04認知症コラム
【弁護士監修】認知症の親の貯金を口座から
下ろす方法はある?事前対策も解説
2026.02.27
親が認知症になってしまったとき、生活費や医療費などのお金を、家族はどう用意したらよいでしょうか。この記事では、認知症になった親に判断能力がある場合・ない場合の2パターンに分けて、銀行口座からお金を下ろす方法をご紹介します。また、認知症を発症する前からできる対策やよくある質問もまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 判断能力があるうちに親の貯金を下ろした場合に注意すべきことは何ですか?
- 代理人カードは判断能力がなくなった後も利用できますか?
- 全国銀行協会の指針でどのくらいの額を下ろせますか?
- 配偶者であれば本人が認知症でも貯金を下ろせますか?
認知症の親の貯金を口座から下ろせる?
認知症のことを銀行が知ると
口座が凍結される可能性がある
親の認知症の有無ではなく、判断能力があるかどうかで銀行口座からの引き出し方法が変わります。
銀行が「口座名義人の判断能力が低下している」と認識すると、本人の財産保護のために口座凍結が始まり、家族であっても預金を自由に引出せなくなります。口座凍結後は、医師の診断書や成年後見制度など法的手続きが必須となり、簡単にお金を下ろすことはできません。
- 口座凍結によりできなくなること
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- キャッシュカードや通帳での預金の引出
→窓口・ATM問わず、家族による代理手続も不可、ATMでの振込や残高照会も不可、入ってくる年金も引き出せない - 他口座への振込
→金融機関での預貯金の払い戻しができなくなる、生活費・医療費が支払えなくなる - 株式・投資信託などの金融資産の売却・解約不可
- 貸金庫も開けられなくなる(中に重要書類などがあっても)
- 定期預金の解約・継続手続も不可
→金融資産の管理ができなくなる
- キャッシュカードや通帳での預金の引出
銀行が口座凍結を考えるタイミング
銀行が口座凍結を検討するきっかけは単一ではなく、複数の場面で発生します。これらのきっかけは、いずれも「口座名義人の判断能力が低下している可能性」と銀行が認識する要因となり、凍結の判断につながります。家族が想定するよりも早い段階で口座が停止されるケースもあるため、事前の備えが重要です。
- 窓口での対応が困難になったとき
- 医師の認知症の診断書や介護認定を銀行が確認したとき
- 家族や第三者から認知症であると申告があったとき
- 不自然な引き出し行為が疑われたとき
認知症の親の貯金を口座から
無断で下ろすリスク
認知症の親の貯金を無断で引き出すことには、大きなリスクがあるため避けるべきです。ここでは、無断で認知症の親の貯金を引き出すことのリスクを二つ解説します。
法的違反のリスク
本人の同意なく貯金を引き出す行為は、家族であっても法的リスクを伴います。介護費用など正当な目的であっても、同意を示す証拠がなければ窃盗罪や横領罪として扱われる可能性があります。具体的には、成年後見制度により後見人が就いたのちに、後見人から返還を求める民事手続きを取られたり、後見人が警察に被害相談したりすることで刑事手続きに進んでしまうおそれがあります。
もっとも、親族間では刑法244条1項(親族相盗例)により刑事罰が免除されます。また、警察としても家族トラブルには介入しにくいため、刑事手続き進むことは少ないですが、民事上の返金請求を受けるおそれは残ります。こうした点を踏まえ、無断での引き出しには十分な注意が必要です。
相続トラブルのリスク
本人の同意なく貯金を引き出す行為は、相続トラブルを招く大きな要因です。兄弟姉妹などの相続人から「勝手に財産を使った」と受け取られ、不正利用を疑われるおそれがあります。使途の記録がなければ疑念が強まりやすい点にも注意が必要です。
また、親の死後の遺産分割で「公平性が欠ける」と感じる相続人が出ることもあり、話し合いが難航するケースも見られます。話し合いでの遺産分割ができなければ、家庭裁判所での遺産分割調停、審判などの法的手続きに発展してしまうこともあります。
判断能力がある場合認知症の親の貯金を口座から下ろす方法
認知症になったからといって、すぐに全ての判断能力が失われるわけではありません。ここでは、まだ判断能力がある場合に、認知症の親の貯金を口座から下ろす方法を4つみていきましょう。
本人の同意を得たうえでキャッシュカードを
預かりATMで引き出す
親本人に判断能力があって同意が取れる場合、キャッシュカードを預かった家族がATMで貯金を引き出すことができます。銀行の規約に照らしても、親本人の意思に基づく利用であれば問題ありません。
