睡眠不足などが日常的に発生することも原因の一つです。ストレスの多い環境ではストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが過剰に分泌され、脳の記憶をつかさどる海馬(かいば)に悪影響を及ぼし、記憶力の低下を引き起こすことがあります。
また、情報を整理して新しい記憶を定着させるには、脳を十分に休めることが必要です。しかし、過労や睡眠不足が続くと、脳の休息を妨げられてしまいます。十分な睡眠を確保することやストレスを管理することは、脳が本来の機能を発揮するためにも重要なことといえるでしょう。
薬の副作用による認知機能への影響
薬物の影響により、もの忘れや認知機能の低下が生じることもあります。たとえば、睡眠薬や抗うつ薬、精神安定剤といった薬物は中枢神経に作用し、記憶力の低下や幻覚などをもたらすこともあるため注意が必要です。高齢者は複数の薬剤を併用するケースも多く、相互作用により認知機能に影響が及ぶこともあります。
年代別
記憶力の低下がみられたら疑うべき原因
記憶力低下の原因は、年代により一定の傾向がみられることもあります。よくある原因を紹介するので、チェックしてみましょう。ただし、個人差があるため自己判断をせず、気になる症状があるときは医師の診察を受けてください。
10代
10代で記憶力の低下がみられる場合は、ストレスと生活習慣の乱れを疑いましょう。たとえば、強いプレッシャーによりストレスを感じた、スマホやゲームにより十分な睡眠時間を確保できていないといった場合、一時的に記憶力の低下がみられることがあります。
また、発達障害の可能性も考えられるでしょう。注意欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)には、集中力の欠如や一時的な記憶が苦手といった特性がみられることがあります。
65歳未満で発症する「若年性認知症」の可能性もゼロではありませんが、平均発症年齢は51.3歳のため、10代で発症することは極めてまれです。
- 10代で考えられる記憶力の低下の原因
-
- ストレスや精神的要因
- 生活習慣の乱れ
- 発達障害や学習障害
20代・30代
多くはありませんが、20代や30代で若年性認知症を発症することもあります。一般的な認知症と同様、血管性認知症やアルツハイマー病が原因疾患となるケースもありますが、大量飲酒により発症するアルコール性認知症が原因疾患となるケースも約3.5%ある点に注意が必要です。
また、精神的なストレスや外傷により健忘症となることや、生活習慣の乱れにより記憶力が低下することもあります。
- 20代・30代で考えられる記憶力の低下の原因
-
- 若年性認知症
- 健忘症
- ストレスや精神的要因
- 生活習慣の乱れ
40代
認知機能の低下は、早ければ30代に始まるといわれています。若年性認知症の約3割は50歳未満で発症するため、40代ともなれば記憶力の低下を感じることは自然な流れともいえるでしょう。
認知症の原因ともなる高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクも、40代になると高くなります。記憶力の低下を感じたときは、まずは生活習慣の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。
- 40代で考えられる記憶力の低下の原因
-
- 加齢
- 更年期
- 若年性認知症
- 健忘症
- ストレスや精神的要因
- 生活習慣の乱れ
記憶力の低下の原因となる
要注意な疾患
記憶力が低下した裏には、疾患が潜んでいるのかもしれません。ここでは、記憶力の低下を引き起こす可能性のある疾患について解説します。

記憶力の低下を招く可能性のある疾患
脳血管性認知症 |
|
---|---|
アルツ ハイマー型認知症 |
|
脳の病変 |
|
甲状腺機能 低下症 |
|
うつ病 |
|
生活習慣病 |
|
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳血管の障害によって脳細胞が損傷し、記憶力や判断力が低下する認知症です。症状が進行すると、日常生活にも支障をきたします。脳血管の損傷が起こるたびに、認知機能の低下が段階的に進むことが特徴です。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、脳細胞の萎縮により記憶や言語に関する部分が阻害される疾患です。とくに近時記憶の低下が顕著で、症状が徐々に進行します。進行すると、家族や友人といった身近な人を認識できなくなったり、徘徊や幻覚などの症状がみられたりすることもあるでしょう。
脳の病変による記憶力低下
脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などの脳の疾患によって、もの忘れや意欲の低下が生じることがあります。これらの疾患は、記憶力の低下だけでなく、頭痛や手足の麻痺、吐き気といった症状を引き起こすこともあります。症状の進行は疾患の種類や場所によって異なり、早期発見と適切な治療が重要です
