睡眠バランス研究PROJECT

専門家に聞きました レム睡眠研究者に聞く。
謎多きレム睡眠の役割とは?
林悠 先生

専門家に聞きましたイメージ
林先生がレム睡眠に関心を持った理由をお聞かせください。
私自身は脳の発達の仕組みを研究していて、その過程で、赤ちゃんはとてもレム睡眠が多いことを知り、これは脳の発達に重要なのではないかと思ったことが関心を持った原点です。さらに、研究を進める過程で、睡眠が脳にとって重要な作用を持つことがわかりつつあるので、人々に良い睡眠をとってもらうことで精神・神経疾患の予防や治療につなげたいというのが、睡眠のメカニズムを解明しようとしている理由です。
レム睡眠の最新研究で明らかになってきたことがあれば教えてください。

レム睡眠は、その効果についての検証が難しく、謎が多い睡眠です。軽度の精神的な負荷は、レム睡眠の確保と相関性があること※1やレム睡眠をしっかりとれるとその後のノンレム睡眠の質も上がるといったことは判明していたのですが※2、ここ数年はノンレム睡眠時にアミロイドβなどが老廃物として排出される可能性が浮上し、認知症リスクとの関連で大きな注目を浴びました。一方、最近はレム睡眠が記憶の定着に寄与しているというエビデンスが報告されており、レム睡眠の少なさと認知症発祥率に相関性も報告されるようになりました。※3

また、レム睡眠中は、大脳皮質の毛細血管内の血流が大幅に上昇することも判明しました。脳の毛細血管の血流量が上昇することで、脳に必要な血液中の酸素や栄養を送り届け、不要となった二酸化炭素や老廃物を回収され、脳がリフレッシュされている可能性が示唆されました。※4

レム睡眠とノンレム睡眠のバランスが加齢によって変化するのでしょうか?

人のレム睡眠の割合は、新生児期に最も多く、幼少期に大幅に減少します。さらに、思春期以降も加齢とともに少しずつ減少します。(図1)
認知症の有病率が年齢と共に上がっていくことを合わせて考えると、レム睡眠は認知症を考える上で、重要な役割を担っている可能性があると言えるでしょう。

睡眠時間の年齢による変化

睡眠時間の年齢による変化
※出典:Roffwarg, HP., Muzio, JN., Dement, WC. 1966 Ontogenic development of the human sleep-dream cycle. Science 152: 604-19. を一部改変し認知症ねっと編集部作成
質の良いレム睡眠は、質の良いノンレム睡眠につながるとお聞きしましたが、逆に2つの睡眠のバランスが崩れている人の特徴や傾向はあるのでしょうか。
睡眠時無呼吸症やいびきのひどい方は、全体的にどちらの睡眠も少ない傾向があり、バランスが悪い傾向があります。そういった睡眠バランスの乱れは、睡眠の質を正確に可視化した脳波を測って、初めて知る方が多いようです。こうした人は、本人が自覚できないような中途覚醒を一晩中繰り返しているケースも多く、こうしたことにも脳波を測ることで初めて気づくケースが多いようです。
林先生は、どのような睡眠が「質の良い睡眠」と考えますでしょうか。

睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠がどちらも大切です。また、ノンレム睡眠はその深さでステージ分けをすることができます。3つの深さのステージの中で最も深いノンレム睡眠をとれていることが質の良い睡眠という観点からは重要です。この深いノンレム睡眠の際には、徐波という、1秒間に2、3回というゆっくりとしたサイクルで振動する脳波が特徴的にみられます。個人差はありますがノンレム睡眠、レム睡眠というふたつの睡眠を意識することで、「質の良い睡眠」が目指せるのではないかと思います。

一晩の睡眠サイクル

一晩の睡眠サイクル
※出典:Roffwarg, HP., Muzio, JN., Dement, WC. 1966 Ontogenic development of the human sleep-dream cycle. Science 152: 604-19. を一部改変し認知症ねっと編集部作成

※1 軽度断眠は睡眠のホメオスタシス調節を駆動するか 広重 佳治 2017年
※2 Cells of a common developmental origin regulate REM/non-REM sleep and wakefulness in mice. 2015年
※3 Pase et al., Sleep architecture and the risk of incident dementia in the community. Neurology 89(12):1244-1250 (2017)
※4 レム睡眠中におこる大脳毛細血管の血流の上昇と、A2a受容体の関与 2021年
  Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2a receptors Cell Reports

林悠 先生
林悠 先生
東京大学 大学院理学系研究科生物科学専攻睡眠生理学研究室教授
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構客員教授博士(理学)

東京大学卒業後、東京大学大学院理学系研究科修了。理化学研究所脳科学総合研究センター(現・脳神経科学研究センター)研究員、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構助教、准教授を経て、2020年4月より現職。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授と兼務。動物の睡眠構築を操作できる独自の技術を活用し、睡眠の作用やメカニズムの解明、認知症や精神疾患などに対する新たな予防治療法の開発をめざす。2017年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。

質の良い睡眠を目指すには?[友野なお 先生]