04認知症コラム

レビー小体型認知症の原因は?
多様な症状に対応したオーダーメイド医療が重要

2024.03.13

レビー小体型認知症の原因は?イメージ

レビー小体型認知症は認知症患者全体の約4.6%を占め、アルツハイマー病に次いで多い認知症です。遺伝学的研究では約3割が遺伝的因子によって発症すると推定されているものの、根本的な原因はまだよく分かっていません。したがって、レビー小体型認知症に特徴的な症状や進行の経過など既知の情報に捕らわれず、個々の葛藤や病態に合わせた医療あるいは介入が重要です。ここでは、レビー小体型認知症の基礎情報から診断における課題、非薬物療法における介入方法について日本の認知症治療における第一人者であり、アルツクリニック東京院長の新井平伊医師に伺いました。

レビー小体型認知症とは *…dementia with Lewy bodies

はじめに、レビー小体型認知症の特徴など、基礎知識からご教示いただけますか?

レビー小体型認知症とは、脳の神経細胞内にLewy小体と呼ばれるαシヌクレインを主成分とした異常なタンパク質の凝集体が蓄積し、神経細胞がダメージを受けて認知症の症状を示す神経変性疾患です。大きな概念の括りとしてはレビー小体病(LBD)のなかにレビー小体型認知症が含まれ、ほかのレビー小体病にはパーキンソン病があります。

そのため、レビー小体型認知症ではアルツハイマー型認知症と違い、パーキンソン病で見られるような動作緩慢などの運動障害を来たしやすいのも特徴です。ほかにレビー小体型認知症の症状としては幻視やレム睡眠行動異常症、うつや妄想などの精神症状、起立性低血圧や排尿障害などといった自律神経症状なども知られています。

レビー小体型認知症の症状の現れ方
後頭葉と頭頂葉が障害の中心

レビー小体型認知症の原因について教えてください。

残念ながら、レビー小体が蓄積する根本的な原因についてはまだよく分かっていないため、根治を目指すような治療法も現状では存在しません。ただ、日本人を対象として近年おこなわれた全ゲノムシーケンサー解析では、レビー小体型認知症の発症リスクを高める遺伝子変異に関する情報が報告されています。こうした新しい発症機序の解明などもいま、着々と進められているところです。

一方、余命や予後については様々な見解がなされているものの個人差が大きく、一般的にはアルツハイマー病に比べると不良であるという見解が多いかもしれません。その理由は、レビー小体型認知症に特徴的な運動障害や精神障害によって治療や介護の方法が変わり、それらの経過で予後は大きく左右されるためです。ただ、報告ではレビー小体型認知症とアルツハイマー病における認知機能障害の進行について違いはみられていませんし、精神症状が最初に現れるタイプでは、アルツハイマー病よりも認知機能低下の進行はゆっくりしていると私の臨床経験では感じています。

レビー小体型認知症の進行も、アルツハイマー病のような前段階として軽度認知障害(MCI)が存在しますか?

レビー小体型認知症においてもアルツハイマー病と同じように前駆段階が存在し、レビー小体を伴う軽度認知障害(MCI due to LBD)として認められます。ただ、レビー小体型認知症ではアルツハイマー病に比べて記憶障害が目立ちにくいこともあって、このMCI-LBの段階で認知症を疑って医療機関を受診する人は少ないかもしれません。

一方、レム期睡眠行動異常症はMCI due to LBDの段階からよく見られる症状のひとつです。そのほか、MCI due to ADと比較した研究ではパーキンソニズムや歩行障害、自律神経症状、嗅覚障害、幻視、せん妄、精神症状などが早期から多くみられることも報告されています。

レビー小体型認知症が疑われる場合の診断方法について教えてください。

レビー小体型認知症を臨床で診断する際の基本は、ほかの認知症と変わりません。詳細な経過や神経精神症候の把握とともに問診や身体所見、神経学的所見なども必須です。これに、レビー小体型認知症で特徴的なパーキンソン症状や変動する認知障害、繰り返す具体的な幻視、うつ症状、妄想、レム期睡眠行動異常症などを留意して診ることになります。

レビー小体型認知症の症状

パーキンソン病 手足のふるえ、動きが遅くなるなど
幻覚 存在していないものが見える
レム睡眠行動障害 寝ながら暴れる、大声を出す
自律神経症状 立ちくらみ、寝汗、動悸など
認知機能などの変動 特に夕方になると症状悪化
薬への過敏性 薬の副作用が出やすい

