04認知症コラム
認知症を分類するFASTとは?活用方法や
ステージごとの症状の詳細を解説
2024.11.29
FAST(Functional Assessment Staging)はアルツハイマー型認知症を分類する評価基準です。認知機能に注目して7段階に分け、適切な介護プランやサポート体制の構築に活かします。FASTとは何か、他の評価基準との違いについてまとめました。また、FASTに基づく具体的な介護アプローチも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
認知症とは何か?
認知症とは、脳の神経細胞の働きが徐々に低下することで認知機能が低下し、社会生活に支障をきたした状態のことです。認知症について知っておきたい基礎知識を紹介します。
認知症の種類
認知症の代表的な種類としては、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つが挙げられます。これらのなかでも最も患者が多いのがアルツハイマー型認知症です。認知症患者の約半分~2/3はアルツハイマー型認知症といわれ、以下、有病者数が多い順に脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症と続きます。
アルツハイマー型認知症 | 脳内のアミロイドβ蓄積を伴い発症する最も一般的な認知症 |
---|---|
脳血管性認知症 | 脳の血流阻害による脳細胞死滅が原因で発症する認知症 |
レビー小体型認知症 | 脳内のレビー小体蓄積を伴い引き起こされる認知症 |
前頭側頭型認知症 | 前頭葉や側頭葉の萎縮によって発症する認知症 |
認知症による主な症状
認知症の症状には、基本的に全ての患者でみられる中核症状と、一部の患者に経過的にみられる周辺症状があります。周辺症状は患者によって現れ方や程度が異なるため、一人ひとりの状態を観察し、適切な対応・治療を実施することが必要です。
症状 | 症状の例 | |
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中核症状 |
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周辺症状 |
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認知症ともの忘れの違い
一般的なもの忘れは加齢に伴う自然な現象で、一時的なものです。体験したことの一部を忘れたり、人の名前を思い出せなかったりすることは誰にでもあります。
一方、認知症によるもの忘れは日常生活や社会生活に支障をきたす程度です。たとえば、体験そのものを忘れたり、時間や場所がわからなくなったり、着衣や掃除などの習慣的に行っていた行動がスムーズにできなくなったりします。
認知症を発症すると、もの忘れがみられることも少なくありません。とくに認知症のなかでも有病率の高いアルツハイマー型認知症では、もの忘れが必ずみられます。
認知症における進行段階と症状
認知症は認知機能の低下により、日常生活や社会生活に支障をきたす疾病です。種類によっても異なりますが、進行によりさまざまな困難がみられます。
進行段階 | 症状 |
---|---|
進行段階1.前兆 | もの忘れや時間感覚の混乱、場所の認識が困難 |
進行段階2.初期 | 短期記憶の低下や簡単な計算ができない |
進行段階3.中期 | 日常的なタスク遂行が困難になり他人の助けが必要 |
進行段階4.末期 | 会話や移動、食事などの基本的な生活動作が困難 |
進行段階1.前兆
前兆段階では、認知症の初期症状であるもの忘れが現れ始めます。会話のなかで「あれ」や「それ」が増えたり、話していたことを数分で忘れてしまったりしますが、日常生活への影響はほとんどありません。
加齢によるもの忘れと混同されることも多く、認知症の診断が遅れる可能性もあります。早めの診断・治療で認知症の進行を遅らせられることもあるため、もの忘れが増えたと感じたときは、専門の医療機関への受診も検討しましょう。
進行段階2.初期
認知症の初期段階に進むと、もの忘れだけでなく短期記憶の低下、時間や場所に対する感覚が希薄になることがあります。たとえば、話したばかりのことを忘れたり、今日の曜日や通い慣れた場所への道順がわからなくなったりすることもあるかもしれません。
初期段階に進むと、日常生活や社会生活に支障が生じることもあります。患者本人の不安も強まり、ささいなことで怒ったり、活力を失ったりすることもある時期です。
進行段階3.中期
中期段階に進むと、新しいことを覚えられなくなったり、スケジュールやメモの存在も忘れたりするため、日常生活にトラブルを抱えるケースも少なくありません。また、食事をしたことを忘れて何度も要求したり、徘徊したりすることもあります。
自立した生活を送ることが難しくなるため、家族のサポートや介護サービスも必要になる時期です。ケアマネジャーとも相談し、訪問介護の利用や、介護施設への入所も検討しましょう。
進行段階4.末期
末期段階では、他人のサポートなしにはほとんどの活動ができなくなります。食事や排泄といった日常動作が困難になるだけでなく、自発的な会話や生活全般に対する意欲がなくなることが少なくありません。
寝たきりになることも多く、誤嚥性肺炎や感染症のリスクも高まります。24時間体制でのケアが求められるため、専門の介護施設への入所も検討することが必要です。
FAST(Functional Assessment Staging)とは?
