04認知症コラム
意味性認知症とは?主な症状や原因、
進行速度をわかりやすく解説
2025.04.30

意味性認知症とは物や言葉の意味を理解しにくくなり、徐々に言語障害や行動障害を引き起こす認知症です。治療法がまだ確立されておらず、2015年には難病指定されました。この記事では、意味性認知症の原因や主な症状、寿命などについて解説します。
意味性認知症とは?
意味性認知症は、脳の側頭葉前方部の変性により、物や言葉の意味理解が徐々に失われ、言語障害や行動障害を引き起こす難病の一つです。

意味性認知症は前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)の一つで、脳の側頭葉前方部の一部が萎縮する進行性の病気です。初期は言葉の意味や物の名前がわからなくなる「語義失語」が目立ちますが、進行に伴い相貌失認や人格変化、行動障害が見られることもあります。
意味性認知症は2015年に難病指定されました。まだ治療法や予防方法は確立されていないため、診断を受けたときは、症状の進行を緩やかにするための対症療法を実施することが一般的です。
意味性認知症の原因
意味性認知症の原因はまだわかっていません。ピック球やTDP-43といったタンパク質が神経細胞内に蓄積することにより、前頭葉や側頭葉の前方部分が萎縮するのが原因ではないかと考えられています。
なお、意味性認知症を含む前頭側頭葉変性症の約8割はピック病由来です。ピック病は40~64歳が発症する初老期認知症の代表的な疾患です。
- ピック病とは?
- 「ピック球」と呼ばれる異常な物質のかたまりが神経細胞内にできることで、前頭葉や側頭葉が萎縮する症状のこと
かつては前頭側頭型認知症にはすべてピック球があると考え、ピック病と前頭側頭型認知症は同義としていました。しかし、現在ではピック球がなくても前頭葉や側頭葉の前方に萎縮が生じる認知症もあることがわかり、ピック病は前頭側頭型認知症の一つとされています。
意味性認知症の主な症状
意味性認知症の治療法は確立されていませんが、症状を理解しておくことで適切な対応をしやすくなります。意味性認知症によくある症状と、症状別の対応を紹介します。

語義失語
語義失語は意味性認知症を特徴づける言語症状で、失語症の一種です。言葉の意味や物の名前そのものは理解していても、それを結びつけて思い出すことが困難になります。
たとえば、リンゴを認識しているものの、リンゴを見て「リンゴ」という単語が出てこないといったケースです。語義失語が見られるときは、語彙を再獲得する訓練により使用できる言葉を増やせる可能性があります。
- 症状のポイント
- あれ、それ、あの人といった抽象的な表現が増える
常同行動
常同行動とは、同じ行動を何度も繰り返すことです。たとえば、毎日同じ時間に同じ場所に行く、同じ時間に同じメニューの食事をとるといった反復行動が見られます。「習慣」とは異なり、特定の状況やストレスの影響で無意識に繰り返されるのが特徴です。
- 症状のポイント
- 常同行動の場合、「習慣」のようにポジティブな行動を繰り返すとは限らない
口唇傾向
口唇(こうしん)傾向とは、周囲にある物を何でも食べようとすることです。意味性認知症が進行すると、口唇傾向が見られることがあります。周囲に毒性のある物や誤嚥する可能性のある物は置かないようにしましょう。
- 症状のポイント
- 十分に咀嚼しないまま飲み込もうとするため、むせてしまったり、窒息したりする恐れがある
人格変化
人格変化は今までと人格が変わってしまったような様子が見られることです。たとえば、穏やかで周囲に配慮できる人が、突然怒り出したり泣き出したり、自己中心的な行動が増えたりすることがあります。
なお、人格変化は意味性認知症だけでなく、前頭側頭葉変性症全体に見られる特徴的な症状です。
- 症状のポイント
- 本人の資質ではなく、意味性認知症の影響なのだと事前に理解しているだけでも、介護の心理的負担が大きく和らぐ
脱抑制
脱抑制とは、他人の目が気にならなくなり、犯罪行為や暴力といった問題行動をしたり、理性的な行動ができなくなったりすることです。社会的に問題になる行動をする恐れがあるため、別の行動に置き換えるようにサポートする必要があります。
- 症状のポイント
- 他の人からどう思われるかを気にしなくなってしまい、自分本位な行動をとりがちです
意味性認知症とアルツハイマー型認知症の違い
意味性認知症は初老期認知症の代表的な認知症です。一方、65歳以上で見られる認知症の約2/3はアルツハイマー型認知症です。それぞれの違いを解説します。
意味性認知症 | アルツハイマー型認知症 | |
---|---|---|
症状 | 言葉の意味や物の名前がわからなくなる語義失語が見られることがある。症状が進行すると相貌失認や行動障害が表れることがある | もの忘れから始まることが一般的。同じことを何度も聞く、時間や場所を認識できないといった症状が見られる。症状が進行すると家族を認識できなくなったり、食事や歩行が困難になったりすることもある |
年齢 | 40~64歳で発症することが多い | 40歳以降で見られるが、65歳以降で発症することが多い |
原因 | ピック病が原因となることが多いが、ピック病が発症する原因はわかっていない | 脳にアミロイド蛋白やタウ蛋白が蓄積し、神経細胞の障害や細胞死を引き起こすことが原因とされている |
日常生活 への 支障 |
適切な言葉が出てこないため、意思疎通が難しくなる。自分を律することができず、犯罪行為や暴力をする場合もある | 症状が進行すると、食事や歩行といった日常動作を一人ですることが困難になる |
意味性認知症では「言語障害」が特徴
意味性認知症の初期は、アルツハイマー型認知症のような記憶障害はあまり見られず、言語障害が顕著です。数週間前に何をしたというエピソード記憶は残るものの、言葉の意味や物の名前を理解することが難しくなります。
また、復唱や正しい文法で話すことなどは問題なくこなせても、物の名前とその物が結びつきません。そのため、その物を見せながら名前を説明しても、初めて聞いたかのような反応を示すこともあります。
意味性認知症は比較的若年で発症することが多く、症状も一般的な認知症とは異なるため、理解が得られにくい疾病です。周囲になじみにくくなり、患者は辛い思いをするかもしれません。
アルツハイマー型認知症では
「もの忘れ」が頻発
一方、アルツハイマー型認知症の初期症状では、もの忘れなどの記憶障害が見られることが一般的です。アルツハイマー病は記憶をつかさどる脳の海馬周辺の萎縮によって発症する疾病のため、同じ話を何度も繰り返したり、置いた場所を忘れたりするといった記憶関連の症状が発現します。
症状が進行すると、慣れているはずのこともできなくなるため、周囲のサポートが必要です。たとえば、慣れた道でも迷ってしまい、徘徊しているように見えるかもしれません。
また、時間や場所、人物がわからなくなる見当識障害が見られることもあります。今日の日付や現在自分がいる場所がわからず、周囲を困惑させたり、約束を守ることが難しくなったりすることがあるでしょう。
意味性認知症の症状の進行
意味性認知症の初期には、語義失語が見られます。症状が進行するに従い、同じ行動を繰り返したり、他人からどう見られているか気にしない行動が増えたりするでしょう。
さらに進行すると、人格変化や行動障害も増えてきます。また、語彙が極端に減り、限られた単語を繰り返して話し、自発性の低下も見られるようになります。
意味性認知症の寿命(予後)
個人差や状況による差はあるものの、意味性認知症の寿命は発症から6~9年以内といわれています。一般的なアルツハイマー型認知症が8~12年であることと比べると、寿命は短い傾向にあるといえるでしょう。あくまでも集団としての話なので参考程度にして頂ければ幸いです。
意味性認知症で注意したい合併症
意味性認知症本来の症状だけでなく、合併症にも注意が必要です。代表的な合併症を紹介します。

嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)
嚥下(えんげ)性肺炎とは、飲み込んだ食べ物や唾液が気管に入り込むことで引き起こされる肺炎です。誤嚥(ごえん)性肺炎とも呼ばれます。
通常なら気管に食べ物や唾液が入る前にむせて吐き出しますが、高齢者は気管の入口を塞ぐ嚥下反射機能と異物を吐き出す咳反射機能が衰えます。そのため、嚥下性肺炎を起こしやすくなるのです。
窒息
意味性認知症が進行して中期になると、周囲にある物を見境なく口に入れる「口唇傾向」や、視界に入った物や声に対して反射的に行動する「被影響性」が強まります。そのため、異物が気管に入り込む可能性が増える傾向にあります。異物が気管に入ることで痰が出やすく、窒息しやすくなることもあるため注意が必要です。
抑うつ
意味性認知症を含め、認知症は意欲低下や無関心を引き起こしやすい疾病です。自発的な行動が減り、徐々に無気力になっていきます。うつ状態は認知症の進行を早める原因の一つです。患者の意思やペースも尊重しつつ、楽しく過ごせるようにサポートしていきましょう。
意味性認知症は治療できる?
意味性認知症の治療法はまだ確立されていません。たとえば、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる治療薬を投与することにより、かえって精神症状を悪化させたといった報告もあります。
しかし、右記以下の薬物では、意味性認知症の症状緩和が見られることもあるようです。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
脱抑制などの行動異常に効果あり - NMDA型グルタミン酸受容体阻害薬
神経細胞傷害や記憶・学習障害を抑制
ただし、まだ科学的に根拠が乏しく、どの患者に対しても有効な治療薬とはいえません。健康を損なうリスクも想定されるため、薬剤の選定は慎重に行うことが必要です。
非薬物療法では、行動療法的な介入に有効性が見られることもあります。たとえば、失われた語彙を再獲得する訓練は、自尊心や生活の質向上につながりやすいと考えられます。
また、ジグソーパズルや塗り絵、数独といった活動も脳に刺激を与える行動です。ほかにもカルタやお菓子づくり、書道なども、感情を安定させ、認知機能や運動機能を維持させる効果を発揮することがあります。
意味性認知症はケアが大切
意味性認知症は認知症の中でも発症率が低く、症状への理解が得られにくい傾向にあります。意味性認知症を含む前頭側頭葉変性症全体でも日本に12,000人程度といわれており、治療法が確立されていない難病です。そのため、意味性認知症の患者に対してはケアが重要となるでしょう。
また、主に40~64歳の比較的若年の時期に発症するため、家族への経済的・精神的負担が大きい点も前頭側頭葉変性症の特徴の一つです。症状が進行すると、社会的に不適切な行動をとったり、無気力・無関心になったりすることもあります。
ただし、介護によって進行を遅らせることは可能であり、また初期で記憶障害が見られるケースが少ない分、リハビリ効果は期待できる
気になる症状があるときは
専門家に相談してみよう
意味性認知症はまだ治療法が確立されていない難病ですが、症状を理解しておくことで、対応やケアをしやすくなります。それに加え、進行による症状の変化も知っておくことが大切です。意味性認知症は中期以降には抑うつ症状が生じやすく、無気力や無関心といった状態が見られることもあります。気になる症状があるときは、早めに医療機関を受診し、専門家に相談してみてください。
認知症は発症すると治療が難しく、普段からの予防やケアが大切です。また、認知症についての知識を取り入れることも大切といえます。認知症についての研究は常に進歩しているため、新しい情報を入手することで、より効果的な予防が可能になります。ぜひ最新研究についての情報に触れ、認知症予防に努めていきましょう。