【この人に聞く】輸入原材料GMP認証の開始と原材料の安全性自主点検認証について
一般社団法人 日本健康食品規格協会 理事長 池田 秀子氏に聞く

小林製薬問題で健食業界が揺れ動く中、消費者庁は食品表示基準の一部改正を9月1日に施行し、機能性表示食品制度を強化した。このような中、日本健康食品規格協会(略称:JIHFS)は輸入原材料GMP認証(GMP – IM)を開始した。今回は消費者庁の令和6年311通知に関連して同協会の池田秀子理事長に、輸入原材料GMP認証の中身と原材料の安全性自主点検認証についてお話を伺った。

「輸入原材料GMP認証」を開始

今回の令和6年311通知の別添1では、原材料の安全性自主点検フローチャートと適切な製品設計の指針が示されました。適切な製品設計には、安全な摂取量という量の概念や医薬品および他の食品の活性成分との相互作用を確認することなどが含まれます。また、別添2ではGMPのガイドラインが示されています。311通知は、原材料の安全性自主点検結果を踏まえて製品設計を行い、それに従って最終製品をGMPで製造するという流れが明快に示されていますので、当協会もこれに則って認証業務を進めるのが適切であると考えています。過去には「原材料の安全性認証」という考え方が示されたこともありましたが、当協会はこれとは距離をとってきました。現在私たちのスタンスは、事業者が自主点検をして、現在知りうる科学的なレベルでの評価結果が妥当であるかを確認することになります。

これまでGMP認証は原則として国内における製品と原材料の製造工場が対象で、輸入原材料についてはその品質について客観的な確認がなされていませんでした。小林製薬の事案に関連する検討会などでは、原材料にもGMPを義務化すべきという声も大きかったと思います。しかし、原材料にもGMPを義務化した場合、輸入原材料の取り扱いをどうするかという問題があったと思われます。

JIHFSは2005年の認証開始当時から、国内の製造工場を対象とする「健康食品GMP」「原材料GMP」のほか「輸入健康食品GMP」の認証規範を有していました。また、2015年には「輸入原材料GMP(GMP-IM)」規範を作成しましたので、現在、合計4種のGMP規範を有しています。GMP-IM規範作成後にすぐに認証を開始しようと考えてもいたのですが、実施には至りませんでした。しかし、輸入原材料の品質確保の必要性が高まっていると考えていましたので、紅麹事案が発生する前から協会内に特別委員会を作って検討を続け、本年3月頃に発表しようと準備を進めていたのですが、その矢先に紅麹の件が起きてしまい、開始のタイミングが少し遅れました。

現在取り組んでいる新規事業は、(1)令和6年通知に基づく原材料の安全性自主点検に対する認証、(2)原材料の安全性自主点検サポート事業(文献検索サポート)、(3)輸入原材料GMP認証(GMP-IM認証)となります。(1)と(2)の事業は準備にまだしばらくかかります。(3)のGMP-IM認証は本年7月末にスタートを切りました。国内の輸入原材料販売事業者の品目ごとに認証を行うことになります。事業者のオフィスおよび倉庫を監査し、認証に必要な書類や品質管理責任者などの業務が適切に実施されているか、原材料およびそのサンプルの保管管理や出荷管理状況などを確認します。海外企業との品質に関する覚書や、海外の製造工場が発行した規格書の内容、国内で製品標準書が作成されているかなども確認します。最も大きな特徴は、輸入原材料のロットごとに日本でサンプリングをして分析をしてもらい、製造元の規格との同一性、同等性あるいは同質性を確認することにあります。

海外の製造工場に関しては、ISOやFSSCあるいはHACCPなど、何らかの品質管理システムに基づいて原材料を製造していることを基本的要件としています。そのようにして製造されていても輸送の間に品質に影響が及ぶこともありますので、GMP-IMでは申請された品目ごとに適切なサンプリングを行い、分析試験をしてもらいます。国内でのロットごとの分析試験データと製造元が発行した試験結果とを照合して、分析方法の妥当性も含めて確認することになります。このように、実地監査の結果、分析データおよび製造元の品質管理体制などの情報に基づいて審査し、要件を満たしていれば認証します。

認証後、1年目と2年目については、その間に輸入された原材料のロットごとに実施された国内での試験結果を確認します。認証更新は3年ごとに行います。GMP-IM認証規範では、国内事業者において品質管理体制を統括する責任者を任命すること、出荷管理手順や、文書類の保管手順、原材料に関する有害事象を入手した場合の対応手順、品質不良が生じた場合の手順、社内教育訓練や自己点検、サンプリングなどの手順のほか、サンプルや原材料を保管するハードの管理などの手順書類の整備を要求しています。GMP-IMでは製造自体は海外で行われますから、国内での受け入れと品質管理の確認と適切な保管・出荷などが主な認証要件となりますので、国内の製造工場に求めているGMP要件に比べると要求事項は多くはありません。とはいえ、こうした基準書や手順書、さらには製品標準書の作成などに慣れていない事業者も多いと思いますので、GMP-IM規範にはそれらのひな型も入っています。これを用いて各社の状況に合わせてカスタマイズすれば準備が整うようになっています。

