04認知症コラム
認聴覚障害(難聴)と認知症の関係は?
原因や予防法まで徹底解説
2025.11.28
認知症の原因の一つとして、聴覚障害(難聴)が挙げられることがあります。この記事では、なぜ聴覚障害が認知症を引き起こすと考えられるのか、2つの仮説をまとめました。また、聴覚障害を防ぐ方法や聴覚障害が見られる認知症患者とのコミュニケーション方法、「聞こえ」に不安を感じるときの対処法も紹介します。
聴覚障害と認知症の関係
65歳以上の方(半数が80歳以上)2,413人を対象とした米国の研究では、中度あるいは重度の難聴のある高齢者の認知症有病率は、正常な聴力を持つ高齢者に比べて61%高いことが報告されています※1。
また、浜松医科大学が実施した約54,000人の高齢者を対象とした研究によれば、追跡調査開始後6年以内に認知症を発症した方は、聴覚障害なしの場合は10.4%であるものの、聴覚障害ありの場合は21.3%と高確率であることが報告されました※2。これらの結果から、聴覚障害(難聴)と認知症は無関係ではないことが推測されます。
※1:Hearing Loss and Dementia Prevalence in Older Adults in the US, Journal of American Medical Association, January 10 2023 ※2:浜松医科大学「聴覚障害があっても社会活動に参加すると認知症を予防できる~聴覚の問題がある人では認知症を2倍発症しやすい~」
- 難聴とは?
- 聞こえにくい状態のこと。相手の話す内容が聞き取れず、コミュニケーションに問題が生じたり、信号や車の音が聞こえないことから危険を察知する能力が低下したりすることが特徴です。進行するとうつ病の原因になることもあります。
聴覚障害はどのように認知症を
引き起こす?-2つの仮説
聴覚障害によって認知症が引き起こされるメカニズムについては、まだ明らかになったわけではありませんが、現在考えられている2つの仮説を紹介します。
脳に負荷を与える「認知負荷仮説」
認知負荷仮説とは、脳の限られた認知資源が過剰に使われることで他の機能に支障が出るという考え方です。
難聴により音が聞こえにくくなると、脳は「聞こえづらい音」を理解するために通常以上の認知能力を使用するようになり記憶や判断、注意力といった他の機能に振り分けられる認知能力が減少する可能性があります。
このような状態が長期間継続することで、音の処理に使用される脳の領域に偏りが生じ、使用されない領域が委縮する恐れがあります。結果として、脳全体の機能が低下し、認知症の発症リスクが高まることに考えられています。
脳の活動量が低下する「カスケード仮説」
カスケード仮説とは、脳の活動量の低下が認知機能の衰えを引き起こし、結果として認知症のリスクを高めるという考え方です。
難聴により会話が困難になると、他者との交流を避けるようになることが考えられます。社会的な孤立状態が続くと、脳の活動量が低下し、結果として認知機能が衰える可能性があります。
このように「交流減少→孤立→脳の活動量低下→認知機能の低下」といった流れが繰り返し起こることで、認知症のリスクが高まることも想定されるでしょう。
聴覚障害を防ぎ認知症を予防する4つの方法
加齢により難聴は起こりやすくなりますが、いくつかの点に注意することで発症を遅らせられることがあります。また、難聴になったときも、すぐに認知症に結びつくわけではありません。難聴と認知症予防のためにできることを紹介します。
大きな音を聞き続けないようにする
長時間にわたり大音量の音を聴き続けると、聴覚細胞にダメージが生じ、加齢性難聴の発症リスクを高めます。聴力と認知機能を守るためにも、大きな音は聴き続けないようにしましょう。仕事などで騒音環境を避けられない場合は、業務に支障がないのであれば、耳栓も有効です。
- 具体的なポイント
-
- イヤホンなどで大きな音を聞き続けない
- 騒音環境では耳栓を活用する
- 耳を適度に休ませる
- 音楽やテレビの音量を適切に調整する
生活習慣を整える
睡眠不足や運動不足、栄養の偏りも、聴覚機能を衰えさせる原因です。いずれも血流を悪化させる習慣のため、内耳の働きを低下させる可能性があります。聴力を維持し、認知症を予防するためにも、生活習慣を整えましょう。
- 具体的なポイント
-
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 質の良い睡眠
聞こえが悪いと感じたらすぐ耳鼻咽喉科を受診する