- 注意点
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- 引き出しの記録や同意の証拠を残しておく
- 高額の引き出しは避け、必要最低限にとどめる
- カードの管理を徹底し、紛失や不正利用を防ぐ
委任状を作成し窓口で引き出す
親本人が署名した委任状を銀行窓口で提示すれば、家族でも正規の手続きとして貯金を引き出せます。窓口では本人確認や委任内容の確認が行われるため、第三者から見ても手続きの正当性が示しやすい点が大きなメリットです。
利用する銀行によってルールは異なりますが、親の「通帳」「印鑑」「委任状」と「窓口に行く方の写真付き身分証明書」が必要であることがほとんどです。
- 注意点
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- 委任状の署名・押印に不備がないか確認する
- 有効期限や効力の範囲を事前に把握しておく
代理人カード(家族カード)を利用する
代理人カードを使えば、家族でも正式な手続きとして貯金を引き出せます。代理人カードは銀行に申請するだけで発行できるカードで、ATMでの利用も可能なため、日常の出金がスムーズになります。銀行が認める制度に基づく方法のため、違法性の心配がなく安心して使える点も大きな利点です。
- 注意点
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- 発行手続きに時間がかかるため、早めに準備する
- 利用範囲や制限を銀行に確認しておく
- 紛失時のリスクが本人にも及ぶため、厳重に管理する
日常生活自立支援事業を利用する
日常生活自立支援事業を利用して金銭管理の支援を受ける方法もあります。社会福祉協議会が契約に基づき、公共料金の支払いから生活費の出し入れまで日常的な金銭管理をサポートする仕組みです。大がかりな手続きが不要なため、日常的な支援を求める場面に向いています。
- 注意点
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- 利用できるのは生活費など小口の金銭管理に限られる
- 本人の同意と契約が必要で、判断能力がまったくない場合は利用できない
- 相続や大きな財産の処分には使えない
判断能力がない場合認知症の親の貯金を
口座から下ろす方法
認知症の親に判断能力がなくなってしまうと、今までの方法では親の貯金を下ろすことができなくなります。親に判断能力がなくなった場合に、親の貯金を口座から下ろす方法を2つ紹介します。
法定後見制度を利用する
判断能力がない親の貯金を下ろすには、法定後見制度の利用が最も確実です。家庭裁判所が選任した法定後見人(成年後見人)が、本人に代わって財産管理や契約行為を行える仕組みで、法的に認められた方法として信頼性があります。貯金を含む財産全体を一括して管理できる点も大きな特徴です。
参考:厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」
- 注意点
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- 申立てから開始まで時間と費用がかかる
- 後見人の権限が広いため、本人や家族の意思が制約される
- 家族が必ず後見人になれるとは限らない
全国銀行協会の指針を利用する
判断能力がない親の貯金を下ろす方法として、全国銀行協会の指針を利用する手段もあります。この指針では、認知症などで判断能力が不十分な場合に限り、家族が代理で出金できる仕組みが認められています。全国共通の基準に基づくため、どの銀行でも同じ対応を受けられる点が特徴です。
参考:全国銀行協会「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引き出しに
関するご案内資料」
- 注意点
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- 利用できるのは緊急時の必要資金に限定される
- 医師の診断書や必要書類を準備する必要がある
- 長期的な財産管理には使えない
親の貯金を口座から下ろせなくなる前に
できる4つの事前対策
認知症が進むと、家族であっても親の貯金を自由に下ろせなくなる可能性があります。
その事態を避けるためには、判断能力があるうちに備えておくことが重要で、後の手続きや負担を大きく減らせます。
家族信託
親の判断能力があるうちに備える方法として、家族信託を活用する選択肢があります。家族信託は、信託契約を結び、家族が受託者として財産管理を担う仕組みです。契約後に本人が判断能力を失っても、受託者が信託契約に基づいて貯金の管理や引き出しを行えます。