FAST(Functional Assessment Staging)はアルツハイマー型認知症に用いられる観察式のアセスメントツールです。患者の日常生活動作の観察と、家族や介護者からのヒアリングにより、アルツハイマー型認知症の進行度を7段階に分類します。 認知症の進行度を評価するアセスメントツールはいくつかありますが、患者本人へのヒアリングにより評価する「質問式」と、患者の状態や家族・介護者からの情報により評価する「観察式」の2つに大別できます。
FASTの活用方法
FASTは、アルツハイマー型認知症患者の機能的能力により、進行度を7つの段階に分類する評価基準です。それによりアルツハイマー型認知症の進行状況を正確に把握できるため、次に起こり得る症状を予測しやすくなります。
また、FASTを活用して適切なケアプランを作成することにより、患者のQOL(生活の質)の向上と、介護者の負担軽減も期待できるでしょう。
その他の評価基準との違い
FASTは、アルツハイマー型認知症に特化したアセスメントツールです。7つの段階に分類されているため、進行度や重症度の微妙な違いを捉えやすくなります。
そのため、他の評価基準と比べ、アルツハイマー型認知症患者の状況をより詳細に把握することが可能です。FASTを活用することで、患者個々の状況に合わせたケアを実現しやすくなります。
FASTの7段階ごとの症状
FASTはアルツハイマー型認知症の進行度や重症度を日常生活動作で評価する基準です。ステージ1(FAST1)から徐々に重症度が高まり、ステージ(FAST7)では高度認知症と判断されます。
ステージ | 症状 |
---|---|
ステージ1.正常 | とくにない |
ステージ2.年相応 | 年齢相応の物忘れが生じる |
ステージ3. 境界状態(MCI) |
仕事や社会的活動におけるミスが発生する |
ステージ4. 軽度の認知機能低下 |
最近の出来事や会話内容を忘れるなど、日常生活における認知機能が低下する |
ステージ5. 中等度の認知機能低下 |
服装の選択や食事の準備など、日常生活の多くの場面で支援が必要になる |
ステージ6. やや重度の認知機能低下 |
入浴やトイレなど、日常生活のほとんどの活動において全面的な介助が必要となる |
ステージ7. 重度の認知機能低下 |
言葉を発することが難しくなり基本的な身体機能も低下する |
ステージ1.正常
認知機能が正常だと、主観的かつ客観的に判断されるときはステージ1(FAST1)です。記憶力や判断力は十分にあり、日常生活を問題なく遂行できます。ステージ1では、特別なケアや治療は必要とされません。
ステージ2.年相応
ステージ2(FAST2)ではもの忘れがみられることがありますが、年齢相応と判断される程度です。そのため、もの忘れがあっても、本人だけでなく周囲もとくに問題視しないでしょう。
また、認知機能の低下が目立つ状態でもないため、専門の医療機関でも認知症と診断されることはほとんどありません。しかし、将来の認知症の進行を遅らせるためにも、予防対策が必要です。
ステージ3.境界状態(MCI)
ステージ3(FAST3)は、認知機能の低下が客観的にも明確に現れる段階です。慣れた仕事でもミスが生じるようになり、複雑なタスクをこなしたり、新しい場所に一人で旅行に出かけたりすることが難しくなります。
ステージ3の状態を認知症の境界状態やMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)と呼び、まだ認知症とは診断できません。しかし、適切な治療やプログラムを開始すれば認知症に進行せず、10~60%程度の確率で正常な状態に戻るともいわれています。そのため、認知症の発症を遅らせ、自立した生活を送るためにも、重要な時期です。
ステージ4.軽度の認知機能低下
ステージ4(FAST4)は軽度認知症と診断される時期です。日常生活における認知機能の低下が顕著になり、最近の出来事や会話の内容を忘れるようになります。
また、金銭管理が難しくなったり、料理や買い物が段取りよくできなくなったりするケースも少なくありません。自立した生活が困難になるときは、家族や友人などのサポートが必要です。
ステージ5.中等度の認知機能低下
ステージ5(FAST5)は中程度の認知機能の低下がみられる段階です。気候や場所に合った服装を選ぶことが困難になったり、近所で迷子になったりすることもあります。
暴言や暴力などの問題行動が顕著になりがちな時期です。本人と介護者の生きやすさを確保するためにも、専門的なケアが必要になります。
