04認知症コラム
健忘症とは?主な原因や認知症・もの忘れ
との違い、簡単チェックリストも紹介
2025.03.27

健忘症とは、特定の期間の記憶が失われる記憶障害の一つです。単なるもの忘れとは異なり、脳の特定領域に影響を及ぼすさまざまな原因で発症します。多くの場合は早期発見により改善するため、早めの治療が重要です。この記事では、健忘症の原因と症状、認知症・もの忘れとの違い、治療法について解説します。
健忘症とは?
健忘症とは、新しい情報を覚えることが難しくなったり、過去の出来事を思い出せなくなったりする記憶障害の一種です。記憶の形成、保持、想起の過程に障害が生じますが、計算や読み書きなどの脳機能や既存の知識は比較的保たれます。
症状や影響の程度は個人によって異なりますが、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。健忘症の原因はさまざまで、場合によっては長期化することもあるため、専門医による診断と適切な治療によって早期に対策を講じることが重要です。

健忘症と認知症・もの忘れの違い
健忘症、認知症、そして単なるもの忘れは、いずれも記憶に関する障害ないし疾患ですが、それぞれに異なる特徴があり、症状や影響の程度が異なります。「もの忘れが気になる」という方はチェックしてみましょう。
主な症状 | 自覚の有無 | |
---|---|---|
健忘症 | 記憶障害のみ | ある |
認知症 | 記憶障害、身体機能の低下、 判断力の低下、計算能力の低下など |
ない |
もの忘れ | 記憶障害のみ | ある |
認知症との違い
健忘症と認知症の主な違いは、忘れたことへの自覚の有無です。
健忘症は特定の出来事や情報を思い出せなくなる状態を指し、忘れたという事実は自覚できる場合が多くあります。そのため、ヒントがあれば記憶を取り戻せることがあるでしょう。
一方、認知症は忘れたこと自体を認識できず、経験した出来事そのものを忘れてしまいます。また、記憶だけでなく判断力や理解力などの認知機能全般が徐々に低下していく進行性の疾患である点が健忘症との大きな違いです。
- 健忘症の場合
- 朝ご飯を食べたことは覚えているが、食事の内容が思い出せない
- 認知症の場合
- 朝ご飯を食べたこと自体を忘れている
もの忘れとの違い
健忘症ともの忘れの違いは、その程度と日常生活への影響にあります。
健忘症は著しい記憶の喪失をともない、重要な情報を忘れてしまうなど日常生活に支障をきたします。抜け落ちたように記憶を失ってしまう点が特徴的です。
一方、一般的なもの忘れは誰にでもある自然な現象で、時間の経過やヒント・会話をきっかけに思い出せることが多いです。
健忘症の原因
健忘症の原因は、主に外的要因と内的要因に分けられます。適切な対応や治療法を選択するためには、正しい原因を把握することが重要です。

