Chapter02
今、注目の成分
「紅茶ポリフェノール」
紅茶の特徴である色や風味のもと
「ポリフェノール」
紅茶の葉には健康・美容にさまざまな効果がある「ポリフェノール」がたっぷり
リラックス、気分転換、おしゃべりや食事のお供、仕事中など、様々なシーンに登場する紅茶。イギリス、トルコ、インド、そして日本など、世界中で愛されています。紅茶を楽しむ大きな理由は、おいしいからでしょうか。渋みやほのかな苦味が紅茶の特徴ですが、それに寄与しているのが「ポリフェノール」という成分です。紅茶の葉にはポリフェノールがたっぷり含まれています。だからおいしいとも言えるのですが、実は風味に関係しているだけではありません。ポリフェノールは、私たちの健康や美容にも大いに関わっています。
ABOUT POLYPHENOL そもそも「ポリフェノール」ってなに?
ポリフェノールは、植物に多く含まれる天然の化合物群の総称です。紅茶だけでなく、緑茶やブルーベリー、赤ワイン、大豆など、さまざまな植物、食品に含まれており、種類は数千以上にものぼります。もともとポリフェノールは、植物自身が紫外線や害虫、菌などから自分の身を守るために作り出した天然の抗酸化物質。多くのポリフェノールが、構造的に抗酸化に働きやすい性質を備えています。「フェノール性水酸基(–OH)」が複数(ポリ)くっついた構造をしており、この–OHが活性酸素(フリーラジカル)に電子や水素を与えて無害化することで、抗酸化作用を示すのです。ポリフェノールという名前も、この構造に由来しています。
クルクミン
エラグ酸
ポリフェノールの特徴
- 植物の色や苦味、渋味の成分
- 例)紅茶の色や渋み、赤ワインの渋味、ブルーベリーやなすの皮の色、緑茶の渋味など。
- 数千種類以上存在
- 植物・食品に含まれているので、食品や飲料を通じて摂取することができる。
- 構造的に抗酸化に働きやすい性質
- 活性酸素を無害化できるフェノール水酸基(–OH)を複数持つ構造であるため。 フェノール水酸基(–OH):フェノール酸に水酸基(–OH)が結合した化合物
主なポリフェノールの種類と含まれる食品・植物
- カテキン
- 緑茶
- テアフラビン
- 紅茶
- テアルビジン
- 紅茶
- テアシネンシン
- 緑茶、ウーロン茶、紅茶
- カカオフラバノール
- カカオ豆、ダークチョコレート
- クロロゲン酸
- コーヒー、なす、じゃがいも
- アントシアニン
- ブルーベリー、なすの皮、赤ワイン
- レスベラトロール
- 赤ブドウの皮、桑の実
- エラグ酸
- ざくろ
- ルチン
- そば、柑橘の白いワタ
- イソフラボン
- 大豆、豆乳、味噌、納豆
- リグナン
- ごま、亜麻仁、全粒穀物
- クルクミン
- ウコン
- ケルセチン
- タマネギ、リンゴの皮、ケール 他
「紅茶ポリフェノール」が注目されるワケ
「紅茶ポリフェノール」で、健康でキレイが叶う!?
