2019年12月、スタンフォード大学などの研究チームは、ヒトの老化が時間とともに一様に進むのではなく、3段階で進んでいくことを発表＊しました。

研究は18歳から95歳の4,263人を対象に行われたもので、血液に含まれる2,925種類のタンパク質を分析したところ、34歳、60歳、78歳の3つの年齢をピークにして、タンパク質の急激な変化（増減）がドミノのように段階的に起こっていることが分かりました。タンパク質は、人体の中で細胞の成長、修復、機能維持に重要な役割を果たす成分で、ヒトの老化プロセスにおいて中心的な役割を果たし、生物学的年齢にも大きな影響を与えていると考えられます。

老化が時間に伴い一定のペースで進むのではなく、30代から3つの段階で進むことが明らかになったことで、アンチエイジングは老化に抗う「抗老化」から、老化のペースを30代からコントロールする「ペース・オブ・エイジング（PoA）」の時代を迎えようとしています。

＊…Nat Med. 2019 December ; 25(12) : 1843-1850.

PoA研究の中でも特によく知られているのが「ダニーデン研究」です。

ニュージーランドのダニーデン地方で1972～1973年に生まれた1,037人の健康状態の追跡調査を行い、19のバイオマーカーを用いて健康状態を調べたところ、26歳から45歳までの20年間で、老化が1年に0.4歳しか進まない人と、2.44歳も進む人がいることが明らかになりました＊。成人期以降、ヒトによっては最大で6倍も老化速度（ペース・オブ・エイジング）に差があることになります。

また、同じ暦年齢でも老化速度が遅い人ほど「見た目」が「若見え」し、速い人ほど「老け見え」することも確認されています＊。

私たちの「見た目」は、ただの「外見」ではなく、身体が発する「ペース・オブ・エイジング（PoA）」の大切なメッセージと考えた方がよさそうです。

＊…Nat Aging. 2021 March ; 1(3) : 295-308.

デンマークの70歳以上の双子1,826人を対象にした研究では「見た目」と寿命の関係が明らかにされています。

研究に参加した双子の写真を41人の男女（看護師など）に見てもらい、何歳に見えるかを判定してもらったところ、双子のうち「老け見え」している方が先に亡くなり、「若見え」している方が長生きしていることが分かりました＊。

双子は同じ遺伝的背景を持つため、研究で明らかにされた寿命の差は遺伝ではなく生活習慣によるものと考えてよいでしょう。「見た目」をケアする日々の選択によって、「ペース・オブ・エイジング（PoA）」はコントロールできるということです。「若見え」も「老け見え」もすべては私たちの生活習慣次第ということになりそうです。

＊…BMJ. 2009 December ; 339 : b5262.