04認知症コラム
認知症保険が必要ないといわれる理由は?
必要か見極めるチェックリストも紹介
2025.10.08

近年、新たな保険の種類として、認知症になった場合に備える「認知症保険」が登場しました。将来を見据え、認知症保険に入るべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。本記事では、認知症保険が必要ないといわれる理由、介護保険との違いを解説します。また、認知症保険に加入するメリット・デメリットや、注意点も紹介するので、加入するかどうかの判断に役立ててください。
そもそも認知症保険とは?
認知症保険とは、認知症と診断された場合や認知症による要介護状態になった場合に、給付金を現金で受け取れる民間の保険商品です。受け取った給付金は、認知症の治療費、介護サービス利用料、施設入居費用、在宅介護のための住宅改修費など、幅広い用途に充てられます。
認知症保険は、介護に関する経済的負担を直接軽減できる点が特長です。診断一時金型や介護年金型など複数のタイプがあり、保障範囲や給付条件は保険会社によって異なります。

認知症保険の種類
認知症保険には「治療保障タイプ」と「損害賠償タイプ」の2種類が存在します。どちらか一方だけで認知症のリスクを完全にカバーできるわけではないため、それぞれの保障内容を細かく確認することが重要です。
タイプ | 主な目的 | 保障内容 |
---|---|---|
治療保障タイプ | 認知症による医療・ 介護費用に備える |
・認知症診断時の一時金 ・介護年金 ・MCI給付など |
損害賠償タイプ | 認知症による 事故や損害への補償 |
・第三者への損害賠償責任 ・示談交渉費用 ・弁護士費用など |
認知症保険が必要ないといわれる理由
認知症保険は「必要ない」といわれることも多く、加入するか迷うこともあるでしょう。ここでは、その理由を解説するので、検討する際の参考にしてください。
認知症保険の加入率が低い
認知症保険(または認知症特約)の世帯加入率…7.6%
認知症保険の世帯加入率は約7.6%と低く、民間の生命保険や特約(95.1%)に比べて加入者が非常に少ないのが実情です。背景には、認知症保険が比較的新しい商品で、認知度が低いことも影響しています。つまり、「不要」というよりも「知られていないだけ」という状況ともいえるのです。今後、ますます高齢化が進展するにつれて、注目度が増す可能性もあるでしょう。
参照:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
公的介護保険である程度カバーできる
公的介護保険に加入していれば、要介護認定を受けた際に1~3割の自己負担で介護サービスを利用できます。つまり、認知症で介護が必要になった場合でも、公的制度から給付を受けられます。
公的介護保険は、現金支給ではなく介護サービスそのものの現物給付です。金銭面以外の支援が受けられるため、認知症保険がなくても、本人やその家族は困らないケースが多いのです。
認知症になった際の費用を
自分の貯蓄で賄える場合がある
介護用品の準備や住宅リフォームなど、一時的にかかる介護費用の平均は約47万円、月額の介護費用は公的介護保険の自己負担分も含めて平均9万円程度です。平均的な介護期間を踏まえ、自己資金でこれらの費用を賄える見込みがあれば、必ずしも認知症保険に加入する必要はありません。
参照:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
- 介護費用(一時的な費用の合計)…平均47万円
- 介護費用(月額)…平均9.0万円
- 介護期間…平均55.0カ月(4年7カ月)
認知症保険と介護保険の違いは?