健康・美容効果に関する論文が続々
ここ数年で「紅茶ポリフェノール」の健康・美容への効果についての研究論文が次々に発表されています。紅茶ポリフェノールの代表選手であるテアルビジンやテアフラビンには脂質の吸収を抑えたり、腸内細菌叢を改善したり、細胞に働きかけることがわかってきました。紫外線から肌を守ってシミやたるみを防ぐ美容効果も期待されています。
【論文件数】 PubMed:(black tea) AND (benefit)
食事から摂る中性脂肪を体外に排出(脂肪吸収抑制)
紅茶ポリフェノールと一緒に食事を摂ると、食べ物に含有される脂肪の消化吸収が抑えられて、体外に排出されることが、臨床試験によって示されています。 食べ物に含まれる脂質の多くを占める中性脂肪は、乳化、分解されて小腸から吸収されますが、紅茶ポリフェノールはリン脂質と相互作用し、また消化酵素リパーゼの働きを妨げて、中性脂肪の乳化と分解を阻害します。これにより、食事からの中性脂肪の吸収を抑制するのです。
足海洋史ら、紅茶ポリフェノール高含有紅茶飲料の高脂肪食負荷における血中中性脂肪値上昇抑制効果の検討―プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験―(第二報)薬理と治療、2016、44(3):453-61
抗肥満/血糖値・コレステロール値を改善
テアフラビンを含む紅茶抽出物は、太りすぎの人々の体重を減少させ、健康な成人の耐糖能を改善することが、無作為化比較試験で認められました。テアフラビンには、脂質吸収を減らし、食欲を抑え、エネルギー代謝改善(AMPK活性化)や腸内細菌叢の調節などに作用して、抗肥満に働くと考えられます。また、高コレステロール血症や脂肪肝の改善、インスリン感受性を向上させて血糖値を上がりにくくするなど、幅広く有益な働きをする可能性があります。
Yi Fang et al., The Antiobesity Effects and Potential Mechanisms of Theaflavins, J Med Food, 2024 Jan;27(1):1-11
便秘改善(腸内細菌叢を調整)
紅茶ポリフェノールの一種であるテアフラビンは腸内細菌叢に作用して、便秘を改善することが確認されています。テアフラビンはほとんどが小腸で吸収されずに大腸に届き、短鎖脂肪酸を産生する菌や腸内バリア機能に関与する菌等を増やし、腸内細菌叢の構成を整えて便秘を改善することがマウス試験で示されました。また、ホルモン等生理活性物質の働きを回復させる作用も確認されています。
Tingbo Wu et al., Theaflavin-3,3'-digallate (TF3) attenuated constipation by promoting gastrointestinal motility and modulating the gut microbiota: A comparative study of TF3 and the anti-constipation drug mosapride in mice, Food Chem, 2025 Feb 15;465(Pt 2):142048
新型コロナ、インフルエンザから守る(抗ウイルス作用)
テアフラビンに、新型コロナウイルスのエリス株(EG.5.1)、オミクロン株(HV.1)と細胞が結合するのを妨げる働きがあることが確認されました。また、濃縮テアフラビン及びカテキンを含む茶抽出物によって、インフルエンザAウイルスの感染能力とウイルス粒子が減少することも示されています。いずれもヒトでの有効性はまだ報告されていませんが、新型コロナ、インフルエンザの症状を緩和したり、予防する可能性があります。
Chung-Kuang Lu et al., The Inhibiting Effect of GB-2, (+)-Catechin, Theaflavin, and Theaflavin 3-Gallate on Interaction between ACE2 and SARS-CoV-2 EG.5.1 and HV.1 Variants, Int J Mol Sci, 2024 Aug 31;25(17):9498. Israa M A Mohamed et al., In vitro virucidal activity of the theaflavin-concentrated tea extract TY-1 against influenza A virus, Nat Med, 2022 Jan;76(1):152-160
肌の美しさを守る!紅茶ポリフェノールの抗酸化力
ポリフェノールの例にもれず、紅茶ポリフェノールにも強力な抗酸化力があります。試験結果(in vitro)から、塗布での肌への美容効果が示されており、紅茶ポリフェノールの化粧品などへの応用が期待されています。
シミの生成から守る