 現在、お問い合わせを頂いているいくつかの企業と面談などをしながら、準備を進めて頂いている段階です。GMP-IM認証のロゴも決まり、申請を待つところまで来ましたので、業界に対する説明会も開催したいと考えています。

原材料の自主点検安全性認証も実施予定

ここまでGMP-IMについてお話してきましたが、さらに重要なのは原材料の安全性自主点検認証です。これは輸入原材料も含めたすべての原材料が対象になります。

3.11通知の別添1の安全性自主点検フローチャートは7つのステップからなっています。それを十分に実施するには文献検索能力が一つの鍵となりますが、網羅的文献検索を効率的に行うには専門的な知識が必要です。

ステップを順に追っていくと、まずステップ1は、製品に含まれる原材料を明確にし、点検対象原材料と賦形剤などのそれ以外の原材料に分けます。ステップ2では点検対象原材料が食薬区分の「専ら医」リストにないことを確認し、さらに点検対象原材料が適切な製造工程のもとで一定の品質で製造されていることを確認します。これは原材料GMPに関連するものでもあります。ステップ3では食経験を確認します。食経験の長さとして、例えばFDAは25年、EUは30年(第三国からの素材の場合は、海外で最低15年、EUで15年以上)、オーストラリアは素材にもよりますが1世代か2世代にわたる食経験を求めています。一方、日本は食経験について具体的な年数を示していません。ちなみに、今回の小林製薬の紅麹の場合、原材料として17トン、約100万個の最終製品の販売実績を食経験として機能性表示食品の届出を行っています。この原材料に使用された紅麹菌(Monascus pilosusNBR4520)は伝統的に使用されてきた紅麹菌でなく、製造方法も特異的でしたので、食経験があると判断したことが適切だったかについては疑問です。

ステップ3で十分な食経験があると判断されればステップ7に進みます。もし、十分な食経験がなければステップ4、5に進みます。ステップ4では、点検対象原材料またはその起原材料の安全性について文献検索を行います。ここで特に問題がなければステップ5に進みますが、安全であると判断できなければ、この段階でサプリメントの原材料としての使用は諦めることになります。ステップ5では、点検対象原材料およびその起原材料に含まれる成分について文献検索を行って有害事象の報告の有無を確認します。必要に応じて実際に原材料の分析試験も実施しなければなりません。ステップ4および5の文献検索が本フローチャートでは大変重要なため、JIHFSとしてのサポート体制を予定しています。ステップ5で安全性に問題がないと判断されればサプリメントの原材料として使用可能となります。安全と判断できない場合はステップ6に進み、動物試験などの安全性試験を行います。

事業者はこれらのステップを経て、サプリメントの原材料として安全であるという結果が得られれば本認証に申請可能となります。JIHFSはその内容を確認し、認証の可否を判定します。認証体制を整え、本事業もできるだけ早く開始できるようにしたいと思っています。尚、新規事業の審査委員長として日本薬科大学薬学部教授(元国立医薬品食品衛生研究所生薬部長)の袴塚高志先生、委員に昭和女子大学元教授(元医療基盤・健康・栄養研究所 情報センター長)の梅垣敬三先生にご就任頂くことになりました。

紅麹事案に関連する食品表示基準の一部改正に対する諮問を受けた消費者委員会は、総理大臣に提出した答申書で、将来的にGMPを原材料にも適用するよう検討することを求めています。また、消費者庁は、自主点検フローチャートを含む別添1の部分についても、本年度内に告示として示す予定です。原材料の安全性と品質確保にJIHFSとしてもしっかり取り組むことで、サプリメントの信頼性を高め、海外に先立つ制度であると自信を持って言えるようになれば良いと思います。

今回の告示改正の重要性

今回の告示改正では大きく分けて、①健康被害情報の報告の義務化②機能性表示食品のサプリメント製造のGMP義務化③表示内容などの改善の3つがあります。①と②は待たれていた制度だと思います。サプリメントは通常の食品と比べて、リスクが大きいので、GMPの義務化は大きな一歩です。さらに今回、120日ルールができたことも大きな前進です。何を新規成分とするかはこれから示されるようですが、本ルールは機能性表示食品の安全性確保の根本を支える制度になると思います。今回の事件により、原材料の安全性と品質確保の重要性について関係者が深く考える機会になったことは、不幸中の幸いだったと思います。

池田 秀子 氏 プロフィール

1974年北里大学薬学部薬学科卒業、薬剤師。1974年東京田辺製薬 ㈱ 研究開発本部入社。1998年 ㈱ソフィアテック東京田辺 常務取締役。2002年バイオヘルスリサーチリミテッド設立。国内外の健康食品企業に対するコンサルテーションを行う。2013年より同社取締役社長。2005年日本健康食品規格協会を有志と共に設立。2013年理事長就任。

「FOOD STYLE 21」2023年9月号 この人に聞く より

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