認知症保険と介護保険の違いは、主に給付条件です。介護保険には、公的介護保険と民間介護保険の2種類が存在します。とくに、認知症保険と公的介護保険においては、給付内容と加入義務も異なるという特徴があります。自分に必要な保障を補完的に組み合わせることが重要です。
項目 | 認知症保険 | 介護保険 |
---|---|---|
特徴 | ・認知症への備えに特化 ・柔軟に資金を使える |
・社会保障制度の一環 ・幅広く介護全般を支援 |
給付条件 | 認知症の診断(保険会社により異なる) | 要介護認定(要支援含む) |
給付内容 | 現金 | 〈公的介護保険の場合〉 現物(介護サービスの提供) |
〈民間介護保険の場合〉 現金 |
||
加入義務 | なし(任意加入) | 〈公的介護保険の場合〉 あり(40歳以上) |
〈民間介護保険の場合〉 なし(任意加入) |
認知症保険が必要かを見極めるチェックリスト
すでに介護・医療保険に加入している | |
十分な貯蓄がある | |
家族と介護について話し合っている | |
成年後見制度や家族信託を検討している | |
保険料の支払いが老後も無理なく続けられる |
これらの項目に多くチェックが入る場合、認知症による経済的な負担は、既存の保障や資産で十分にカバーできる可能性が高いです。したがって、認知症保険に新たに加入する必要性は低いといえるでしょう。
反対に、該当項目が少ない場合は、将来の介護費用で本人や家族の負担が重くなるかもしれません。治療費やリフォーム費用、介護施設の入居費用などの費用負担を軽減するためにも、加入を検討する価値があります。
認知症保険に加入する4つのメリット
認知症保険は必ずしも入る必要はありませんが、状況次第では加入することでメリットを得られます。具体的にどのようなメリットがあるのか、みていきましょう。
経済的な備えができる
認知症保険の大きなメリットは、認知症と診断された際に一時金や年金形式で現金給付を受けられる点です。この給付金は、自宅のバリアフリー化や介護用品の購入、施設入所費用など、公的介護保険ではカバーしきれない用途で自由に使えます。さまざまな支出に対応できるため、長期化しやすい認知症介護に備えるにあたって、安心材料となるでしょう。
家族の負担を軽減できる
認知症保険の給付金は、家族の経済的な負担はもとより、精神的負担の軽減にもつながります。公的介護保険に加え、認知症保険に加入していることで、将来への不安が和らぐでしょう。また、より質の高い介護サービスや施設を選択できる可能性も広がるため、介護の質の向上にもつながります。
認知症の予防・早期発見につながる
認知症保険を利用することにより、認知症の予防や早期発見ができる可能性があります。認知症保険のなかには、認知機能検査や脳トレアプリなどの認知症予防サービスが付帯している商品があります。また、軽度認知障害(MCI)段階で給付金が支払われるような認知症保険を利用すれば、認知症の早期発見が促進できるでしょう。
ただし、診断基準や評価方法は保険会社ごとに異なるため、約款やパンフレットなどで内容をよく確認しましょう。

指定代理請求制度が利用できる
認知症保険においては、指定代理請求制度を利用し、契約者に代わって代理人が給付金や給付金を請求できます。
指定代理請求制度は、認知症などで被保険者本人が給付金請求の意思表示ができない場合に、代理人が代わって給付金や給付金の請求を行える仕組みです。申請には事前に代理人を指定しておく必要があります。
ただし、指定代理請求制度が利用できる条件や代理請求の範囲は保険会社により異なるため、契約時の約款で確認が必要です。
- 指定代理請求制度が利用できる場合の例
-
- 被保険者が認知症などで意思表示ができない状態
- 傷害や疾病により入院・高度障害状態で本人が保険請求できない場合
- 被保険者ががんと診断されたが、余命告知を本人に伝えない家族の希望がある場合
- 意思疎通ができない昏睡状態にある場合
- 被保険者が病名を知らされておらず、給付金請求ができない場合
認知症保険に加入するデメリット
認知症保険に加入する際には、デメリットもあります。保険料の負担や給付条件をよく理解せずに認知症保険に加入すると、後悔する可能性もあるため注意しましょう。
保険料が高額になりやすい