「最近、聞こえにくいことが増えた」と感じたときは、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。加齢性難聴の場合、聴力が元通りになることは難しいと考えられますが、放置するとさらに聴力が低下することもあるため注意が必要です。
早期治療により、聴力の低下を防ぎ、認知症の発症リスクも軽減できることがあります。また、定期的に聴力検査を受ける習慣をつけることで、早期発見につなげましょう。
補聴器を使用する
補聴器は、聞こえをサポートする機器ですが、脳への音刺激を保つことから認知症予防する効果もあるとされています。聞こえにくい状態が続くと会話を避けるようになり、社会的孤立や認知機能の低下を招くかもしれません。早めに医師に相談し、適切な機器を利用するようにしましょう。
医療機関によっては、日本耳鼻咽喉科頭頚部学科学会が規定する講習カリキュラムを履修した補聴器相談医が在籍し、補聴器選びのサポートを受けられることもあります。専門家の協力も受け、聴力の維持につなげていきましょう。
認知症の方に聴覚障害の症状が見られる
場合のコミュニケーションの工夫
聴覚障害を抱えている認知症の方も少なくありません。聞こえに問題がある方とのコミュニケーションにおいて、工夫したいポイントを紹介します。
視覚的なサポートを活用する
聴覚障害のある認知症の方と接するときは、視覚的な情報も活用するようにしましょう。言葉が伝わりにくい場面でも、意思疎通がしやすくなるかもしれません。とくに、写真やイラストは、記憶を刺激するだけでなく、認知症の方が「理解できた」と感じることから、安心感を与える効果もあるといわれています。
- 視覚的なサポートの例
-
- ジェスチャーや表情、筆談を活用しながらコミュニケーションを取る
- 写真やイラストを使って説明をする
ゆっくり・はっきりと話すことを意識する
認知症の方に話すときは、理解しやすいようにゆっくりかつはっきりと話すことが必要です。聴覚障害がある場合は、特にゆっくりかつはきりと話すようにしましょう。
また、口元を見せるように話すと、口の動きから意味を読み取りやすくできることもあります。静かな環境で落ち着いた声で話すことにより、認知症の方に安心感を与え、信頼関係を構築するようにしましょう。
補聴器の管理と定期的な確認を行う
補聴器を使用している方には、補聴器についてのサポートも必要です。定期的に補聴器を点検することに加え、本人が快適に使用できているかを確認するようにしましょう。
補聴器は聴覚障害を持つ認知症の方にとって、重要なサポートツールです。しかし、適切に使えていないケースも少なくありません。身近な方が適切に管理することが大切です。
聴覚障害の症状が見られる
認知症の方への対応のポイント
聴覚障害の症状が見られる認知症の方と接するときは、いくつか注意が必要です。対応時のポイントを紹介します。
本人の「聞こえの状態」を正しく把握する
認知症の症状と難聴とは混同しやすい部分があり、対応を誤る可能性もあります。まずは認知症の方の聴力レベルを正確に把握するようにしましょう。
聴力レベルは、日常の反応を観察することで、ある程度理解できます。声の音量を調節する、前面から声をかけるなど、適切な支援を模索するようにしてください。
認知症の進行と聴覚の変化を見極める
認知症と聴覚障害の進行は、互いに影響し合うといわれています。双方の状態を正確に見極め、症状悪化を招かないようにサポートすることが大切です。
たとえば、以前は聞こえていた音量の言葉に反応しなくなったときは、聴力の低下が疑われますが、認知機能の低下の可能性もあります。普段の様子を記録し、適切なケアにつなげていきましょう。
専門家との連携を積極的に行う
聴覚障害と認知症の両方を発症している場合、家族などの身近な介護者だけで対応することが難しくなるかもしれません。
言語聴覚士によるコミュニケーションのサポートや、耳鼻科医による聴力管理なども、患者の生活の質を高めるうえで必要になります。専門家と密接に連携をとり、より的確かつ安心感を与えるケアを実現していきましょう。
聞こえに不安を感じたら
早めに医療機関を受診しよう
認知症と聴覚障害(難聴)は相互に関わり合うことが知られています。加齢により難聴になるケースもありますが、年齢に関係なく難聴を予防することで、認知症の予防につなげていきましょう。大音量の音を聴き続けない、聴力に不安を感じるときは早めに医療機関を受診するなども大切なポイントです。
「認知機能ケアプロジェクト」では、認知症予防につながるガンマ波の最新研究情報を配信しています。認知症についての正しい知識を得るためにも、ぜひチェックしてみてください。