検査としては血液検査のほか、頭部MRIでレビー小体型認知症以外の認知障害や神経精神症候の原因を除外するような検査が一般的です。また、保険適用外では、123I-MIBG心筋シンチグラフィ*1や脳血流SPECT*2、FDG-PET*3、ドパミントランスポーター画像*4といった検査もあります。

*1…123I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)という薬剤が心臓に集まる程度を画像評価する検査で、アルツハイマー病との鑑別診断にも用いられる。
*2…シンチグラフィ(放射性同位元素で標識した薬剤を体内に投与して放出される放射線を画像化することで薬剤の分布を調べる検査)の断層撮影をSPECTといい、脳の血流を測定する検査のこと。
*3…放射性物質を標識したブドウ糖(FDG)を体内に投与し、その分布を画像化して調べる検査。
*4…神経終末に存在するドパミントランスポーター(DAT)の密度をSPECTで分析する検査で、ダットスキャン®が該当する。

レビー小体型認知症の診断における課題、非薬物療法における介入方法

臨床現場における診断のなかで、課題などがあれば教えていただけますか?

レビー小体型認知症では進行しないと認知障害が認められにくい反面、うつ症状を呈することが多いために自分がレビー小体型認知症だとは思いもせず、心療内科や精神科を訪れる患者も少なくありません。また、幻視やパーキンソン症状のように分かりやすい特徴的な症状が出るとは限らず、めまいや不安など様々な症状でそれに応じた耳鼻科などの診療科を受診する患者もいます。

レビー小体型認知症もアルツハイマー病と同じく進行性の疾患であり、どの病気でも言えることですが、より早期の診断が重要です。認知障害よりも精神症状や行動異常(BPSD)がつよく現れるレビー小体型認知症では、医師はこれを念頭に置いて診断に当たり、一般の方にとっては正しい情報の周知が必要でしょう。

レビー小体型認知症における治療について教えてください。

重要なのは、その人にどのような症状が現れ、QOL(Quality Of Life、生活の質)がどのくらい低下しているのかを把握することです。レビー小体型認知症には前述のような特徴的な症状に加えて、自律神経症状など人によって症状は様々で、その治療方針は患者ごとにオーダーメイドする必要があります。

重症な例では、パーキンソン症状による運動障害で歩行困難や誤嚥による肺炎など、ADL(日常生活動作、Activities of Daily Living)がどのくらい影響を受けているかといった確認も欠かせません。治療は薬物療法と非薬物療法の2つに大別され、このうち後者が特に重要です。

非薬物療法には、どのようなものがありますか?

レビー小体型認知症の非薬物療法もアルツハイマー病と同じように心理的介入や運動、作業療法や理学療法、音楽療法、介護者の教育などがあり、その人にあった方法を検討していくことが重要です。また、レビー小体型認知症を含め認知症を抱える人に対する医療や支え方の基本として、「パーソン・センタード・ケア(Person Centered Care)」という考え方があります。

これはイギリスの社会心理学者であるトム・キットウッドにより提唱されたもので、認知症の人を1人の人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行おうとする認知症ケアです。つまり、認知症を抱える人の葛藤は様々で、それによってケアの仕方は異なります。レビー小体型認知症だからこれといった単一的な治療法ではなく、多くの疾患と複雑に絡み合う病態を理解しながら、一つひとつの病態に対し向き合うことが大切です。

先生が認知症ケアとして推奨されている非薬物療法には、どのようなものがありますか?

まず、レビー小体型認知症の臨床症状に応じた治療方針のアルゴリズムには社会的交流や環境刺激、認知行動療法、運動療法などがあります。ここで、私が監修している東京都新宿区の「健脳カフェ」では運動教室、“世代間交流会”や相談会、“音楽健康セッション”、“ガンマ波サウンドルーム”など、利用者が自発的に認知症ケアへ取り組めるような楽しい環境と活動内容を整えています。初期に認知障害が認められにくいレビー小体型認知症では、こういった環境に早くから参加することも、進行を食い止める一手となり得るでしょう。

そして、レビー小体型認知症を含む認知症のケアには、早期発見と早期対応が重要であることはもちろん、患者をもつ家族同士のピア活動を含めた幅広い視点で捉えることが大切です。

最後に、レビー小体型認知症を抱える方やその家族の方々へ、メッセージをお願いします。

検査技術の進歩や新薬の登場などもあり、この分野における情報は日々更新され続けています。ただ、現状ではレビー小体型認知症やアルツハイマー病といった診断名にとらわれることなく、人それぞれの病態におけるケアが最優先です。例え認知症になったとしても楽しく過ごせるような将来を目指して、いま出来ることから取り組んでみてはいかがでしょうか。

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