認知症保険は、加入年齢が高くなるほど保険料が大幅に上昇する傾向にあります。たとえば、70歳で加入すると月額保険料が若年加入時の数倍になることも珍しくありません。多くが終身払いの契約で、老後も支払いが続くため、長期的な負担になる可能性があります。また、保障を手厚くするために特約を付けると、保険料はさらに増えます。
免責期間・削減期間がある
認知症保険には、加入後すぐに給付対象とならない免責期間や、契約から一定期間は給付金額が一部減額される削減期間が設けられていることが一般的です。多くの保険で90日〜2年程度の免責期間があり、その期間内に認知症と診断されても給付金は支払われません(または給付金が減額して支払われます)。
また、要介護認定が給付条件となっている商品では、認定を受けるまでに時間がかかるでしょう。そのため、給付までに期間のズレが生じることがあります。
掛け捨て型が多く解約返戻金がない
認知症保険の多くは掛け捨て型です。認知症にならなかった場合も、支払ったお金は戻ってきません。また、解約しても返戻金が少ない、あるいはまったくないケースもあります。加入時に保障内容と費用のバランスをよく検討し、長期の支払い負担を考えたうえで、慎重に判断しましょう。
認知症保険を選ぶ際に確認したい5つのこと
いくつか種類のある認知症保険のなかから適切なものを選択するためには、それぞれの保険の特徴や自分のニーズをしっかり理解する必要があります。ここでは、認知症保険を選ぶうえで押さえておきたい5つのポイントをご紹介します。

補償範囲
認知症保険の補償範囲は商品によって異なるため、それぞれのポイントを確認し、目的に合ったもの選ぶことが重要です。
たとえば、早期発見や予防に役立てるなら軽度認知障害(MCI)まで補償対象とするものがよいでしょう。介護費用の補填に重点を置く場合は、重度認知症のみを対象とするものが適しています。また、徘徊や事故による第三者への損害を補償する損害賠償補償付きのタイプもあり、家族のリスクに応じて選択が可能です。
- 確認事項の具体例
-
- 軽度認知障害(MCI)も対象か?(早期発見・予防に備えたい場合)
- 重度認知症のみ対象か?(介護費用の補填を重視する場合)
- 損害賠償補償付きか?(徘徊や事故など第三者への損害に備えたい場合)
給付条件
給付条件も認知症保険を選ぶ際の重要なポイントです。たとえば、医師の診断のみで受給できるタイプは給付までが早い一方、要介護認定や日常生活自立度の判定が必要な場合は手続きに時間がかかります。
また、一定の期間症状が続くことが条件になっている場合、早期診断でもすぐに給付されないリスクがあります。条件の厳しさは保険料や給付の確実性と直結するため、比較検討が欠かせません。
- 確認事項の具体例
-
- 医師の診断のみで給付されるか?
- 要介護認定や日常生活自立度の条件が必要か?
- 症状が一定期間(例:180日)継続しないと給付されないか?
付帯サービス
認知症保険には、さまざまな付帯サービスが用意されている場合があります。健康維持をサポートする認知症予防アプリや脳トレサービス、介護相談窓口で専門的な助言が受けられるサービスなどが代表的です。
さらに、被保険者の安全を遠隔で確認できる見守りサービスや、家族向けに情報提供や支援制度の案内を受けられるものもあります。本人と家族の状況に応じて、便利なサービスがあるか確認してみるとよいでしょう。
- 付帯サービスの具体例
-
- 認知症予防アプリ
- 脳トレサービス
- 介護相談窓口
- 見守りサービス
- 家族向けの情報提供や支援制度
給付金の受け取り方
給付金の受け取り方法も、事前の確認が重要です。給付金はおもに一時金または年金形式で受け取れます。受取人本人が認知症で意思表示が困難な場合は、指定代理請求制度を利用して家族による代理請求や、成年後見制度を活用して請求することも可能です。各保険会社の手続きや条件を確認し、最適なものを選択しましょう。
タイプ | 特徴 | 向いている人 |
---|---|---|
一時金型 | 認知症診断時にまとまった金額を受け取る | 初期費用(施設入居・住宅改修)に備えたい人 |
年金型 | 月々または年単位で給付される | 長期的な介護費用に備えたい人 |
保険料と加入年齢のバランス
認知症保険の保険料は、加入年齢が上がるにつれて高くなる傾向があります。そのため、払込期間が終身払いか短期払いかを確認することが重要です。短期払いの方が、終身払いに比べて月々の保険料は高くなることが多いですが、総支払額は抑えられる可能性があります。