相続対策や資産承継にも使えるため、柔軟性の高い制度といえます。また、後見制度では後見人は基本的には財産管理しかできませんが、信託であれば資産運用を行うことも可能です。ただし、認知症が進んで判断能力を失った後は契約できないため、早めの準備が欠かせません。
任意後見制度
将来の判断能力低下に備えるなら、任意後見制度を選ぶ方法があります。本人が元気なうちに後見人を契約で指定でき、家庭裁判所が後見監督人※を選任した時点で効力が発生します。誰に何を任せるかを本人が決められるため、意思を反映しやすい制度です。契約内容を理解できる判断能力が必要なため、発症前の段階で準備を進めておくことが欠かせません。なお、後見契約は公正証書を以って作成することが必要です。
※任意後見人が契約内容の通り、適正に仕事をしているかを監督する人のこと。任意後見監督人は家庭裁判所が選任するが、本人の親族等ではなく、第三者(弁護士、司法書士など)が選ばれることが多くなっている。
出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」
生前贈与
事前に資金を確保しておきたい場合は、生前贈与という選択肢も有効です。判断能力があるうちに家族へ財産を贈与しておけば、口座凍結の影響を受けずに必要な費用へ充てられます。介護費用や医療費の確保にも使いやすい方法です。相続税対策としても活用できますが、贈与税や相続時の不公平感によるトラブルには注意が必要です。
銀行の代理人指名制度
銀行手続きの負担を減らしたい場合は、代理人指名制度を活用する方法があります。事前に家族を正式な代理人として登録しておけば、本人が窓口やATMへ行けなくなっても代理人が出金できます。銀行の制度に基づくため安心して利用でき、少額預金でも使える点が利点です。判断能力があるうちに登録しておくことで、後の手続きがスムーズになります。
認知症の親の貯金を口座から下ろす方法に関するよくある質問
認知症の親の貯金を口座から下ろす方法に関して、よくある質問とその答えをまとめました。認知症の親の財産管理を行う場合は、ぜひ参考にしてください。
判断能力があるうちに親の貯金を下ろした場合に注意すべきことは何ですか? 代理人カードは判断能力がなくなった後も利用できますか? 全国銀行協会の指針でどのくらいの額を下ろせますか? 配偶者であれば本人が認知症でも貯金を下ろせますか?
Q判断能力があるうちに親の貯金を下ろした場合に
注意すべきことは何ですか?
親の同意を証明できる記録を残し、使途を明確にし、家族間で情報共有することが重要です。委任状やメッセージのやり取りを保存し、領収書・請求書も保管しておくと後の確認がスムーズになります。さらに、兄弟姉妹がいる場合は、引き出した金額を彼らへ定期的に共有しておくことで、誤解やトラブルを避けやすくなります。
Q代理人カードは判断能力がなくなった後も利用できますか?
利用できません。銀行が判断能力の低下を確認すると口座が凍結され、代理人カードも使えなくなります。
口座凍結前であっても、本人の同意を得られない状態で出金すると無断引き出しとみなされ、トラブルの原因になりかねません。法定後見制度や全国銀行協会の指針など、適切な手続きを検討しておくことが重要です。
Q全国銀行協会の指針でどのくらいの額を下ろせますか?
高齢者の預金引き出しに関する制限は、金融機関によって対応が異なります。全国銀行協会が2021年2月に発表した指針はありますが、あくまで参考であり、上限金額などを明確に定めたものではありません。各銀行で独自の判断基準や運用ルールを設けているため、取引のある銀行の窓口などで確認しましょう。
Q配偶者であれば本人が認知症でも貯金を下ろせますか?
配偶者であっても、本人の同意がないまま貯金を下ろすことはできません。認知症になった場合の扱いは親と同様で、配偶者だからといって特別な扱いが与えられるわけではないからです。判断能力を失った後に出金が必要なときは、法定後見制度や全国銀行協会の指針など、適切な手続きを踏む必要があります。
親の貯金を適切に扱うために状況に
合わせて最善の方法を選ぼう
親の貯金を下ろせない場面は、判断能力の有無によって取れる手続きが大きく変わります。すでに困っている場合は法定後見制度や銀行の指針を確認し、まだ判断能力があるなら事前対策を進めておくことが重要です。状況に合った方法を選ぶことで、介護費用などの必要な支払いに備えつつ、家族の負担も軽減できます。
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