テアフラビンが、メラニンを合成する酵素(チロシナーゼ)の働きを阻害し、シミの生成を抑えることが確認されました。抗酸化作用やUVカットにも有効であることが示されており、肌の光老化や皮膚がん予防への応用も期待されています。
Jianmin Chen et al., Evaluation of anti-tyrosinase activity and mechanism, anti-oxidation and UV filter properties of theaflavin, Biotechnology and Applied Biochemistry, 2021, 69(3)
紫外線から肌を守る(シミ・しわの抑制)
テアフラビン、特にテアフラビンの一種であるTF3‘Gが、皮膚細胞の光老化と本質的な老化を阻害する可能性が示唆されています。TF3‘Gは紫外線を吸収して細胞を守り、また細胞恒常性の維持を通して、表皮を細胞死や細胞壊死から守ると考えられます。
Xin Zheng et al., Anti-damage effect of theaflavin-3′-gallate from black tea on UVB-irradiated HaCaT cells by photoprotection and maintaining cell homeostasis, Journal of Photochemistry and Photobiology B: Biology, 2021, Volume 224, 112304
「紅茶ポリフェノール」の主な種類
テアルビジン、テアフラビン
紅茶の葉にはいくつものポリフェノールが含まれるその総称が「紅茶ポリフェノール」
「紅茶ポリフェノール」とは、紅茶の葉が含有する特有のポリフェノール群のことです。紅茶の葉にはいくつもの種類のポリフェノールが含まれており、それぞれに異なる構造を持ち、さまざまな働きをしています。一つひとつに名前が付けられていますが、その総称が紅茶ポリフェノールです。
代表的な紅茶ポリフェノールは、テアフラビン、テアルビジン
数ある紅茶ポリフェノールの代表とも言えるのが、
「テアフラビン(Theaflavins)」と「テアルビジン(Thearubigins) 」です。
色素と風味を生み出す
紅茶ならではの色合いや風味があるのは、この代表的な2種類のポリフェノールが存在しているからです。テアフラビンは紅茶の明るい赤色と適度な渋みを、テアルビジンは濃い赤褐色とコク・深みを生み出しています。つまり、紅茶らしい赤い色味が濃いほどに、この2つのポリフェノールが多いと考えられるでしょう。
健康・美容に役に立つ
色・味に関与しているだけではありません。テアフラビンとテアルビジンはいずれも抗酸化作用を持ち、健康や美容に効果を発揮する可能性が、さまざまな研究から明らかになっています。
major-polyphenols主な紅茶ポリフェノール
全ポリフェノールの
テアフラビン
R1 = H / OH
R2, R3, R4 = H / galloyl(没食子酸エステル)
テアルビジンは、構造が複雑な高分子の混合物で、単一の分子構造が確定していない。
「紅茶ポリフェノール」の秘密は分子にアリ?!
分子が大きいから、腸管や消化酵素の表面で作用する
「紅茶ポリフェノール」の大きな特徴の一つが、分子が大きいこと。お茶の葉を発酵させたものが紅茶の葉ですが、発酵の過程でカテキン(茶ポリフェノール)の分子が2個以上結合(重合)して紅茶ポリフェノールができるため、分子が大きくなるのです。そして、大きな分子は血中に入りにくいため、紅茶ポリフェノールは腸管や消化酵素の表面で作用することになります。 紅茶ポリフェノールには、脂質吸収の抑制、消化酵素の阻害、腸内細菌叢の変化誘導などの働きがありますが、いずれも腸管や消化酵素の表面で作用するということが重要なポイントです。また、紅茶ポリフェノールの大きな分子は、細胞にくっついて腸管粘膜を刺激し、血流促進などに作用するような細胞膜スイッチを入れる役割を果たしている可能性も考えられています。
茶カテキンとテアフラビン類の化学構造図
茶カテキン
R2, R3, R4 = H / galloyl(没食子酸エステル)
紅茶ポリフェノールになる
紅茶ポリフェノール
(テアフラビン)
例えば... 腸管で、そして消化酵素表面で作用することで、脂質吸収を抑制
食事から摂取した脂質は、通常は腸管でリン脂質によって乳化され、消化酵素(リパーゼ)によって分解されてから、腸の細胞に吸収されます。しかし、ここに紅茶ポリフェノールが加わると、リン脂質に結合して乳化を解除し、さらに消化酵素の表面でリパーゼの活性を阻害して分解を防ぐことで、脂質吸収を抑制します。
紅茶ポリフェノール(BTPP)が脂質吸収を抑制する仕組み
通常の脂質吸収の仕組み
例えば...大腸まで届くから、腸内細菌叢の変化を誘導
分子が大きい紅茶ポリフェノールは、途中で吸収されることなく大腸に届きます。そのため、腸内細菌叢の変化を誘導することができます。