また、持病があっても加入しやすい「引受基準緩和型」という商品もあります。加入年齢や健康状態などのバランスをよく検討したうえで、選択肢に入れるとよいでしょう。
比較項目 | 終身払い | 短期払い |
---|---|---|
月々の保険料 | 比較的安い | 比較的高い |
総支払額 | 長生きすると高くなる傾向 | 一定期間で支払い終了(総額は抑えられる可能性あり) |
支払期間 | 一生涯(死亡まで) | 一定年齢まで(例:60歳、65歳) |
老後の負担 | 継続的に保険料が必要 | 老後は保険料不要な ことが多い |
向いている人 | 月々の負担を 抑えたい人 短期的な見直しを考えている人 |
老後の支出を 減らしたい人 長期的に保険を 維持したい人 |
認知症保険に加入する際の注意点
認知症保険に加入する際の注意点をよく理解せずに契約すると、思わぬトラブルや後悔につながることもあります。契約に進む前に、どのようなリスクが潜んでいるのかをしっかり把握しておきましょう。
他の保険と保障が重複する可能性がある
認知症保険は、すでに医療保険や介護保険に加入している場合、保障内容が重複する可能性があります。たとえば、医療保険や介護保険の特約・損害賠償補償が認知症保険にも付帯されているケースなどです。
この場合、損害賠償事故が起きた際に、いずれかからしか給付金が支払われない場合があります。結果的に、同じリスクに対して無駄な保険料を支払うことになるため、注意が必要です。
- 対処法
-
- 加入中の保険内容を整理してカバーされているリスクや付帯サービスを一覧化する
- 加入予定の認知症保険と比較し、重複内容があれば現在の保険の特約を見直す、または不要なものは解約・削除する
給付条件が厳しい場合がある
認知症保険は、認知症の診断だけでなく、「要介護認定」や「日常生活自立度」の条件が必要となるケースが多いです。たとえば、「要介護1以上」の認定や、認知症高齢者の「日常生活自立度Ⅲ以上」の判定がされていないと給付対象外となる商品もあります。また、軽度認知障害(MCI)は保障対象外となっている場合があるため、注意しましょう。
- 対処法
-
- 加入前に各保険商品の給付条件を詳細まで確認し、条件の緩い商品も比較検討する
- 「MCI」も保障対象か、単に診断のみで給付されるかなど各社の違いを調べる
- 疑問点は、窓口やカスタマーサポートで事前に確認し、書面でも証明となる約款内容を必ず保存する
保険内容の理解不足によるトラブルが起こる可能性がある
認知症保険では、「給付金をもらえると思っていたのに、もらえなかった」というトラブルが発生するおそれがあります。各商品に細かい条件が設定されているため、内容を完璧に理解するのが難しいためです。そのため、加入前にパンフレットや約款を細部まで確認し、少しでも不明な点があれば専門家へ相談することが重要です。
また、指定代理請求制度の準備や家族と保険内容を共有しておけば、実際に請求が必要になった際にスムーズに対応できます。
- 対処法
-
- パンフレットや約款を熟読し、給付条件を具体的に把握する
- 疑問点や解釈が難しい部分は、専門家やFP(ファイナンシャルプランナー)に相談する
本人が給付金を受け取れない場合がある
本人が認知症などで意思表示が困難になると、給付金の請求ができない可能性があります。その備えとして「指定代理請求人制度」を活用し、信頼できる家族などに契約内容を共有しておくことが重要です。
ただし、指定代理請求人に設定できるのは配偶者や直系親族など一定の範囲があり、手続きの範囲や保険会社ごとの規定も異なります。実際に指定代理請求をする場面を想定したうえで、利用できそうか確認しておきましょう。
- 対処法
-
- 契約時に指定代理請求人を設定し、被保険者の同意も得ておく
- 指定代理請求人や契約内容を家族や関係者と共有し、緊急時の対応を準備する
- 制度の利用条件や範囲を保険会社の約款で事前に確認する
認知症保険は正しい理解と事前準備で安心の選択を
認知症保険に加入する際には、給付条件や制度の仕組みをよく把握し、家族としっかり情報共有することが大切です。加入時には条件や費用だけでなく、請求の流れや指定代理請求制度の活用を見据えながら、将来の負担を軽減できる契約を選ぶことが安心につながります。事前の周到な準備と理解で、予期せぬトラブルを防ぎましょう。
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