頭部への衝撃などの外傷によるもの
健忘症の代表的な原因の一つが、頭部への衝撃や外傷によるものです。交通事故による衝撃や、脳疾患、手術などが原因で、短期的または長期的な記憶障害が起こるケースがあります。
とくに、海馬や大脳連合野などの記憶に関わる部位へのダメージが健忘症につながる大きな要因です。WHOが定義するMTBI(軽度外傷性脳損傷)でも、24時間以内の外傷性健忘がみられることがあります。
- ポイント
- 認知症の中でも脳血管性認知症の場合は、脳卒中などの脳疾患が原因で発症する。アルコールを控えるなど、生活習慣を見直すことは認知症の予防にもつながる。
ストレスなどの心因性によるもの
過度のストレスや精神的ショックによる心因性の健忘症も存在します。代表的なのが、極度のストレスやトラウマが引き金となり、特定の記憶や情報が一時的に失われてしまう「解離性健忘」と呼ばれる状態です。
解離性健忘は脳の防衛機制の一種で、過剰なストレスから自身を守るための反応とされており、その期間は数分から数十年にまでおよぶこともあります。
- ポイント
- 解離性健忘の場合は、新しい情報であれば記憶できる。
薬の副作用などの薬剤によるもの
薬剤服用の副作用によって健忘が生じることもわかっています。特定の薬は、脳の化学的なバランスを乱し、記憶に影響を与える可能性があり、特に鎮静剤や抗不安薬、抗うつ薬などは記憶力の低下を引き起こすことがあります。
また、アルコールの過剰摂取によるブラックアウトも健忘症の一つです。アルコールを乱用すると、海馬において短期記憶保存から長期記憶保存への記憶の移動が一時的に阻害され、記憶の空白が生じます。
薬の副作用による健忘症が疑われる場合は、医師に相談し、薬の調整や代替薬の検討を行うことが必要です。
- ポイント
- ベンゾジアゼピン系の薬を服薬して記憶力の低下を感じたら、主治医に相談しよう。
健忘症の種類と症状
健忘症にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる症状や特徴を持っています。主な健忘症の種類とその症状について詳しくみていきましょう。
前向性健忘
前向性健忘は、発症以降に経験した新しい出来事を記憶できなくなる症状です。新しい情報を記銘する能力が著しく低下し、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。たとえば、つい先ほど起こったことや、今日の出来事を覚えられないといった状態が続きます。
主に脳の損傷やアルコール依存症、特定の薬剤の影響などによって引き起こされます。
- 例
- 最近会った人の名前や、数分前に聞いた話をすぐに忘れてしまう
逆行性健忘
逆行性健忘は、発症より前に起きたことの記憶を思い出せなくなる症状です。特徴的なのは「時間的勾配」で、直近の記憶が失われる一方で、その時点から離れた記憶は比較的保持される傾向にあります。症状の程度は個人差が大きく、記憶が失われるのは数時間前から数年前までと広範です。
主に頭部外傷や脳卒中などの脳の損傷、または精神的なショックによって引き起こされることがあります。
- 例
- 交通事故で頭部を強打したが、事故が発生する以前の記憶が思い出せない
一過性健忘
一過性健忘は、突然発症する一時的な記憶障害です。通常、数時間から24時間以内に自然に回復し、再発することはほとんどありません。
基本的な個人情報は覚えているものの、現在の状況や最近の出来事を記憶できず、同じ質問を繰り返すのが特徴的な症状です。発作中の記憶は永久に失われることが多いですが、症状がおさまれば記憶能力は回復します。
ストレスや過度の疲労、脳の一時的な血流不足が関与していると考えられていますが、はっきりとした原因は解明されていません。
- 例
- 自分の名前や職業、家族の名前などは言えるが、今自分がどこで何をしているのかがわからず混乱する。
健忘症は治る?
健忘症が治るかどうかは、原因や健忘の種類、症状の程度によって異なります。たとえば、原因がストレスなど心因性によるものであれば、適切な治療やカウンセリングによって記憶が回復する可能性があるでしょう。
一方、脳の損傷や進行性の疾患による健忘は、確立された治療法がなく、記憶機能そのものを改善することは難しい場合が多いです。しかし、リハビリテーションや薬物療法を通じて進行の遅延を図ることも可能で、適切なケアで症状を改善できる見込みはあります。
健忘症のセルフチェック
表の「注意が必要」で思い当たることが多い場合は、健忘症や認知症の可能性があります。認知症は進行性の疾患ですが、早期対応で症状の進行を遅らせることもできます。早めに病院受診を検討しましょう。
正常な範囲 | やや注意が必要 | 注意が必要 |
---|---|---|
一部のことをど忘れしている | もの忘れが目立つが、日常生活に支障はない | 出来事自体を忘れ、日常生活に支障が出ている |
|
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「健忘症かも」と思ったらどこを受診する?
健忘症が疑われる場合、早期の専門的な診断が重要です。重大な脳疾患の可能性もあるため、症状に気づいたら速やかに適切な医療機関を受診しましょう。
脳神経外科
脳神経外科は、脳・脊髄・神経系の疾患を専門とする診療科です。転倒などで頭をぶつけた覚えがある人は、まず脳神経外科を受診しましょう。
衝撃を受けた直後は異変がなくても、少量の出血が長く続くことで脳内に血液が溜まっているケースがあり、MRIなどの画像診断や、必要に応じて手術を行う必要があります。
また、脳神経外科では認知症の診断も可能です。
心療内科
心療内科は、心身の健康問題を総合的に診る診療科です。ストレスや心理的要因による健忘症が疑われる場合は受診を検討しましょう。
とくに、トラウマやショックな出来事などが原因で記憶障害を発症する解離性健忘の診断と治療には、心療内科が適しています。心理カウンセリングや薬物療法など、患者の状態に応じた治療を受けられます。
もの忘れ外来
認知症の疑いがある場合や、もの忘れになる原因に心当たりがない場合は、もの忘れ外来を受診しましょう。
もの忘れ外来は、健忘症の診断と治療に特化した診療を行う、記憶障害や認知症の専門外来です。認知機能検査、画像診断、血液検査などを組み合わせて総合的な評価を行い、認知症の疑いがあるかどうかを専門医が診察してくれます。

健忘症と認知症の違いを理解し、適切な対応を
健忘症は記憶障害の一種ですが、もの忘れや認知症とは異なる特徴があり区別されます。頭部外傷やストレス、薬物の影響など原因は多岐にわたり、症状の種類や程度によって治療法が異なるため、早期の専門医受診が重要です。根本的な治療が難しい認知症とは異なり、適切な診断と治療を行えば、多くの場合で改善が期待できます。
認知症は一度発症すると治療が困難なため、普段からの予防・ケアが重要です。しかし、最新の研究により認知機能を維持する方法も少しずつ見つかってきています。最新の研究成果について、ぜひ以下の関連記事をチェックしてみてください。