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、もの忘れや集中力・思考力の低下といった症状がみられることがあります。そのほかにも、意欲喪失や皮膚のかさつき、むくみといった多様な症状が現れることもあります。
うつ病
うつ病により意欲や食欲の減退、記憶力の低下を招くこともあります。また、睡眠障害や体の動きが鈍化することもあります。ただし、認知症によってうつ病の症状が生じることもあるため、認知症とうつ病のどちらが原因か判断に迷うことも珍しくありません。
生活習慣病
高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病は、脳の血流を阻害して認知機能の低下を招くことがあります。また、生活習慣病により脳血管障害が引き起こされ、結果として記憶力の低下を招いたり、認知症を発症したりすることもあるため注意が必要です。
記憶力の低下を防ぐための予防法
加齢により記憶力は低下するため、完全に防ぐことはできません。しかし、普段の生活に注意することで、ある程度記憶力の低下を遅らせることは可能です。
バランスのよい食事をとり栄養管理を行う
記憶力を維持するためには、脳が正常に働くために必要とされる栄養素をしっかりと摂取することが大切です。たとえば、魚やナッツ類、緑黄色野菜などを含むバランスのとれた食事は、血糖値の安定に役立ちます。また、血糖値の安定が、集中力や記憶力の低下予防につながることもあります。
運動を習慣化する
運動習慣をつけることも、脳の血流促進や記憶力の維持に役立ちます。とくにウォーキングやジョギング、サイクリングなどの長時間継続して実施できる有酸素運動は、脳の神経細胞の成長を促し、認知機能向上に役立つとされています。意識的に階段を利用するなど、できるところから始めてみましょう。
質のよい睡眠を十分にとる
情報を整理し、記憶として定着させるためには、質のよい睡眠が欠かせません。睡眠中に脳は記憶を整理し、不要な情報を排除することで、学習内容を効率よく定着させます。毎日決まった時間に就寝・起床し、生活リズムを整えることや、7~9時間程度の睡眠時間を確保することが大切です。
ストレスや疲労を溜めない生活を心がける
ストレスや疲労により、記憶力の低下が引き起こされることがあります。ストレスを感じたときは、適度に休息や趣味の時間をとり、リフレッシュするようにしましょう。また、過労を避けることでも、記憶力や心身の健康の維持を図れます。
記憶力が高い人の4つの特徴
ある程度の年齢を重ねても、高い記憶力を維持する方はいます。記憶力の高い方にみられる習慣を紹介するので、ぜひ普段の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

新しいことへの好奇心を持ち続ける
好奇心は脳を活性化する要素です。新しいことに興味を持つことで、情報取得と記憶の定着を促進しやすくなります。また、積極的な学習意欲が脳内の記憶回路を強化することでも、記憶力の維持・向上につながります。
- すぐにできる習慣
-
- 日常の些細な疑問をすぐにスマートフォンで調べる習慣をつける
- 週に1つは新しい本や記事を読んで知識を広げる
情報の管理・処理がうまい
記憶力が高い人は情報を単に取得するのではなく、整理する習慣をつける傾向にあります。情報を整理することで、複雑な内容を効率的に記憶できるためです。また、既存の知識と新しい情報を結びつける関連性を発見することでも、記憶の効率性が高まります。
- すぐにできる習慣
-
- 情報をカテゴリー分けして整理する習慣をつける
- 新しい情報を学んだ際に、既存の知識との共通点を探す
真剣に話を聞こうとする
受動的に話を聞くのではなく、能動的かつ意欲的に話を聞くことも記憶力の高い人の特徴です。情報の理解が深まるだけでなく、記憶として定着しやすくなります。たとえば、話の中で疑問に感じた点をすぐに尋ねたり、自分の中で情報を再構築したりすることは、記憶力の形成に役立つ行為です。
- すぐにできる習慣
-
- 相手の話を遮らず、要点をメモしながら聞く
- 内容を理解するために、適切な質問を1つは投げかける
何事にも高い集中力を発揮する
物事に集中することも大切です。深く集中することで脳が情報を処理し、記憶として保存しやすくなります。また、集中を保つには注意力を持続しなくてはなりません。注意力を働かせることによっても、記憶の質・量の向上を図れます。
- すぐにできる習慣
-
- 一度に複数のタスクを行わず、一つずつ集中して取り組む
- 作業時は25分間スマートフォンに触れない時間を設ける
日常生活から記憶力低下を予防しよう
習慣を見直すことや良質な睡眠をとること、ストレスを溜めないようにすることなどにより、ある程度記憶力の低下を防ぐことは可能です。
また、記憶力の低下は、生活習慣病や脳血管障害といった病気によって引き起こされることもあります。ご自身の健康状態を定期的にチェックし、記憶力や認知機能の低下につながる疾病がないか調べることも大切です。
認知機能についての新しい情報を入手することも大切な要素といえます。認知症は誰もがなり得る疾病のため、多くの国や機関でさまざまな研究が実施されています。新しい情報を知り、生活に取り入れることで記憶力の低下の予防に活かしていきましょう。