ステージ6.やや重度の認知機能低下
ステージ6(FAST6)になると、さらに認知機能の低下が進行します。日常生活のほとんどの場面で介助が必要となり、着替えや入浴、排泄などを独力でするのは困難です。
また、夜間に混乱したり、人格が変化したりすることもあります。専門的な介護施設の利用も検討する段階です。
- 6a:独力では服を正しい順に着られない
- 6b:入浴に介助を要する・入浴を嫌がる
- 6c:トイレの水を流し忘れる・拭き忘れる
- 6d:尿失禁
- 6e:便失禁
出典:神﨑恒一「1.アルツハイマー病の臨床診断」
ステージ7.重度の認知機能低下
ステージ7(FAST7)は重度認知症です。言語能力が著しく低下するため使用する語彙が6個以下になり、笑顔も喪失します。
また、身体機能が低下し、サポートなしでの歩行や嚥下は困難です。介護だけでなく医療的なサポートも必要になります。
- 7a:最大限約6個に限定された言語機能の低下
- 7b:理解しうる語彙は「はい」など、ただ一つの単語となる
- 7c:歩行能力の喪失
- 7d:坐位保持機能の喪失
- 7e:笑顔の喪失
- 7f:頭部固定不能、終的には意識消失(混迷・昏睡)
出典:神﨑恒一「1.アルツハイマー病の臨床診断」
FASTステージに基づくケアのアプローチ
FASTのステージごとに必要なケアやアプローチが異なります。各時期の特徴やケアの内容、注意点についてみていきましょう。
FAST1~3:発症から軽度の時期
FAST1~3は、まだ日常生活に支障のない時期とされています。しかし、認知症によりうまくいかないことが増えるため、患者の心理状態が不安定になりがちです。ケアをする人には、患者の自尊心を尊重し、本来の能力を引き出しながら、機能維持をサポートすることが求められるでしょう。
また、認知症や介護についての情報を取得することや、かかりつけ医との連携も重要です。MCIと診断される場合は早めに治療や介入プログラムを開始し、認知症の進行を遅らせるようにしてください。
FAST4~5:中程度の時期
FAST4~5は、軽度・中程度ではあるものの認知症と診断される時期です。日常生活において介助が必要な場面が増えますが、暴力や暴言、徘徊といった他者との関係性に影響を及ぼす周辺症状が出現しやすくなるため、対応が困難になる傾向にあります。
病状の変化を的確にアセスメントし、ケアの優先順位を考慮しながら療養環境を整えることが必要です。また、患者の生活習慣や性格を丁寧に理解することも、適切なアセスメント・ケアに欠かせません。
FAST6~7:中程度から重度の時期
FAST6~7では、言語能力や運動能力の著しい低下がみられます。多角的に状態を評価することが必要になりますが、感情変化も乏しくなるため、患者からのヒアリングによる評価は困難です。FASTなどの状態観察や周囲からのヒアリングを用いた「観察式」の評価を実施し、症状を正確に把握するようにしてください。
オーストラリアのガイドラインによれば、高度認知症と判断されてからの余命は約3年とされており、また、肺炎などを起こすとさらに短くなる可能性があります。家族だけでなくさまざまな専門職と協力して、過ごし方や受ける医療に対する合意形成を始めていきましょう。
認知症の発症や進行を抑えるには?
生活習慣の改善や適切な医療介入によって、認知症の発症・進行を遅らせられることがあります。とくにバランスの取れた食事や運動習慣、社会的交流は、認知機能維持に重要です。糖尿病や高血圧などの生活習慣病の管理やストレス管理、十分な睡眠も、認知症リスクの軽減につながる可能性があります。
また、生活を見直すだけでなく、定期的に健康診断を受け、気になる症状やもの忘れがあるときは専門医に相談することも重要です。認知症やMCIの早期発見により対応の選択肢が増え、生活の質を維持しやすくなります。
生活習慣の改善や適切な医療介入 適切な食事や運動 社会的交流 ストレス管理 十分な睡眠 早期発見
適切な評価と対応で生活の質を高めよう
認知症ではさまざまな評価基準が用いられます。FASTは本人の状態や周囲からのヒアリングに基づいた観察式のアルツハイマー型認知症専用の評価基準です。FASTで状態を把握することで、介護プランを立てやすくなり、本人や周囲の生活の質を維持しやすくなります。
認知症は一度発症すると治療が困難なため、普段からの予防・ケアが大切です。認知機能を維持するための方法もあるため、実践してみてはいかがでしょうか。ぜひ以下から最新研究をチェックしてみてください。