専門家の声
成城松村クリニック院長
松村圭子先生
30代からのペース・オブ・
エイジング対策は、
自分に合ったこと、できることを一つずつ。
30代女性の不調について教えてください。
30代はいわゆる「不定愁訴」(病気まではいかないものの、さまざまな不調)が起こりやすい時期です。人生の選択(結婚、妊娠、出産など)が自分の気持ちだけで思い通りにいかないことも多い時期なので、肉体的な不調だけでなく「イライラする」「落ち込む」といった、心の不調も多いのが特徴です。これらの不調は大きな症状ではないため見過ごされがちですが、仕事や人間関係に影響を及ぼすこともあるので注意が必要です。
老化は30代から始まると言われていますが、実は30代は普通にしていれば肉体的にも精神的にも健康に過ごせる世代です。「もう30代だからしょうがない」とあきらめるのではなく、50代、60代になった時に後悔しない30代の過ごし方をしてください。そのためには普段の生活習慣のどこに原因があるのか考えるきっかけにしてもらいたいですね。
忙しい30代、どのような生活習慣を心がければいいのでしょうか。
教科書にあるような「規則正しい生活なんてできない」という声をよく聞きますが、教科書から「いいとこ取り」して、自分が今すぐ出来そうなことから始めてみてはいかがでしょうか。例えば、夜は何時に寝てもいいから、代わりに「朝は決まった時間に起きる」。これならできるということを1つずつ増やしていく。最初から100点を目指すのではなく、まずは1つでいいので自分ができることを見つけて続けることが大切です。
私は毎日お酒を飲みます。なぜなら私にとってお酒は毎日のストレスをリセットするために欠かせないアイテムだからです。教科書的には休肝日が必要なことは理解していますが、そのせいでストレスを溜め込んで夜眠れなくなるくらいなら、(適量を)飲んでリセットした方が体調もいい。もちろんお酒を飲むからには、毎日の食事に気をつけて「帳尻合わせ」を心がけています。
ペース・オブ・エイジング対策としての
「食事・栄養」「運動」「睡眠」のポイントを教えてください。
食事・栄養
30代は朝の欠食が多いので、まずは「朝とりあえず何か口に入れるようにする」だけでもいい。もちろん食べたくなければ食べなくてもいい。その時は本来お腹が空くはずの朝になぜ食べたくないのかを考えてください。例えば、夜に食べ過ぎているならそこを見直してみる。朝食が食べられるようになったら、今度はタンパク質を必ず摂る、納豆を食べるなど、できることを少しずつ増やしていく。心と体が元気になっていけば、さらにいろいろできるようになります。
栄養バランスを整えるという点ではサプリメントの活用も有効です。よく、メディアで話題の新しい成分を摂る人がいますが、栄養の桶理論*からいうと、ベースとなるビタミンやミネラルが不足している場合、「ざるに水」を入れるようなものです。まずはベースとなるビタミン、ミネラルをしっかり補充することが基本です。その上で、自分に何が不足しているのかを見極めて、必要なものをトッピングする使い方がよいでしょう。
- *…栄養の桶理論
- 健康維持には様々な栄養素が必要となるが、そのうち最も不足している栄養素(桶の最も短い板)が全体の健康を決めるという考え方。
「リービッヒの最小律」、「ドベネックの桶」という名称で知られている。
運動
ヨガやピラティスなど、どうしても”カッコいい運動”をしたがる人が多いのですが、続けられずストレスになるくらいならやめてもいいと思います。それよりも、日常生活の中でちょこちょこやる運動の方が、心の負担も少ないし、継続にもつながるのでおすすめです。私は、「料理は運動」と捉えていて、買い物、準備、調理、後片付けの中で意識的に体を動かすようにしています。それだけでも十分な運動になります。まずは日常の延長の中で体を動かしてみることが大切です。
睡眠
睡眠は寝ている間に(何もしなくても勝手に)心身を回復してくれるとても大切な時間です。この貴重な時間を無駄にしないでください。そのためには枕元にスマホを持ち込まない。スマホを見るとブルーライトの刺激で脳が「朝」と勘違いして覚醒します。入眠前のスマホはエスプレッソ2杯分の覚醒効果があるとも言われているので注意が必要です。
お風呂の入り方にもコツがあります。就寝時間から逆算して1~2時間前に入浴を済ませると、体温が下がるタイミングでスムーズに入眠することができます。寝間着はできればTシャツにスウェットではなく、寝返りを打ちやすいパジャマにしましょう。寝返りを打つことで就寝中の疲労が軽減されます。また、パジャマを着るという行動が、寝る前の儀式、ルーティンのような効果をもたらしてくれます。
最後に30代の皆さんにメッセージをお願いします。
PoA対策の「食事・栄養」「運動」「睡眠」に加えて欲しいのが「ときめき」です。例えば、「推し」のイベントに行く、気になっていたカフェでお茶をする、ネットショッピングではなくウィンドウショッピングをする。このような「ときめき」を伴う行動は、五感を複数刺激して、心と体によい効果をもたらしてくれるはずです。
いずれにしても、いきなりすべての生活習慣を改善することは難しいと思います。まずは日常生活の中にいろいろな選択肢があることを知って、自分に合ったこと、できることを一つずつ取り入れることから始めていくことが大切です。それがペース・オブ・エイジング対策にもつながっていくと思います。
Profile
成城松村クリニック院長
松村圭子先生
広島大学医学部卒業。広島大学医学部附属病院(現広島大学病院)などでの勤務を経て、現職。若い世代の月経トラブルから更年期障害まで、女性のカラダをトータルサポートしている。生理日管理を中心としたアプリ「ルナルナ」、女性特有の体温リズムを自動計測するデバイス&アプリ「わたしの温度」の顧問医。西洋医学のほか、漢方薬やサプリメント、各種点滴療法なども積極的に治療に取り入れている。